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Phase:04 動き出した歯車
Side B - Part 7 サッカーファミリー
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Side B "Kimitaka"
* * * * * *
「女性不信に恐怖症だと? 私と澪は今朝、普通に会話できていたぞ」
「容体については、あらかじめ良平君から話を聞いて知ってはいた。現在は日常生活にほぼ支障ないレベルまで回復している、という話だったが……」
「しーちゃむが触ったからだけど、支障ありまくりじゃん」
「女性に触れられたことで過去のトラウマが再燃し、フラッシュバックが起きたのだろう。心的外傷後ストレス障害、PTSDの典型的な症状だ」
川岸の親父さんが駐車場から車を持ってくる間に、オレと川岸、水原、工藤の女子三人は昇降口に戻り、生徒会がまとめてくれたっていう荷物を探した。
一年の靴箱近くで見つけた四つのカバンに、荒らされた形跡はない。変なシミや臭いも奇跡的についてない。よかったー!
荷物を引き取り、四人で徳永さんの元に戻ったあとは、高野さんを監視しつつみんなで話しながら時間を潰すことにした。今の話はその時聞いたものだ。
「大家さんが、PTSD……」
「正一君は首都直下地震で多くのものを喪い、彼自身も負傷している。あの様子では、おそらく被災後に身体のことでなじられた経験があるのだろう」
「ンだよ、それ……ハネショーは全然悪くないだろ! なんでケガしたことを責められるんだ、誰だよその女!」
はらわたが煮えくり返るってのは、こんな感情を指すんだな。オレにとってハネショーは尊敬する選手の一人ではあるけど、りょーちんほどの愛着はない。
でも、スポーツ界では競技に関わる人全員を仲間、ファミリーとみなす考え方がある。オレもそうした考えのもと、小林公望という選手を構成するすべてに感謝しろと指導を受けてきた。
「静まれ、大林。お前がキレても過去は変わらない」
「わかってるよ水原、あと〝小林〟!」
だから、ハネショーの苦しみはオレにとっても自分事。独りよがりだと言われても、オレは自分に関わったすべての人にずっと笑っていてほしい。
りょーちんだってそうだ。ハネショーが傷つけば、その涙に最推しも心を痛める。反省の色なく故意だと明言されたことで、高野さんに対するオレの怒りと不信感は頂点に達していた。
「……あたし、大家さんに謝らなきゃ。そんな事情抱えてるって知らなくて。今朝、女の人に囲まれて動けなかったって聞いた時、無神経に聞き流して……!」
「そんな気にしなくて良くない? 女のコってだけで無理なら、視界に入った時点で『来るな!』って言うっしょ。みおりんは信用されてたんだよ」
「工藤さん……」
と、ここで川岸が急に泣き出した。ワケを訊くと、どうもハネショーとの間で配慮に欠けたやり取りをしちまって、そのことを気にしているらしい。
結果だけ見れば、確かに「知らなかった」じゃ済まされないな。でも、相手は女の人が苦手なこと黙ってたんだろ? それって、どうしようもなくないか?
「事情を知らなければ、私たちが変な意識や先入観に囚われることはない。大家だから、障害者だからと身構えられるのが嫌だったのだろう」
「水原君、といったか? 彼女の言うとおりだ。正一君はキミたちを信頼しているからこそ、自らの問題を秘密にしていた。事情を知らなかったことに起因する当時の発言や、その選択を悔いる必要はない」
「でも、あたしは――」
「変に気ィ遣って態度変えられても、かえって失礼だしムカつくんだーよ。てめえらはこれからも知らない体で接しろ。いいな」
声のするほうに目を向けると、りょーちんたちがいつの間にか車外に出ていた。赤く泣き腫らした目、トゲのある物言いとは裏腹に、ハネショーはどこか吹っ切れたような顔をしている。
「大家さん!」
「ほら、さっさと帰っぞシャルル。なんか疲れたし腹減った」
「はいはい。社長さんの仰せのままに」
「贅沢言わねえから、冷凍食品で簡単に済ますぞ。お前秘蔵の浜名湖うなぎ(天然)とか、金目鯛の煮つけとかあるだろ」
「……ショウ、おまえそれマジで言ってんの?」
ひとまず、こっちは一件落着……ってコトでいいのかな。こりゃ前途多難だわ、と肩をすくめるりょーちんにハネショーが突っかかり、今度は明るい声が響く。
いつしかすっかり緊張は解け、その様子を少し離れた場所から見守るオレも、みんなも自然と表情を緩めていた。
* * * * * *
「女性不信に恐怖症だと? 私と澪は今朝、普通に会話できていたぞ」
「容体については、あらかじめ良平君から話を聞いて知ってはいた。現在は日常生活にほぼ支障ないレベルまで回復している、という話だったが……」
「しーちゃむが触ったからだけど、支障ありまくりじゃん」
「女性に触れられたことで過去のトラウマが再燃し、フラッシュバックが起きたのだろう。心的外傷後ストレス障害、PTSDの典型的な症状だ」
川岸の親父さんが駐車場から車を持ってくる間に、オレと川岸、水原、工藤の女子三人は昇降口に戻り、生徒会がまとめてくれたっていう荷物を探した。
一年の靴箱近くで見つけた四つのカバンに、荒らされた形跡はない。変なシミや臭いも奇跡的についてない。よかったー!
