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第2話
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春は容姿は完璧で、幼い頃からチヤホヤされてきた割には付け上がることはなく、謙虚な方だと思う。周りからの評判は良く、道徳心は備わっていると皆口を揃えて言うし、モテるからといってホイホイ転がるような奴ではないのだ。
それにこいつは、ストレートに愛情表現をしてくる。大好きや愛してるだなんて毎日言われていたし、それは嘘では無い。いや、無かったと信じたい。だが浮気が発覚して、それらが全て幻だったのかと残念な気持ちになった。
隣に腰を下ろして、俺はポツリと呟いた。
「別れるか」
素早く顔を上げた春は、涙をいっぱいに溜めた目を見開いた。
「えっ? 嘘でしょ? わ、別れるってしーちゃん、本気で言ってんの?!」
「どの口が言ってんだよ。浮気されたんだから、そんなん普通に考えるだろ」
「ちょ、え? マジで意味わかんない。わ、別れる? ははっ、ちょ待って、うふふ、冗談きっつー」
「怖ぇな、笑うか絶望するかどっちかにしろよ」
「……やだよ! 俺、しーちゃんのことが大好きなのに!」
「だったらなんで浮気したんだよ! こっちが狼狽えるわ!」
急な別れ話に、春は激しく動揺している。
本当に不思議な話だ。
二人の関係が冷めきっていたのなら分かる。だがそうじゃない。それに春の場合、俺に気持ちがなくなった時点ではっきりと言うだろう。こそこそと浮気するようなタイプじゃない。
「なんで浮気したのかって? しーちゃん、よく聞いてね」
「なんだよ」
「俺、浮気はしてないよ!」
キリッ! じゃねぇし。
俺は春の襟首を掴んで、ぐいと顔を寄せた。
「あぁ? 他人のアレにチンコ突っ込んだんじゃねぇの? それが浮気じゃなかったら何だっていうんだよ」
「や、やだ、しーちゃん卑猥……! よく考えてみてね。浮気ってどういう字書く?」
「浮気は浮気だろ。浮ついた気持ちと書いて」
「そうそう、浮ついた気持ち、だよね! 俺、全く浮ついてないよ。しーちゃんが一番。しーちゃんが大好き、本当に愛してるっ」
だから、キリッ! じゃないんだって。
呆れた俺は一度春に頭突きを入れた。
春は額を押さえながら悶絶している。
「お前、荷物全部まとめて出てけ。一週間くらいは猶予を与えるから」
「えっ……? マジで別れるつもりなの? しーちゃん、まともにご飯も炊けないのに? 洗濯機も回せないのに?」
「うっ」
そうだった。
言われた通り、俺は会社では働くけれど、家では何も出来ないクズ野郎だった。
料理や洗濯、掃除、全て春が受け持っている。
そしてここのアパートや保険、プロバイダの契約なんかも、手続きは全て春に任せた。もしこの家から春がいなくなるとしたらきっと面倒なことになる。
いや、そんな手続きうんぬんの前に、正直別れたくない。
俺だって、春が大好きなのに。
だがここは心を鬼にして、毅然とした態度で言い返した。
「そんなの、どうにでもするよ。ていうか何だよその上から目線の言い方。自分で何したのか分かってねーだろ」
「分かってるよ……しーちゃんを怒らせちゃって、やっぱり間違ったことしたなぁって……反省してる」
春はまた、肩をがっくりと落として項垂れた。
その姿を見て、許そうかどうか悩んでいた。
一度浮気をするやつは何度もすると聞いたことがある。二度としないと誓えと言えば口ではしっかり言うだろうが、果たしてそれを信じていいものだろうか。だってあんなに「しーちゃんだけだよ」と言われ続けてきたのに。
「相手とは、何回したんだよ」
「い、一回だよ! 信じて! 本当に一度だけの関係だよ!」
怪しいけれど、確かめようがなかった。
一度だけの関係、か。
てことはあれか。酔った勢いでちょっといい雰囲気になっちゃって……とかそんなのか。
春がまさかそんな意志の弱い奴だったとは。
俺は前髪をかきあげ、深くため息を吐いた。
