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第90話 互いの心に触れる時……
まるで母親に抱かれて泣く子どものように、俺は霞の胸で泣きじゃくった——
やがて涙が枯れると、恥ずかしさがじわじわとこみ上げてきて、俺はそっと顔を離し少し気まずそうに霞に話しかける。
「霞、えっと……なんか、ありがとな……ちょっとダサい所見せちゃったよな……」
言葉に詰まり、どうにも上手く話せない俺は霞の顔を見られずに視線を逸らす。
照れ隠しのようにこめかみに手をやる俺に、彼女は穏やかに微笑みかけた。
その笑顔に俺の胸はほっとするような温かさに包まれた。
「ダサくなんてないわよ?私、嬉しかった……恭介を凄く近くに感じられて……だからもっと私のこと、頼ってくれていいんだよ?私はあなたの側にいるから」
「………そうか……まあ、ほどほどに……そうする」
「ふふっ♡ほどほどにね♡」
冗談めかしながらもそっと肩に寄り添ってくる彼女に、俺の胸はドキリと跳ねた。
頼れる存在……それがどれほど自分にとって必要だったか……
その安心を確かめるように俺は彼女の肩に腕を回して抱き寄せる。
ふたりだけの空間が今日はいつも以上に心地よい。
心を通わせること——それが、俺にはずっと欠けていたのかもしれない……
そんな思いが胸に広がる中、俺の中に新しい感情が芽生えていく。
霞の心に、もっと触れたい……彼女が俺にしてくれたように……
その思いを、どう伝えればいいのか迷いながらも、俺は気持ちのままに言葉を紡ぎ出した。
「なぁ霞……俺も、お前の事もっと知りたい……さっき言ってただろ?その、家族と色々あって頑張ってたって……嫌じゃなければ何があったか教えてくれないか?」
俺の問いかけに少し黙り込んだ彼女は何かを考えるように俺をじっと見つめ、そのままゆっくりと口を開く。
「そうね……私も、恭介に本当の私のこと、知っておいて欲しいわ……」
ほんの一瞬、空気が変わった気がした。
彼女の口元は相変わらず微笑んでいるのに、声のトーンにはわずかに切なさが混ざっている。
「私ね、本当はこんな優秀で真面目じゃないの。不器用で、弱くて……意気地無しなのが本当の私……私ね、凄く優秀なお姉ちゃんがいたの、私なんかじゃ絶対に勝てないくらいなんでも出来ちゃうお姉ちゃん……でも、中学に上がった時に事故で亡くなっちゃって……そこから私の家族はバラバラになり始めたの……」
俺から視線を外した彼女は、何かを思い出すように遠くを見つめながら静かに話し続けた。
「お姉ちゃんが亡くなってから、彼女を溺愛してたお父さんは私にお姉ちゃんの代わりになってほしいみたいで私に沢山習い事をさせてくれた……お母さんはそんなお父さんを見るのがイヤみたいで家族の会話のなくなっていったの……」
「…………」
「それで、私がお父さんとお母さんを繋ぐため……家族が壊れないために、お父さんの前では優秀なお姉ちゃんの代わりを演じて、お母さんの前ではお父さんとお母さんが話せるように進んで話を振ったり……でも、結局それは上手くいかなかった……そんな時にお父さんが借金を負っちゃってもう家族は崩壊寸前になっちゃった……」
「霞……」
言葉が出てこなかった。
形こそ違えど霞は俺と同じだ……家族を求め、心の奥で寂しさと戦ってる……
今まで気づかなかった。こんなにも近くに自分と同じ傷を持つ人がいたことに。
彼女の話に心が締めつけられる一方で、俺はどうしようもなく共鳴していた。
そして霞は俯いたまま静かに言葉を紡いでいく。
「私にとって……お姉ちゃんとの思い出だけが支えだったの。お姉ちゃんだけが本当私を知ってたから。その思い出の場所が借金のせいでなくなっちゃう……そう聞いて私は自分からウリをしようって思って……馬鹿よねほんと私って……」
「馬鹿って……そんな事……」
家族を守りたい……その想いは俺にも痛いほど分かる。
自分の無力さを思い知らされるたび胸が締めつけられる。
言葉にしようとした瞬間、不意に霞の視線が俺に向いた。
その瞳に吸い込まれるように俺は思考が止まってしまう。
やがて交わった視線の中で、彼女はそっと微笑んだ。
それは、どんな言葉よりも優しく美しい笑顔だった——
「でもね……そんな馬鹿な行動のせいで恭介に出会えたの。あなたに買われたおかげで今、私はここにいる。あなたは私の事を誰より大切にしてくれる。お姉ちゃんを演じていない本当の私にも寄り添ってくれる……私それが何より幸せだってやっとわかったの!」
その口調にはもう、悲しみの色がすっかり消えていた。
「私ね、今まで自分に自信がなくて自分なんてどうでもいいって思ってた……誰よりも不幸なのは自分だって、本気で思ってたの。でもあなたに出会って、その考えは変わった……私のことを必要としてくれて、心から支え合いたいって思える人に出会えて……本当の自分でいられる居場所が、新しい家族がやっと見つかったと思えたの……」
今、目の前にいるこの人こそが素のままの柴乃宮霞なのかもしれない……
そう感じた刹那、彼女の両手がやさしく俺の頬に触れる——
そのまま真っ直ぐに見つめられ、俺は彼女の言葉を待った。
「恭介……私を買ってくれて…私に寄り添ってくれて…私の居場所になってくれて……ありがとう……恭介、大好きだよ!本当に、本当に大好き!」
「霞っ……」
…………っ♡
まるで想いをぶつけるように、俺に飛びつき腕を絡めながら深く唇を重ねてくる彼女。
それはこれまでで最も長く、熱を帯びたキスで、彼女の言葉にできない感情がそのまま流れ込んでくるようだった。
やがて唇をそっと離すと、放心状態の俺を見つめながら彼女はやわらかく微笑み、そして静かに最後の言葉を口にした。
「恭介……私はいつか、あなたと本当の家族になりたいな」
その日、俺は初めて生徒会長の心に触れた気がした——
次回:私の新しい家族 霞SIDE——
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