魔法が薄れる、虚空の日にて。

三井八木

文字の大きさ
1 / 1

魔法が薄れる、虚空の日にて。

しおりを挟む
 3月31日。
 3月の終わりがやってきて、新たな月の始まりを感じ、そして毎年恒例のアレが来ることを思い返す。
「うう……面倒臭い」
 そう僕、青木あおき涼太りょうたはそう呟く。
 仕事が終わり、帰路に着いてる最中のこと、1人そう思考を回していた。
 2月の末のあの時と言い、こう面倒な日が存在するのが本当に嫌だなぁ……
 そう思いながら電車を降り、改札を抜けて歩き始める。
 あれ以降彩音あやねとは直接は会ってない。ここに僕の心の弱さがよく現れているだろう。
 なにとなくチャットが送られたり、気まぐれに電話がかかってきたりするだけだ。
 んで、何故に今彩音の話をしたのかと言うと。明日は前の様にいきなり来てなにかしてくるのかもしれないからだ。
 4月1日。エイプリルフール。
 この日もまた魔力が乱れ、そして世界が変わる。
 どう変わるかと言うと、魔力を持たない人から魔法と言う存在が薄れ、嘘が誠に成り、誠が虚空と成る……
 それだけの、それだけの悲しいことだ。
 そう思いを巡らせてると無事に帰宅。
 何事も無く家に着けた。
 もう……明日の事は適当にやっておこう。
 そう思い身体をベットに投げ出す。
 すると自然に意識が薄れ……








 目が覚める。
 欠伸をして、今日は休みであることを思い出し、もう1回寝ようかと思うがその考えを振り切り、起き上がる。
 そして時計を見る。
 時刻は8時の35分。そして今日は4月の1日。
 仮に今日が仕事の日だったら遅刻している。休みでよかった。
 立ち上がり、洗面所に行く。
 そして蛇口を捻り、水を出して頭から被る。
 これで眠気は無くなった。さっぱりした。
 だから髪の毛を乾かそうと──
「風よ、駆けろ」
右手を頭に近づけ、呪文を唱える。
 ……しかし何も起きない。
 そうだった。いつもの癖でやろうとしてしまった。
 タオルを手に取り、髪の毛の水分を拭う。
 家にドライヤーは無いので自然乾燥に任せる。
「はぁ……面倒だな……ん?」
 そう独り言を呟いていると、スマホに新規メッセージが届いている。
 見てみると同僚からのメッセージが。
『好きです』
 ……まぁ、これにはこう返す。
『嘘つけ』
 そう返すと直ぐに返信が。
『そうだよ笑 エイプリルフール~』
「……うぜぇぇぇぇ」
 こうやってちゃんと嘘をついて楽しめるのも僕らだけの特権だと思うが……正直こう嘘を吐かれるのはすこし嫌だ。
 まぁ、そのお陰か、それとはべつにメッセージが来ていたことに気づく。
 着信日時は昨日の9時。彩音からだ。
 内容は『明日遊べる?』とのことである。
 明日……いや今日の話か。とりあえず返信。
『まぁ、暇だけど』
 昨日の話に、今日返信するのはあれだけれども、しょうがない。
 そう返して、数分後に返信は来た。
『ごめん、私の方が暇じゃなくなった。ごめんね』との、返信。
『了解』と返して、僕は完全な暇になった。
「……本でも買いに行くか」
 そう思い立ち、私服に着替え、外に出た。
 本屋は駅近くのショッピングセンターの中にあるのでそこに向かう。
 数十分かけて、本屋に着き。なにかいい本はあるのかな、そう思い、店内を巡る。
 が、特にめぼしい物は見つからなかった。
 ため息を吐きながら、店から出る。そうしたら、だ。
「あ、やっほー涼太」
右から、僕のことを呼びかける声が。
「え、あ、よう。彩音。暇じゃないのじゃなくて……?」
 そこには物でいっぱいになったレジ袋を両手にぶら下げてる彩音の姿が。
「うん、買い物に駆り出されたから。それで買うものも買ったから帰ろうと思ってた所」
「な、なるほど……」
 偶然出会うことなんてあるんだな。そう言葉を紡ごうとしたけど。
「んじゃ、帰るね。じゃね」
 と、即座に、彼女は言い去ろうとした。
「あ、ちょ、ま」
 引き留めようとする言葉を探したが、直ぐに出てくることは無く、彼女を帰らせてしまった。
 やっぱり……この時期だと彩音は避けてる気がする。
 何年もこの日を迎えてるが、未だに彩音の嘘がよく理解出来てないのだ。
 嘘ってゆうか、この日だけの真実だけど。
「まぁ……いいか……」
 そう、割り切って置くことにした。
 そして自分も帰路に着く。
 その最中のことだ、彩音から連絡が来た。
『後でゲーム』
 これだけの一言。
 まぁ、後で何をしようか決めてなかったから予定が埋まって万々歳だから『了解』と短く返しておく。
 歩き歩いて家に着き、彩音に帰宅したことを報告。そうしたら電話がかかってきた。
「はい、もしもし」
『おっけーゲーム始めれる?』
「うん、何時でも」
 そう言いゲーム機の電源を付けて、起動。
 ゲーム内で彩音と合流し、遊び始める。
 楽しく会話をしながら、馬鹿げたような行動をゲーム内でして。
 それはそれはとても楽しい時間だった。
 その最中に告げられる言葉を除いて。
『ほんと、はとても楽しいや』
 今日の遊びの最後、その間際で彼女は言い、じゃ、おつかれ。と一言残して電話を切った。
 こう言う言葉が、切なく心に刺さる。
「お互いに好きなはずなんだけどな……なんか、ほんとこういうので疑っちゃうんだよな……」
 そう1人言葉を零す。
 唯一わかってること。それは彩音に友達としか見られていない。
 それ以上を知ることは無いし、知る気もない。
 だって、怖いから。
「ほんと臆病だな……」
 そう呟きながら、つきっぱなしのゲーム機の電源を落とす。
 今日は前のように動いては行けない、だから強く動けないのだ。
 だって、記憶は消える訳ではなく薄れるだけ。だから覚えられてしまうのだ。
 だから、変に行動できないのだ。まぁ、普段からそんな行動はしてないが……
 まぁ、明日になれば魔法も、記憶も、性格も戻って来てくれる。
 そう、きっと好きって思う気持ちもちゃんと、ちゃんと元に戻ってくれる。
 そう思うけど……けど、どこか、そう。戻れないと思う自分が居ることは確かだ。
 だから、僕はこの日も嫌いだ。
 そう1人思いながら、この日を過ごす。
 虚空に1人傷つけられ、虚空の日々を、過ぎ通る。それだけの、それだけのことだから。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

処理中です...