「どのくらい飲んだんだ?」
「え?」
「だから、分別つかないくらいに酔ってたから、そいつとヤっちゃったんだろ」
「ううん、飲んでたけど、全く酔ってはないよ」
それにこいつは、ストレートに愛情表現をしてくる。大好きや愛してるだなんて毎日言われていたし、それは嘘では無い。いや、無かったと信じたい。だが浮気が発覚して、それらが全て幻だったのかと残念な気持ちになった。
隣に腰を下ろして、俺はポツリと呟いた。
「別れるか」
素早く顔を上げた春は、涙をいっぱいに溜めた目を見開いた。
「えっ? 嘘でしょ? わ、別れるってしーちゃん、本気で言ってんの?!」
「どの口が言ってんだよ。浮気されたんだから、そんなん普通に考えるだろ」
「ちょ、え? マジで意味わかんない。わ、別れる? ははっ、ちょ待って、うふふ、冗談きっつー」
「怖ぇな、笑うか絶望するかどっちかにしろよ」
「……やだよ! 俺、しーちゃんのことが大好きなのに!」
「だったらなんで浮気したんだよ! こっちが狼狽えるわ!」
急な別れ話に、春は激しく動揺している。
本当に不思議な話だ。
二人の関係が冷めきっていたのなら分かる。だがそうじゃない。それに春の場合、俺に気持ちがなくなった時点ではっきりと言うだろう。こそこそと浮気するようなタイプじゃない。
「なんで浮気したのかって? しーちゃん、よく聞いてね」
「なんだよ」
「俺、浮気はしてないよ!」
キリッ! じゃねぇし。
俺は春の襟首を掴んで、ぐいと顔を寄せた。
「あぁ? 他人のアレにチンコ突っ込んだんじゃねぇの? それが浮気じゃなかったら何だっていうんだよ」
「や、やだ、しーちゃん卑猥……! よく考えてみてね。浮気ってどういう字書く?」
「浮気は浮気だろ。浮ついた気持ちと書いて」
「そうそう、浮ついた気持ち、だよね! 俺、全く浮ついてないよ。しーちゃんが一番。しーちゃんが大好き、本当に愛してるっ」
だから、キリッ! じゃないんだって。
呆れた俺は一度春に頭突きを入れた。
春は額を押さえながら悶絶している。
「お前、荷物全部まとめて出てけ。一週間くらいは猶予を与えるから」
「えっ……? マジで別れるつもりなの? しーちゃん、まともにご飯も炊けないのに? 洗濯機も回せないのに?」
「うっ」
そうだった。
言われた通り、俺は会社では働くけれど、家では何も出来ないクズ野郎だった。
料理や洗濯、掃除、全て春が受け持っている。
そしてここのアパートや保険、プロバイダの契約なんかも、手続きは全て春に任せた。もしこの家から春がいなくなるとしたらきっと面倒なことになる。
いや、そんな手続きうんぬんの前に、正直別れたくない。
俺だって、春が大好きなのに。
だがここは心を鬼にして、毅然とした態度で言い返した。
「そんなの、どうにでもするよ。ていうか何だよその上から目線の言い方。自分で何したのか分かってねーだろ」
「分かってるよ……しーちゃんを怒らせちゃって、やっぱり間違ったことしたなぁって……反省してる」
春はまた、肩をがっくりと落として項垂れた。
その姿を見て、許そうかどうか悩んでいた。
一度浮気をするやつは何度もすると聞いたことがある。二度としないと誓えと言えば口ではしっかり言うだろうが、果たしてそれを信じていいものだろうか。だってあんなに「しーちゃんだけだよ」と言われ続けてきたのに。
「相手とは、何回したんだよ」
「い、一回だよ! 信じて! 本当に一度だけの関係だよ!」
怪しいけれど、確かめようがなかった。
一度だけの関係、か。
てことはあれか。酔った勢いでちょっといい雰囲気になっちゃって……とかそんなのか。
春がまさかそんな意志の弱い奴だったとは。
俺は前髪をかきあげ、深くため息を吐いた。
「どのくらい飲んだんだ?」
「え?」
「だから、分別つかないくらいに酔ってたから、そいつとヤっちゃったんだろ」
「ううん、飲んでたけど、全く酔ってはないよ」
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