Bloody Code 〜特殊な血を持つ天才少年が謎のリングで仲間になった「アイドル」と現実世界を無双する〜

大森六

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第一章 出逢い

第1話 父親の失踪

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 《午前8時ごろ、東京都桃山区の交差点で、乗用車が歩行者2人をはねる事故がありました。警視庁によりますと、はねられたのは30代の男性と女性で、いずれも意識不明の……》


 《19日、日本列島は高気圧に覆われ、各地で気温が上昇しました。気象庁によりますと、東京都心では午後1時すぎに35.6度を記録し、今年初めての猛暑日……》


 《午後五時のニュースでした。続いて明日の天気予報です––》



「……」



 プツンと音が聞こえそうな勢いでアプリを閉じる。不意にため息と本音が漏れてしまう。



「う~ん、やっぱり今日もダメか……」



 登下校時にラジオニュース番組を流し聴きすること、それは六条太地ろくじょうたいちの日課となっていた。moogle で検索しても一向につかめない、父である「六条勝規ろくじょうかつのり」の行方が。


 高校入学と同時に買ってもらったスマホを自分なりに駆使し、できる事は全てやっているつもりだった。しかし芸能人でもスポーツ選手でもインフルエンサーでもない、優秀だったらしい科学者というだけの一般人を探すのは相当な無理がある。


 そもそも、天才科学者のはずの勝規を検索しても、一つも関連記事が出てこない。


「父さんは本当に天才だったのか?」


 疑ってしまう自分がいた。悔しいことに、ここ2年間で得られた情報はほぼ「0」だった。



 * * *



 2046年の夏、太地が7歳を迎える頃に父親は突如として姿を消してしまった。


 失踪という表現が正しいのか、誘拐されたのか、もしくは当時すでにもう……


 結局、明らかに事件へ繋がる様な重要証拠が自宅や職場からも見つからず、何も進展がないまま、警察は捜査を打ち切ってしまった。逆に母親が疑われ、執拗に事情聴取されて余計に心労が溜まってしまう展開になり、この時から太地の警察に対する信頼感は落ちる限界にまで達していた。


 中学生時代は当時の状況を頭の中でうまく整理できず、「なぜ、父親が消えるのか」という当たり前の困惑と、「きっと戻ってくる」という期待(祈り)が混在した精神状態だったため、何もできなかった。 



 迎えた高校入学の時期に、太地は決心する。


「自分で父さんを必ず見つけてみせる」


 そこからなんの進展もないまま1年の月日が経過した。



 * * *


 2057年8月20日。


 無意識にいつもより元気に玄関扉を開ける。そしていつもと違うテンションで帰宅を知らせる声。


「ただいま~!」


「おかえり~。ご飯できてるよ!」


 母親の早紀子さきこが忙しくも嬉しそうに鳥の唐揚げを揚げている。


 唐揚げは胸肉派。下味はかなりしっかりつけている。テーブルの真ん中には大皿山盛りの唐揚げ。隣に山盛りの千切りキャベツ。そして胡椒、甘辛タレ、マヨネーズなどが小皿で添えられている。味変OKの唐揚げマラソン、それが六条家の誕生日の夕食だ。三人共に唐揚げが好きだから。



「いいね~。うまそ~。」


「いやいや、『うまそ~』 じゃなくて、本当にうまいから⁉︎」


「はいはい、わかってますよ。 母さん飲み物は?」


「私はハイボール。 太地はどうする?」


「いや、まだ未成年だから」



 10年前に母子家庭となった六条家だったが、意外にも家庭の雰囲気は明るくて和やかだ。


 理由は2つある。1つ目は母親早紀子の底抜けに明るい性格。太地はいつもその前向きな姿勢に助けられている。


 2つ目は父親がいずれ帰ってくるという自信からだ。早紀子は夫の失踪を長期出張程度に捉えているのかもしれない。


 そんな母親を前にすると、太地も自然と楽になれた。


「太地、17歳のお誕生日おめでとう!」


「ありがとう!」



 洒落たチョコレートのショートケーキ。イチゴではない。太地は大のチョコレート好きだから。


「ケーキうま!」


 太地が唸る。


「うまい! 並んで買った甲斐があったわ」


 早紀子も唸る。



 あっという間にお皿に盛られたご馳走がなくなってしまった。二人の腹は満たされた様だ。


 満足げにハイボールを一缶飲みきって、早紀子が落ち着いたトーンで話を始める。


「太地に渡したいものがあるの」


 誕生日プレゼントとは思えない母親の表情に、太地の表情から思わず笑顔が消える。しかし口周りにはまだチョコレートが付いている。微妙な緊張感だ。



「何? どうしたの? 急に真剣になって」



 早紀子がテーブルの上に小さな黒いケースを静かに置く。合成皮革でできたそのケースからは指輪か宝石でも入っていそうなよくある高級感が漂っている。


「これって、プレゼント?」


「そうよ。お父さんからの誕生日プレゼント」


「え⁉ 父さんってどういうこと?」


「お父さんがいなくなっちゃう前にね…… 17歳の誕生日が来たらこれを太地に渡してくれって。一緒に渡せばいいじゃないって聞いたんだけど、『もしもその時に自分がいなかったら、さきちゃん頼んだよ』って言われてさ」



