88 / 106
Phase:4.5 最高機密指定『徳永文書』
『徳永文書』 Part 1
しおりを挟む
公務員とは公人である。公人とは、利益を追及せず全体の奉仕者となることを日本国憲法に誓った者である。
職を離れるその日まで、あるいは離れてからも形を変えて、他人の幸せを我が身の喜びとする者たちのことである。
そんな彼らが扱う文書は二種類ある。公文書と私文書だ。前者は主に彼らが仕事で作る文書、後者はそれ以外の私的な書類を指す。
つまり公文書とは、公務員が公人として公的な内容を記したもの。固有の番号が割り振られたり公印が押されたりしているものは当然だが、広義では個人が取ったメモ書き程度の記録まで公文書として扱われる。
「市川晴海――彼女は完全自律型AI〈エンプレス〉に肉体を奪われ、人類史上初のデータ人間となった。この映像は、彼女が逢桜町の広報担当となってからインターネット上で配信が始まったものだ」
『説明しろ。お前は状況を正しく認識していながら、なぜその映像が町外へ流出・拡散することを黙認している?』
「泳がせておけ、と他ならぬあなたのご指示があったもので。おかげで国家の一大事は豪華な劇場型エンタメに昇華、国民は考察ごっこに熱を上げてお祭り騒ぎ。まったくもって嘆かわしいよ」
『ふん……心にもないことを』
この先三年、累計で四年間にわたり宮城県逢桜町で続く一連の混乱。当時、対外的にも見えていた「表」の状況を「裏」の行政の動きと絡め、発災から終息に至るまでを克明に記録した国の公文書に、通称『徳永文書』と呼ばれるものがある。
関係者の証言をもとに、行政用の生成AIが俯瞰視点から内容を再構成したもので、当時この町で指揮を執った職員の名を取りそう呼ばれるようになった。
『まあいい、引き続きその女も動向を監視しろ。それと――アレはおとなしくしてるだろうな?』
「びっくりするほどいい子だよ。私の『命令』にもちゃんと従う。現役引退後はうちの職員にスカウトしたいくらいだ」
『……正気か?』
「もちろんだとも。我々とは長いつき合いなんだ、いっそ行くところまで行ってもらうのも手だと思うがね」
なお、当該文書の作成は当時の日本国首相・小野瀬榛名の意向によるものといわれているが、真相は不明である。
はっきりしているのは、この『徳永文書』がのちに機密指定を受け、当時を知る貴重な資料として取り扱われるに至ったほど重要なものであるということだ。
「私からも、正気を疑いたくなる話を一つ。高野君があれを激怒させた」
『えっ、ちょ……大丈夫かそれ!? 防衛大臣からは死人出たって報告来てないが、お前がごまかしたんじゃないだろうな!』
「うんにゃ? そげなこつしたら大事にないもすぞ」
『唐突に薩摩言葉しゃべり出すのやめろ、だから胡散臭いって言われるんだよお前! もういいから〈テレパス〉切って仕事戻れ、じゃあな――徳永』
「はいはい。そちらも抜け目のない国会答弁お願いしますよ、小野瀬総理大臣」
すべては、この町に暮らす人々のために――。
『徳永文書』が示すのは、町民があずかり知らぬもうひとつの戦い。様々な想いを胸に駆け抜け、最後まで社会の守護者たらんとした人々の記録である。
職を離れるその日まで、あるいは離れてからも形を変えて、他人の幸せを我が身の喜びとする者たちのことである。
そんな彼らが扱う文書は二種類ある。公文書と私文書だ。前者は主に彼らが仕事で作る文書、後者はそれ以外の私的な書類を指す。
つまり公文書とは、公務員が公人として公的な内容を記したもの。固有の番号が割り振られたり公印が押されたりしているものは当然だが、広義では個人が取ったメモ書き程度の記録まで公文書として扱われる。
「市川晴海――彼女は完全自律型AI〈エンプレス〉に肉体を奪われ、人類史上初のデータ人間となった。この映像は、彼女が逢桜町の広報担当となってからインターネット上で配信が始まったものだ」
『説明しろ。お前は状況を正しく認識していながら、なぜその映像が町外へ流出・拡散することを黙認している?』
「泳がせておけ、と他ならぬあなたのご指示があったもので。おかげで国家の一大事は豪華な劇場型エンタメに昇華、国民は考察ごっこに熱を上げてお祭り騒ぎ。まったくもって嘆かわしいよ」
『ふん……心にもないことを』
この先三年、累計で四年間にわたり宮城県逢桜町で続く一連の混乱。当時、対外的にも見えていた「表」の状況を「裏」の行政の動きと絡め、発災から終息に至るまでを克明に記録した国の公文書に、通称『徳永文書』と呼ばれるものがある。
関係者の証言をもとに、行政用の生成AIが俯瞰視点から内容を再構成したもので、当時この町で指揮を執った職員の名を取りそう呼ばれるようになった。
『まあいい、引き続きその女も動向を監視しろ。それと――アレはおとなしくしてるだろうな?』
「びっくりするほどいい子だよ。私の『命令』にもちゃんと従う。現役引退後はうちの職員にスカウトしたいくらいだ」
『……正気か?』
「もちろんだとも。我々とは長いつき合いなんだ、いっそ行くところまで行ってもらうのも手だと思うがね」
なお、当該文書の作成は当時の日本国首相・小野瀬榛名の意向によるものといわれているが、真相は不明である。
はっきりしているのは、この『徳永文書』がのちに機密指定を受け、当時を知る貴重な資料として取り扱われるに至ったほど重要なものであるということだ。
「私からも、正気を疑いたくなる話を一つ。高野君があれを激怒させた」
『えっ、ちょ……大丈夫かそれ!? 防衛大臣からは死人出たって報告来てないが、お前がごまかしたんじゃないだろうな!』
「うんにゃ? そげなこつしたら大事にないもすぞ」
『唐突に薩摩言葉しゃべり出すのやめろ、だから胡散臭いって言われるんだよお前! もういいから〈テレパス〉切って仕事戻れ、じゃあな――徳永』
「はいはい。そちらも抜け目のない国会答弁お願いしますよ、小野瀬総理大臣」
すべては、この町に暮らす人々のために――。
『徳永文書』が示すのは、町民があずかり知らぬもうひとつの戦い。様々な想いを胸に駆け抜け、最後まで社会の守護者たらんとした人々の記録である。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる