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第24話 私に渦巻く醜い気持ち——霞SIDE
霞SIDE——
今日は土曜日——
私はその日、初めて恭介が働いているカフェを訪れた。
そこは小さいけど、ナチュラルでどこか洗練された雰囲気が漂う素敵なお店。
胸の奥に少しの緊張と大きな期待を抱えながら、私はそのカフェのドアをそっと押し開けた。
コーヒーの香りがふわりと鼻をくすぐる優しげな雰囲気の中、ふと視線が吸い寄せられる。そこにいたのは、整髪剤で前髪をすっきりと撫でつけた恭介だった。
……格好いい♡
私の鼓動はひときわ早くなる。
今すぐ駆け寄って行きたい気持ちを抑えてゆっくり彼の元へ近づいていく。
「恭介、お疲れ様……この前バイト先を教えてくれたから早速来てみたわ」
彼は少し驚いた表情をした後、すぐに対応をしてくれた。
しかも、彼がオススメしてくれたドリンクを私にそっとプレゼントしてくれた。
思わず胸がキュッとなってしまう。
それが嬉しくて、私は彼にもっと近づきたくなる。
だから私はカウンター越しにそっと背伸びして、彼の耳元で冗談めいた言葉を囁いた。本当はキスしたかったけど…
そんな時だった——
急に店内に女性の声が響いたかと思うと私の横に小柄な女性が立っていた。
「こら恭くん!この人だれ!!いまチューしようとしてたでしょ!!……」
私のしたかった事を見透かしたように、その人は彼を優しく叱りつけている。
………恭くん?
急に心がざわめき、私はつい言葉がきつくなってしまった。
「恭介?このとっても可愛い方はどなたかしら?」
少し動揺しながら彼は早口でその人の事を紹介してくれた。
彼女は神山唯《かみやまゆい》。恭介のバイト先の先輩で大学生らしい。
そんな彼女を見た私は焦りを覚える。
彼女は可愛い、それもすごく。しかも私と違い天真爛漫で自然と庇護欲をかき立てるような容姿をしている。こんな人が恭介の近くにいたなんて………
そんな考えを心にしまい込み彼女に挨拶をした。
その言葉には少し棘があったと思う。なのに彼女はそれを気にもせず私に話し掛けてきた。
「柴乃宮さんは恭くんとはどんな関係なの?……」
正直その質問に私はどう返すべきか悩んだ。
恭介の彼女ですと言えたらどんなに幸せだろう。
でも、私からそんな事を言うなんて図々しい真似出来るわけがない。
「私は恭介とはとっても親密な関係です」
これが限界だった。
それからも彼女から質問責めを受けたが、できる限り恭介への気持ちを混ぜて伝えた。恭介は少しオドオドしていたのは知っている。
そして彼が私のドリンクを作りにその場を離れた時だった——
「ふぅ、やっとお邪魔虫がいなくなったよ………で、柴乃宮さん。あなた恭くんの事好きでしょ?」
その可愛らしい顔立ちに似つかわしくない、静かで冷静な声が彼女の唇からこぼれ出した。
「えっ……!?」
「嘘ついてもムダ、わたしだって女だし年上だよ?見てればわかるよ」
「………」
私は驚いて声を失ってしまった。そんな私を真剣な顔で見つめながら彼女は続ける。
「もう一度聞くけど、柴乃宮さんは恭くんの事好きなの?彼には言わないから教えて」
「………はい」
「じゃあこれだけは言っとくね。もしこれから先、恭くんを悲しませるような事をしたら……私、許さないから」
彼女の強い圧に少し身体がすくむ。ただ私だってそんな事するつもりはない。
「そんな事はしません!」
「それならいいの。別に柴乃宮さんを脅そうとか思ってないよ、凄くいい子そうだし。彼の事を好きになるのも、付き合うのも自由だよ、ただ………」
彼女はほんの少しだけ表情を緩めるとそっと私に近づき、私だけに聞こえるような小さな声でこう告げた。
「私はあなたの知らない彼を沢山知ってるの。恭くんをあなたに渡すつもりはないから…私たち、ライバルだよ……」