「え~と、あの父さんが?」


「そう。あの六条勝規よ。」



 そう言って、ハイボールの2缶目を開ける。早紀子に動揺するそぶりはない。むしろ自分と同様に「意味がわからない」という表情をしているように見える。



 太地は多少混乱するが、目の前におかれた黒いケースを眺めながら冷静に思考を巡らせる。


(まるで自分の身に何か起こることを想定して母さんに託した感じがするけど。何か危険なことに巻き込まれることを前提として? 父さんはただの『自称天才科学者』ではなかったのか? さらに何故17歳になったこのタイミングなのか……)


 一通り考えてみたものの、当然ながら何もわからない。


(何が入っているか見てみるか)


「開けていい?」


「もちろん。大丈夫、怪我とかしないから」



 屈託のない笑顔だ。ちょっと酔っているのかもしれない。


 テーブル中央に手を伸ばし、ゆっくりとケースを受け取る。自分自身に向かってケースを開けてみる。


「ん? 何も入っていない? いや、これは––」


 黒いケースの内側は黒いフェルトで覆われていた。そこに黒いリング状のものが簡素に置かれている。


(父さんはこの黒のリングを渡したかったのか?)


 太地はそのリングを手に取ってじっくり観察してみる。


(アクセサリー? いや、それは単に高級感があるケースの外観に引っ張られているだけで、アクセサリーかどうかもわからない。そもそも外側黒で、内側も黒で、モノも黒なんて。ディスプレイの手法としてはあり得ないでしょ。)


 目の前にいない父親に的確なツッコミを入れる。物が映えないし、もらっても嬉しさ半減だし、そもそもこれが何かの説明が無い。


「ブレスレットかなぁ」


「なんだろうね。お母さんにもわからないわ~」


 美味しそうに3缶目のハイボールへ。


「お父さんから受け取った時にお母さんも見たんだけどね。その輪っかが何かわからなくてお父さんに聞いたのよ。これ何って?」


「それで? 父さんは何て言ってたの?」


「太地に見せたらわかるって」


「え?」


「太地ならわかるって言ってたのよ。お父さん」


「いや、全くわからないんですけど」 


 と即答する太地。


「う~ん。詰んだな。こりゃダメだな」


 諦めて4缶目に手を伸ばすかどうか悩む母親を前に、じっくりと『』を観察してみる太地。


 直径7センチくらいだろうか。1センチほどの幅で厚みは3ミリもない。そして若干弾力がある様な感触の素材だ。ゴムの様なとまでは言えない初めて知った素材という印象だ。漆黒という表現がぴったりはまる色で深みのある光沢感。ついつい眺めてしまう不思議な存在と太地は感じた。


 ブレスレットとして使うには微妙なのかな。


(アクセサリーじゃないのか)


 少し考えた後、何気にダイニングの天井照明に黒い輪っかをかざして覗いてみた。



 驚くべきことに、光を通してみる漆黒の内側は、まるで6等星まで見えているプラネタリウムの夜空の様な、なんとも美しい不思議な世界が広がっていた。


「うわぁ、すごい」 


 思わず漏れた一言。


「母さん! これ見てよ!」


 照明にをかざしながら早紀子に見せる。


「おお~。きれいだね~。いいじゃん!」


 お酒が進むと言いたそうだ。


「よし! 今日からそれはお守り腕輪だ。 太地、それちゃんと身につけておきなよ」


「え? これを?」


「そうよ。いつでも好きな時にきれいな星空が見えるんだから素敵じゃない。なんとなくお父さんが遠くから守ってくれているみたいだしさ」


(遠くからって死んだことになっているのか?それとも異国の地か?)


「まぁ、確かにそうかもね。外出時は持ち歩くようにするね。一旦ケースに入れておいて––」


(ん? 黒のフェルトの角が1箇所少しめくれている様な気がする)


 何気にめくってみると二重底になっていて、中にクシャクシャ気味に折られた紙切れが押し込まれていた。


「これは……」


「え?何それ? すごいじゃない!」


 母親が喜んでいる。こういうのが好きそうな人だ。



(それにしても父さんが残した隠しメッセージなのか? なんでこんなに雑な仕掛けなんだ。これだと誰でも見破れる気がするが。)



 呆れながらも紙を開いてみる。急いでメモを取るような雑な走り書きで力強くそこに書き記されていた。



『Bloody Code』 


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