【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗

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第58話 行われていたこと

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それからというもの、アオは依頼されたデータを迅速かつ正確に集めていった。そのおかげで神宮寺の手元には膨大な情報が集まりつつあった。

トウヤの報告によれば、アキトはいまだその痕跡を掴めていないらしい。

やはりアオは優秀だ。イルジオンで働いていた経験と能力の高さが、この精度を可能にしている。

最近は香りの効果に慣れてきたのか、アオを悩ませていた頭痛の頻度も減り、神宮寺を呼び寄せる回数も徐々に少なくなっていた。

「……ムル用の香りの強度を、もう少し上げるか」

もっと依存してもらわないと困る。そう思っていると、研究所の緊急ブザーが甲高く鳴り響いた。

「ムル335号が脱走した!」

研究員たちが一斉に騒然とし、白衣の影が慌ただしく駆け抜ける。

「早く見つけ出せ!」

神宮寺は苛立ちを隠さず、鋭い声で指示を飛ばした。

*---------------

ドサッ――。

データ抽出の作業をしていたアオは、入口の方から響いた大きな音に驚き、仕事部屋から出た。

そこには、白い服をまとい、床に崩れ落ちるようにうずくまり、荒い呼吸で身を震わせる人物がいた。

「だ……大丈夫ですか!?」

「んっ。うぅ」

耐えきれない欲望を我慢しているようだった。

アオは慌ててポケットから香りの小瓶を取り出し、彼に嗅がせた。苦しげだった表情がわずかに和らぎ、理性の光が戻っていく。

「お水、持ってきますね」

「……あ、ありがとうございます」

差し出したグラスの水を一気に飲み干した後、男は途切れ途切れに語り始めた。

「僕の番から引き離されて……無理やりここへ連れて来られたんだ。そしてここで実験台にされて」

その声は震えていた。

「ここでの香りを嗅がされると、理性が吹き飛んで、淫らな精神状態になって、番に似た匂いを持つ人間の相手をさせられるんだ。その相手と疑似的に『番』の状態になって、自分の力をその人に使わせるように仕組まれているんだ」

耐えきれずに吐き出される言葉。

「毎日、香りを嗅がされて、番の匂いをまとった他人を求めて懇願して、快楽に溺れるよう仕向けられる。もうイヤだ……ここから抜け出したい」

男が叫んだその瞬間、アオの部屋のドアが開き、神宮寺と数人の部下が駆け込んできた。

「捕まえろ!」

「イヤだ! もうイヤだッ!」

必死に抵抗する彼は、力ずくで押さえ込まれ、再び連れ去られていった。

「アオ! 大丈夫ですか?」

神宮寺が駆け寄る。

「急に知らない人が入ってきて。倒れたから、水をあげただけ」

「彼は、何か話していましたか?」

「辛いって。もうイヤだって。ここでは、何が行われているんですか?」

アオの問いに、神宮寺は深く息を吐いた。

「今度、ちゃんと話します。だから、今は気にしないで依頼した仕事に戻ってくれますか?」

そう言いながらアオを抱きしめた。神宮寺がまとっているこの濃く漂う香りに包まれると、アオは抵抗せずに言うことを聞く。

「わかりました。でも、今度はちゃんと話してほしい」

そう小さく答え、アオは再び仕事部屋へと戻っていった。

神宮寺はその背中を見送りながら、ゆるやかに目を細めた。アオくんの洗脳も進んできている。そう感じた。
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