その言葉は確実に私の心に突き刺さった。驚きで固まってしまった私を尻目に、彼女はカウンター奥へと消えていく。
「霞、ドリンク出来たぞ~」
暗い気持ちが渦巻きそうになる私を彼の声が引き戻してくれる。
私は恭介からドリンクの入った紙カップを受け取るとどうにか心を落ち着かせてカウンターに座った。そしてそれに口を付けようとしたその時、カップの側面に何やら書かれている事に気づく。
〔霞の初来店記念日6/○。来てくれてありがとう。ゆっくりしてってな〕
ふと彼に視線を向けると見慣れた笑顔がそこにあった。それは私しか知らない笑顔。
私は彼に声を出さず口元だけ微かに動かし伝えた。声に出さなければ伝わる事のない言葉を…
だ・い・す・き
————
その日の夜、恭介の為に料理を作りながらふと昔の事を思い出す——
————
私が恭介を気になりはじめたのは、彼が転校してきた高校一年の今頃。
その時はクラスに馴染めない彼の行動や雰囲気が、どこか昔の私に似ていて少し親近感を感じたってだけの理由。
そしてある日の学校の帰り道、たまたま帰り道にある公園で彼を見かけた。
彼は年端もいかない姉妹の些細な喧嘩の仲裁をしていた。
それもまるで自分の事のように真剣に彼女達と向きあって『家族』の大切さについて説いていた。
それからだ、私が彼に惹かれだしたのは。
今、彼と一緒にいる時間が私にとってかけがえないものになってきている。
日々を共にする中で彼の好きな所がどんどん増えていく。
時々自分の気持ちが抑えられなくなりそうになる。それが嬉しくて、そして怖い。
一年後、彼との契約が切れてしまったら私はひとりぼっちに……
だから今の関係を利用して彼にキスをせがんだり、なんてズルい女。
————
彼がバイトから帰ってきて私の作ったご飯を美味しそうに食べてくれたあと。
お風呂に向かうその背中を見送りながら私は胸の奥がチクチクして仕方なかった。
神山先輩から受けた言葉が心に刺さって抜けない。ひとりでいるとどんどん暗い感情が私を包んでゆく。それは酷く醜い感情。
嫉妬だ。
彼の側にいたい、そうすれば安心出来るから。その時間だけは彼を独占出来るから…
その気持ちが抑えられなくなった私は、ダメだとわかっていて彼のいる浴室に向かった。
彼に気づかれないように服を脱ぎ、そっと浴室と脱衣所の電気を消して彼の元へ…
もちろん彼は焦って出ようとした。けれどそんな彼の逃げ道を塞ぎ、私は夢中で彼にキスをした。
少しだけ大人しくなった彼に、私は恐る恐る神山先輩への気持ちを聞いてみる。
「別に何とも思ってないぞ?」
そんな彼の言葉に私は安心してしまう。なんて醜いんだろう。
それでも私の気持ちは満たされなかった。また彼にキスをする。強く、長く……
彼に身を寄せ、肌を重ねても足りない。彼と心も身体もひとつになりたい。
彼は私を買ってくれた。だから私は彼だけのモノ…………………
違う…………私は彼を私だけのものにしたいんだ…………
今すぐ好きだって言いたい。でも、彼はこんな時に言ったら私の気持ちに流されて本心を曲げてしまうかもしれない。私の事を彼が好きかなんて、こんな関係になった今じゃ余計わからない。
だから私は本能のままに彼を誘った。この一瞬でもいい、彼を私だけのモノにしたいから……
「エッチしよ………」
それでもなお、彼は優しかった。こんな私なんかを大事にしてくれた。
結局私はそんな彼が大好きなんだ。
そして長く湯に浸かって私の相手をしていた彼はのぼせてしまった……
私はすぐに彼を寝室に連れていき、横にさせて涼ませた。
そして、彼が目覚める前に彼の額にそっとキスをして伝える。
「恭介……大好き……」
その言葉が彼に届かなくても少し心は軽くなった。
ほどなくして何事もなかったのように彼は目覚めて、私たちはいつものように楽しい夜を過ごした。
これでいい、いつか彼にこの気持ちが伝わる日を私はずっと待ってる——
次回:ポニテ健康美女ってヒロイン枠だよね?
