グランサンクチュア 〜地底天空都市の伝説〜

大森六

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第一章 ヒューマニア王国

第8話 ダンジョンと10歳の少年

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 ティアを抱っこしてノアはダンジョンの入口まで戻って来た。そして太陽の光がティアを優しく照らす。

 砂煙をあげて爆速で向かってくる母親の姿がティアの目に映ると、再び涙があふれ出す。

「ティア!」

「お母さん!」

 泣きながらティアをめい一杯強く抱きしめて、安堵のあまり泣いているリリカを見て、ティアは自分が十分な愛情を受けていることに改めて気付かされる。

「お母さん、ごめんなさい。本当にごめんなさい」

「無事でよかった……本当によかった」


「……ノアお兄ちゃんが助けてくれたの」


 リリカがノアも一緒に抱きしめながら笑顔で伝える。

「ノア……本当にありがとう」


「ううん。僕はティアのお兄ちゃんだから、ティアを助けるのは当たり前だよ」


 三人で笑っているところにロイが戻って来た。緊張した表情が一気に崩れてホッとした表情へと変わる。

「あぁ、ティア……無事だったのか……よかった」

「うん。お父さん……心配掛けてごめんなさい」


 そのままダンジョン入口前でしばらく家族四人で抱き合って心を落ち着かせる。


 そしてロイが大きな袋の存在に気付く。

「ん? なんだこの袋は? 」

「あ、それは僕が研究用で持って帰ってきたありのツノとおでこ」


「え? ローソイラアントなんて、大していい武器作れないぞ」

 袋の中身を覗いて見たロイは驚愕きょうがくする。

「おい! これジャイアントソイラアントじゃないか! 」

「なんですって⁈  B級でしかも上位のモンスターよ」


「おそらく、E級ダンジョンの地面をティアがモグっていたら、地盤の低級魔土ローソイラが崩れて下層に落ちちゃったんだ。その下層が結構深くてB級になったんだと思う。でもまだ奥深くに繋がっていたからこのダンジョンは最終的に等級が上がるかもね」

「なんだって……ダンジョンが成長したのか……本当にティアがよく無事だったよ……」


「うん。お兄ちゃんが来てくれなかったらティア絶対に死んでた。足もお兄ちゃんが直してくれたし。他の傷も全部お兄ちゃんが直してくれたの。で」


「なんですって! ノア! あなたもう回復魔土術のハイソイラを使えるの?」


 簡単に頷くノア。

「ティアの右足が骨折していたんだ。落下による打撲や切り傷も。だから使ってみたんだけど。ダメだったかな? お母さん、ちゃんとティアの体見てあげて。もしかしたら変に傷が残っちゃっているかも……」


 慌てて右足や背中、腕と確認してみるが完全な修復がなされている。いや、むしろ他の魔土術士<ソレイジ>による回復魔土術よりもはるかに完璧な仕上がりに思えた。


「ロイ、見て。完璧だわ……」

「あぁ、やばいなこの術の精度……そしてダンジョンの成長に気を取られていたが……ノア。お前一人でこのモンスターを倒したんだよな?」


「うん。 炎槍えんそうっていうオリジナルの魔土術で」

「「え、エンソウ?」」


 唖然とするロイとリリカを見てノアが焦っていつもの言い訳をする。


「あ、術名はまだ仮だから。あとでもっといい感じの名前にするつもりだよ」


「「いや、そこじゃないって!」」



 * * *


 ロイ達はそのまま城下町コンクーリの冒険者ギルドへ向かった。そして受付でセラに話す。

「少々お待ちください。ギルドマスターに相談してみます!」

 そして、ロイ達はギルドマスターの執務室へ移動した。



「よお! ロイにリリカ! 久しぶりだな!」

「リック! 元気にしてるか!」


 抱き合って喜ぶロイとリック。そしてリリカと笑顔で握手する。

「こちらの可愛いお嬢さんが例の子だな。無事に救出できてよかった」

「あぁ、本当に迷惑かけたな。娘のティアで、こっちが娘を助けてくれた息子のノアだ」

 ロイが自慢の子供を紹介する。

「ノアにティアか。冒険者ギルドのギルドマスター、リックだ。よろしくな!」

「ギルドマスター、初めまして。ノア・グリードと申します。よろしくお願いします」

「ティアです。よろしくお願いします」


「……なんていうか、子供の割にちゃんとした挨拶ができるんだな……ん、そういえば、低級のダンジョンを無双しているガキがいるっていうのは確かロイの……つまりノアのことか⁈」


