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1人目 眠るまでは今日である
夢も理想も置いていこう
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結局眠れずに、僕はふらりと散歩に行った。
これが、僕の転機だったのかもしれない。
駅までの道のりに公園があった。ジャングルジムとすべりだいのある小さな公園。あそこまでいって帰ろう。じんわりと汗をまたかいていた。
ゆっくりと歩く。賑やかな声が遠くから聞こえてきた。飲み会帰りの学生だろうか。今は会いたくないな。誰だとしても。学生には会いたくないのだ。
諦める以前に、たちきられてしまった未来を思い出すから。
あんな目標をたてておいて、未練がましい。
いや、大学を除籍になってほんの少し前じゃないか。1ヶ月も経っていない。下手したら3週間も経ってないだろう。
近づいてくる、楽しそうな声に嫌気を感じ辺りを見回す。
時雨心地の看板だった。
真っ暗な道に、穏やかな光がシェードから溢れている。開いているのだろう。
チューハイを買い足すような金はないと思っていたくせに、いまの気持ちを落ち着かせたくて店へと入る。安いものを頼んで、すぐ帰ろう。
「いらっしゃいませ。あ、夕方ぶりだ。」
お客さんがいない店内であの男はのんびりと本を読んでいたようだ。顔を上げて、いつもの笑顔を向けてくれた。
「こんばんは。」
「うん、こんばんは。テーブルでもカウンターでも好きなところにどうぞ。」
そう言われて、ドアから遠いテーブルに座る。
置いてあるメニュー表を恐る恐るみると、価格は良心的だった。安心して顔を上げると、オレンジ色を帯びた柔らかい灯りに包まれた店内が広がった。
カウンター側をみると、コーヒーを淹れる機械や綺麗な食器が並んでいるのが見えた。レジスターの側には、ハンドメイドだろうかピアスのようなものと小さなぬいぐるみが売ってあるのがみえた。
「アイスココアでお願いします。」
「かしこまりました。」
コーヒーは飲めない。
りんごジュースを頼むよりは恥ずかしくないココアを頼む。
涼しい店内で、ゆっくりと一息つく。
灯りの優しさは、あの人のようだった。
「お水でも飲んで待っててね。」
氷の入った水を持ってきた男をみると、名札が目にはいる。雨音というらしい。
頭を下げて、ソファに沈むように座り直す。
穏やかな光と、穏やかなBGM。
雨音さんの、低く優しい鼻歌が聞こえてくる。
不思議な店だ。
行ったこともないのに、懐かしく感じた。
どこよりも心を落ち着かせることができる。
父親の声も、電話越しに聞こえる母親の不安そうな声も。残高や、弟の謝罪も。
全部が嫌でたまらなかった、あの瞬間を。
今は、ここに置いていけるような気がした。
これが、僕の転機だったのかもしれない。
駅までの道のりに公園があった。ジャングルジムとすべりだいのある小さな公園。あそこまでいって帰ろう。じんわりと汗をまたかいていた。
ゆっくりと歩く。賑やかな声が遠くから聞こえてきた。飲み会帰りの学生だろうか。今は会いたくないな。誰だとしても。学生には会いたくないのだ。
諦める以前に、たちきられてしまった未来を思い出すから。
あんな目標をたてておいて、未練がましい。
いや、大学を除籍になってほんの少し前じゃないか。1ヶ月も経っていない。下手したら3週間も経ってないだろう。
近づいてくる、楽しそうな声に嫌気を感じ辺りを見回す。
時雨心地の看板だった。
真っ暗な道に、穏やかな光がシェードから溢れている。開いているのだろう。
チューハイを買い足すような金はないと思っていたくせに、いまの気持ちを落ち着かせたくて店へと入る。安いものを頼んで、すぐ帰ろう。
「いらっしゃいませ。あ、夕方ぶりだ。」
お客さんがいない店内であの男はのんびりと本を読んでいたようだ。顔を上げて、いつもの笑顔を向けてくれた。
「こんばんは。」
「うん、こんばんは。テーブルでもカウンターでも好きなところにどうぞ。」
そう言われて、ドアから遠いテーブルに座る。
置いてあるメニュー表を恐る恐るみると、価格は良心的だった。安心して顔を上げると、オレンジ色を帯びた柔らかい灯りに包まれた店内が広がった。
カウンター側をみると、コーヒーを淹れる機械や綺麗な食器が並んでいるのが見えた。レジスターの側には、ハンドメイドだろうかピアスのようなものと小さなぬいぐるみが売ってあるのがみえた。
「アイスココアでお願いします。」
「かしこまりました。」
コーヒーは飲めない。
りんごジュースを頼むよりは恥ずかしくないココアを頼む。
涼しい店内で、ゆっくりと一息つく。
灯りの優しさは、あの人のようだった。
「お水でも飲んで待っててね。」
氷の入った水を持ってきた男をみると、名札が目にはいる。雨音というらしい。
頭を下げて、ソファに沈むように座り直す。
穏やかな光と、穏やかなBGM。
雨音さんの、低く優しい鼻歌が聞こえてくる。
不思議な店だ。
行ったこともないのに、懐かしく感じた。
どこよりも心を落ち着かせることができる。
父親の声も、電話越しに聞こえる母親の不安そうな声も。残高や、弟の謝罪も。
全部が嫌でたまらなかった、あの瞬間を。
今は、ここに置いていけるような気がした。
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