今日は土曜日——
私はその日、初めて恭介が働いているカフェを訪れた。
そこは小さいけど、ナチュラルでどこか洗練された雰囲気が漂う素敵なお店。
胸の奥に少しの緊張と大きな期待を抱えながら、私はそのカフェのドアをそっと押し開けた。
コーヒーの香りがふわりと鼻をくすぐる優しげな雰囲気の中、ふと視線が吸い寄せられる。そこにいたのは、整髪剤で前髪をすっきりと撫でつけた恭介だった。
……格好いい♡
私の鼓動はひときわ早くなる。
今すぐ駆け寄って行きたい気持ちを抑えてゆっくり彼の元へ近づいていく。
「恭介、お疲れ様……この前バイト先を教えてくれたから早速来てみたわ」
彼は少し驚いた表情をした後、すぐに対応をしてくれた。
しかも、彼がオススメしてくれたドリンクを私にそっとプレゼントしてくれた。
思わず胸がキュッとなってしまう。
それが嬉しくて、私は彼にもっと近づきたくなる。
だから私はカウンター越しにそっと背伸びして、彼の耳元で冗談めいた言葉を囁いた。本当はキスしたかったけど…
そんな時だった——
急に店内に女性の声が響いたかと思うと私の横に小柄な女性が立っていた。
「こら恭くん!この人だれ!!いまチューしようとしてたでしょ!!……」
私のしたかった事を見透かしたように、その人は彼を優しく叱りつけている。
………恭くん?
急に心がざわめき、私はつい言葉がきつくなってしまった。
「恭介?このとっても可愛い方はどなたかしら?」
少し動揺しながら彼は早口でその人の事を紹介してくれた。
彼女は神山唯《かみやまゆい》。恭介のバイト先の先輩で大学生らしい。
そんな彼女を見た私は焦りを覚える。
彼女は可愛い、それもすごく。しかも私と違い天真爛漫で自然と庇護欲をかき立てるような容姿をしている。こんな人が恭介の近くにいたなんて………
そんな考えを心にしまい込み彼女に挨拶をした。
その言葉には少し棘があったと思う。なのに彼女はそれを気にもせず私に話し掛けてきた。
「柴乃宮さんは恭くんとはどんな関係なの?……」
正直その質問に私はどう返すべきか悩んだ。
恭介の彼女ですと言えたらどんなに幸せだろう。
でも、私からそんな事を言うなんて図々しい真似出来るわけがない。
「私は恭介とはとっても親密な関係です」
これが限界だった。
それからも彼女から質問責めを受けたが、できる限り恭介への気持ちを混ぜて伝えた。恭介は少しオドオドしていたのは知っている。
そして彼が私のドリンクを作りにその場を離れた時だった——
「ふぅ、やっとお邪魔虫がいなくなったよ………で、柴乃宮さん。あなた恭くんの事好きでしょ?」
その可愛らしい顔立ちに似つかわしくない、静かで冷静な声が彼女の唇からこぼれ出した。
「えっ……!?」
「嘘ついてもムダ、わたしだって女だし年上だよ?見てればわかるよ」
「………」
私は驚いて声を失ってしまった。そんな私を真剣な顔で見つめながら彼女は続ける。
「もう一度聞くけど、柴乃宮さんは恭くんの事好きなの?彼には言わないから教えて」
「………はい」
「じゃあこれだけは言っとくね。もしこれから先、恭くんを悲しませるような事をしたら……私、許さないから」
彼女の強い圧に少し身体がすくむ。ただ私だってそんな事するつもりはない。
「そんな事はしません!」
「それならいいの。別に柴乃宮さんを脅そうとか思ってないよ、凄くいい子そうだし。彼の事を好きになるのも、付き合うのも自由だよ、ただ………」
彼女はほんの少しだけ表情を緩めるとそっと私に近づき、私だけに聞こえるような小さな声でこう告げた。
「私はあなたの知らない彼を沢山知ってるの。恭くんをあなたに渡すつもりはないから…私たち、ライバルだよ……」
その言葉は確実に私の心に突き刺さった。驚きで固まってしまった私を尻目に、彼女はカウンター奥へと消えていく。