「あ……その件もあったな……そうだ。ノアのことだがちょっとその前に大事な話があるんだ。実は……E級ダンジョンが成長してB級以上になった」


「なんだと! 本当か? なんでまたE級から突然B級に?」

 ロイが順を追って丁寧にリックに説明した。そして信じられないという表情でノアを見ている。


「こんな小さな子がジャイアントソイラアントを一撃で倒したっていうのか?」

「あぁ、その証拠というか……ノア、あれを出して」

「はい。お父さん」

 袋から出てきたツノとひたい部分の殻を手に持って見定めるリック、そして頷く。


「間違いねぇな……」


 一旦目をつぶって考えるリック。しばらく執務室が静かになり、再びリックが目を開けてロイにある提案を持ちかける。


「ロイ、そしてリリカ。お前達に一つ提案なんだが……未開ダンジョン調査団のリーダーにノアを立ててみないか?」


「なんだって! リック、何を言っているんだ。普通はS級もしくは低くてもA級の冒険者とS級モグラーで構成されるのが調査団だろ! それをノアが団の一員どころかリーダーなんて」

「絶対に危険だわ!」


 当然のリアクションが来たという表情でリックが説明する。


「まぁ、聞けよ。今回の件の前に、ノアの存在はすでに大ごとになってるんだ。噂にひれがつきまくって王都まで話題になってるらしいぜ。A級持ってる10歳のガキが無資格のフリしてダンジョンを荒らしまくっているってな」


「なんだと⁈  ノアは何も悪いことなんかしていないぞ。ちゃんとダンジョンのルールに従って……」


「勿論それは俺も十分に理解しているさ。だが周囲は違うぜ。低級ダンジョンはブロッカに住む庶民の大事な稼ぎ場だ。それを子供が無邪気にあっさりアイテム持って帰って喜ぶ姿を何度も見てみろよ。嫌な気分にもなるぜ。『上級ダンジョンにモグれよ』ってな」


「それは王国が定める規律上ノアはまだ上級ダンジョンへはモグれないからであって……」

「その通りだ。だがそんなことはどうでもいいのさ。理屈じゃねえのが冒険者だってことはロイとリリカ、お前達が一番わかっているだろう」


 何も言い返せないロイ。リリカも黙って聞くしかないという表情だ。


「そこでだ。ノアに成長しちまった未開ダンジョンを踏破させるんだ。最低でも冒険者ギルドはノアにB級以上のライセンスを発行することを保証してやる。モグラーの資格はボイドのジジイに聞いてくれ。少なくとも冒険者となった時点で、ノアは中級以上のダンジョンへ入れるようになる。そうすればノアに対する偏見もなくなるし、ダンジョン踏破という実績がつくわけだから冒険者ギルドで改めて資格検定試験をする必要もねぇだろうよ。」

(しかし、こんな危険なことをノアにやらせるなんて……)

 ちらっとノアの表情を確かめるロイとリリカ。

「「……はぁ~。やっぱりか」

 キラキラと輝く瞳でノアが両親に訴えかけている。お願いだから僕に調査団リーダーをやらせてくださいと。



「……王国が認めるのか? 10歳の子供を未開ダンジョン調査団のリーダーなんて」


「そもそもこのダンジョンを見つけて無事に戻って状況を報告したのはノアとティアだろ? ティアは外すとして、ノアは踏破する優先的な権利を持っているだろうし、あの黄金の大地、ロイ・グリードの息子だ。国王も興味津々だろうぜ。問題ねぇよ。俺が言っておく」


 もう一度リリカとノアの顔を見る。リリカは渋々頷き、ノアは激しく何度も頷いている。


「はぁ……わかったよ。ノアがリーダーで調査団を組もう。ただし、条件がある」



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