【完結 R18版】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗

文字の大きさ
68 / 86

第68話 離れる時

部屋に戻る。誰もいない、静まり返った部屋。
つい先日まではレイと一緒にいた部屋なのに。

高階さんに向けられていたレイの柔らかな笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない。
あの笑顔は、もう自分には向けられない。
レイはきっと、僕のことが好きではなくなったんだ。
そう思った。

この部屋には、もういられない。

僕はカバンを取り出し、自分の荷物をまとめ始めた。
ほとんどの物はレイが準備してくれたものばかりで、僕自身のものは驚くほど少ない。それが余計に胸を締め付ける。

「レイ……。レイ……」
呼んでも、返事はない。僕の声だけが虚しく響く。

諦めきれない想いを胸に、レイのTシャツを一枚だけカバンに入れた。
手首につけていた黒いバングルを外し、リビングのテーブルに置く。
もう、僕には必要ないものだから。

そして、部屋を後にした。

「これから、どこに行こうかな。今日はホテルでもいいかな」

報酬はそれなりに受け取ってきた。
カナメとリョクが番になってからは、リョクからもう大丈夫と言われ、支援の必要もなくなっていた。

生活費や衣類はすべてレイが整えてくれていた。
そのおかげで困らないくらいの金額が手元にある。

思えばそれも、「不要になったときの補償」だったのかもしれない。
妙に納得してしまう自分が、苦しかった。

重い足取りで歩きながら宿泊先を探していると、一台の車が目の前に停まった。
窓が開き、視線がぶつかる。

「……神宮寺さん」

「今日はひとりなんですね。珍しい」
彼は穏やかな笑みを浮かべていた。だが、その瞳の奥はどこまでも冷たい。

「僕、予定があるんで」
「私のところに来ませんか?」
「え……?」
「困っているならと思いまして」
「い、いえ……困ってないです」

逃げるように足を速めた時、別の黒い車が道を塞ぐように停まった。
複数の黒いスーツを着た人たちが降り立ち、無言で僕を取り囲んだ。

「大丈夫ですよ。何もしませんから」
その声は優しい響きを装っていたが、背筋に冷たいものが走った。

「……大丈夫です。放してください」

その中のひとりに腕を掴まれる。
強い力で引き寄せられ、抵抗できない。
胸の奥で恐怖が膨れ上がっていく。

(ど、どうしよう——!)

その瞬間。

ふっと風がざわめき、空気が一変した。
光をはね返すような銀の気配が、黒服たちの間にすっと滑り込む。

「っ……!」
黒服たちが思わず後退する。

「シエル!」
名を呼ぶと、彼はふわりとアオの傍に座った。
それは恐怖を溶かすような、静かで確かな優しさを帯びていた。

「アオ君、大丈夫?」
「タクミさん。ダイチ君」

周りにいた人たちは気圧されるように後ずさり、神宮寺の車も静かに動き出した。
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

【完結】束縛彼氏から逃げたのに、執着が想像以上に重すぎた

鱗。
BL
束縛の強い恋人、三浦悠真から逃げた風間湊。 逃げた先で出会ったのは、優しく穏やかな占い師、榊啓司だった。 心身を癒やされ、穏やかな日常を取り戻したかに見えた——はずだった。 だが再び現れた悠真の執着は、かつてとは比べ物にならないほど歪んでいて。 そして気付く。 誰のものにもなれないはずの自分が。 『壊れていく人間』にしか愛を見出せないということに。 依存、執着、支配。 三人の関係は、やがて取り返しのつかない形へと崩れていく。 ——これは、『最も壊れている人間』が愛を選び取る物語。 逃げた先にあったのは、『もっと歪んだ愛』だった。 【完結済み】

神様は僕に笑ってくれない

一片澪
BL
――高宮 恭一は手料理が食べられない。 それは、幸せだった頃の記憶と直結するからだ。 過去のトラウマから地元を切り捨て、一人で暮らしていた恭一はある日体調を崩し道端でしゃがみ込んだ所を喫茶店のオーナー李壱に助けられる。 その事をきっかけに二人は知り合い、李壱の持つ独特の空気感に恭一はゆっくりと自覚無く惹かれ優しく癒されていく。 初期愛情度は見せていないだけで攻め→→→(←?)受けです。 ※元外資系エリート現喫茶店オーナーの口調だけオネェ攻め×過去のトラウマから手料理が食べられなくなったちょっと卑屈な受けの恋から愛になるお話。 ※最初だけシリアスぶっていますが必ずハッピーエンドになります。 ※基本的に穏やかな流れでゆっくりと進む平和なお話です。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。