「霞、ドリンク出来たぞ~」
暗い気持ちが渦巻きそうになる私を彼の声が引き戻してくれる。
私は恭介からドリンクの入った紙カップを受け取るとどうにか心を落ち着かせてカウンターに座った。そしてそれに口を付けようとしたその時、カップの側面に何やら書かれている事に気づく。
〔霞の初来店記念日6/○。来てくれてありがとう。ゆっくりしてってな〕
ふと彼に視線を向けると見慣れた笑顔がそこにあった。それは私しか知らない笑顔。
私は彼に声を出さず口元だけ微かに動かし伝えた。声に出さなければ伝わる事のない言葉を…
だ・い・す・き
————
その日の夜、恭介の為に料理を作りながらふと昔の事を思い出す——
————
私が恭介を気になりはじめたのは、彼が転校してきた高校一年の今頃。
その時はクラスに馴染めない彼の行動や雰囲気が、どこか昔の私に似ていて少し親近感を感じたってだけの理由。
そしてある日の学校の帰り道、たまたま帰り道にある公園で彼を見かけた。
彼は年端もいかない姉妹の些細な喧嘩の仲裁をしていた。
それもまるで自分の事のように真剣に彼女達と向きあって『家族』の大切さについて説いていた。
それからだ、私が彼に惹かれだしたのは。
今、彼と一緒にいる時間が私にとってかけがえないものになってきている。
日々を共にする中で彼の好きな所がどんどん増えていく。
時々自分の気持ちが抑えられなくなりそうになる。それが嬉しくて、そして怖い。
一年後、彼との契約が切れてしまったら私はひとりぼっちに……
だから今の関係を利用して彼にキスをせがんだり、なんてズルい女。
————
彼がバイトから帰ってきて私の作ったご飯を美味しそうに食べてくれたあと。
お風呂に向かうその背中を見送りながら私は胸の奥がチクチクして仕方なかった。
神山先輩から受けた言葉が心に刺さって抜けない。ひとりでいるとどんどん暗い感情が私を包んでゆく。それは酷く醜い感情。
嫉妬だ。
彼の側にいたい、そうすれば安心出来るから。その時間だけは彼を独占出来るから…
その気持ちが抑えられなくなった私は、ダメだとわかっていて彼のいる浴室に向かった。
彼に気づかれないように服を脱ぎ、そっと浴室と脱衣所の電気を消して彼の元へ…
もちろん彼は焦って出ようとした。けれどそんな彼の逃げ道を塞ぎ、私は夢中で彼にキスをした。
少しだけ大人しくなった彼に、私は恐る恐る神山先輩への気持ちを聞いてみる。
「別に何とも思ってないぞ?」
そんな彼の言葉に私は安心してしまう。なんて醜いんだろう。
それでも私の気持ちは満たされなかった。また彼にキスをする。強く、長く……
彼に身を寄せ、肌を重ねても足りない。彼と心も身体もひとつになりたい。
彼は私を買ってくれた。だから私は彼だけのモノ…………………
違う…………私は彼を私だけのものにしたいんだ…………
今すぐ好きだって言いたい。でも、彼はこんな時に言ったら私の気持ちに流されて本心を曲げてしまうかもしれない。私の事を彼が好きかなんて、こんな関係になった今じゃ余計わからない。
だから私は本能のままに彼を誘った。この一瞬でもいい、彼を私だけのモノにしたいから……
「エッチしよ………」
それでもなお、彼は優しかった。こんな私なんかを大事にしてくれた。
結局私はそんな彼が大好きなんだ。
そして長く湯に浸かって私の相手をしていた彼はのぼせてしまった……
私はすぐに彼を寝室に連れていき、横にさせて涼ませた。
そして、彼が目覚める前に彼の額にそっとキスをして伝える。
「恭介……大好き……」
その言葉が彼に届かなくても少し心は軽くなった。
ほどなくして何事もなかったのように彼は目覚めて、私たちはいつものように楽しい夜を過ごした。
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