荷物を引き取り、四人で徳永さんの元に戻ったあとは、高野さんを監視しつつみんなで話しながら時間を潰すことにした。今の話はその時聞いたものだ。
「大家さんが、PTSD……」
「正一君は首都直下地震で多くのものを喪い、彼自身も負傷している。あの様子では、おそらく被災後に身体のことでなじられた経験があるのだろう」
「ンだよ、それ……ハネショーは全然悪くないだろ! なんでケガしたことを責められるんだ、誰だよその女!」
はらわたが煮えくり返るってのは、こんな感情を指すんだな。オレにとってハネショーは尊敬する選手の一人ではあるけど、りょーちんほどの愛着はない。
でも、スポーツ界では競技に関わる人全員を仲間、ファミリーとみなす考え方がある。オレもそうした考えのもと、小林公望という選手を構成するすべてに感謝しろと指導を受けてきた。
「静まれ、大林。お前がキレても過去は変わらない」
「わかってるよ水原、あと〝小林〟!」
だから、ハネショーの苦しみはオレにとっても自分事。独りよがりだと言われても、オレは自分に関わったすべての人にずっと笑っていてほしい。
りょーちんだってそうだ。ハネショーが傷つけば、その涙に最推しも心を痛める。反省の色なく故意だと明言されたことで、高野さんに対するオレの怒りと不信感は頂点に達していた。
「……あたし、大家さんに謝らなきゃ。そんな事情抱えてるって知らなくて。今朝、女の人に囲まれて動けなかったって聞いた時、無神経に聞き流して……!」
「そんな気にしなくて良くない? 女のコってだけで無理なら、視界に入った時点で『来るな!』って言うっしょ。みおりんは信用されてたんだよ」
「工藤さん……」
と、ここで川岸が急に泣き出した。ワケを訊くと、どうもハネショーとの間で配慮に欠けたやり取りをしちまって、そのことを気にしているらしい。
結果だけ見れば、確かに「知らなかった」じゃ済まされないな。でも、相手は女の人が苦手なこと黙ってたんだろ? それって、どうしようもなくないか?
「事情を知らなければ、私たちが変な意識や先入観に囚われることはない。大家だから、障害者だからと身構えられるのが嫌だったのだろう」
「水原君、といったか? 彼女の言うとおりだ。正一君はキミたちを信頼しているからこそ、自らの問題を秘密にしていた。事情を知らなかったことに起因する当時の発言や、その選択を悔いる必要はない」
「でも、あたしは――」
「変に気ィ遣って態度変えられても、かえって失礼だしムカつくんだーよ。てめえらはこれからも知らない体で接しろ。いいな」
声のするほうに目を向けると、りょーちんたちがいつの間にか車外に出ていた。赤く泣き腫らした目、トゲのある物言いとは裏腹に、ハネショーはどこか吹っ切れたような顔をしている。
「大家さん!」
「ほら、さっさと帰っぞシャルル。なんか疲れたし腹減った」
「はいはい。社長さんの仰せのままに」
「贅沢言わねえから、冷凍食品で簡単に済ますぞ。お前秘蔵の浜名湖うなぎ(天然)とか、金目鯛の煮つけとかあるだろ」
「……ショウ、おまえそれマジで言ってんの?」
ひとまず、こっちは一件落着……ってコトでいいのかな。こりゃ前途多難だわ、と肩をすくめるりょーちんにハネショーが突っかかり、今度は明るい声が響く。
いつしかすっかり緊張は解け、その様子を少し離れた場所から見守るオレも、みんなも自然と表情を緩めていた。
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