世界を破滅させる聖女は絶賛引き籠り中です

Red

文字の大きさ
7 / 88

エルと伝説の剣

しおりを挟む
エルザが遺跡で消えてから半月が過ぎた。
「エルザちゃん……。」
「ジュリア、元気出せよ。エルザは大丈夫だ。」
ジョーがジュリアを慰めようと声をかける。
普段口数が少ない彼にしてみればかなり珍しい。
「あの様子からすれば、エルザが遺跡の地下階層へ入った事は間違いないだろう。普通の場所なら危険は多いが、ずっと閉鎖されていた遺跡だ。魔獣が入り込んでいることはないだろうからそれだけでも危険度は大幅に下がる。後は落ち着いて出口を探せばきっと無事に帰ってこれるさ。」
「でも……、もう半月よ?危険はなくても食糧がなくなるわ。」
「フンっ、あいつだって冒険者の端くれだ。携帯食ぐらい常備してるだろ?それにダンジョンになっているなら、食える魔獣の一匹や二匹ぐらい居るだろうよ。」
ジョブが馬鹿にしたような口調でそう言う。
言い方は悪いが、彼なりの心配の仕方だと思えば怒る気になれない。
「あの子は冒険者になったばかりなのよ。携帯食だって、それなりのコストがかかるのよ。そんなに多く持っているとは思えないわよ。それに水の問題もあるし、ジョブの言うように魔獣がいたら、それだけ危険ってことよ。……あぁ、私が誘ったりしなければ……。」
ジェイクたちのパーティはジュリアが魔法で水を出せるために、普段から水は予備程度にしか用意しない。だから既に水が無くなっているだろうとジュリアは悲観しているのだが、実はエルザはジュリアが水を出せることを知らなかった事と、アイテム袋に余裕があることもあって、普段からかなりの水を持ち歩いていることを知らない。
もっとも、知っていたとしても、限りがあることには変わらないので無用の心配と言うわけではないのだが。
「ジュリア、いい加減に切り替えろ。エルザの事は不幸な事故だ。そして良くあることだ……そうだろ?」
今まで黙っていたジェイクが言葉を発すること
「………わかってる。」
「分かっているならいい。あの遺跡には調査団が組まれて本格的な調査が始まる。エルザの運が良ければ助け出されるさ。俺達に出来ることはそれを祈ることだけだ。」
ジェイクも本音ではジュリア達と変わらない。だが彼は馬鹿のリーダーだ。リーダーは時として,冷たいと思われるような決断もしなければならない。
「明日、この街を出る。王都までの護衛依頼だ。朝早いから早く寝ろよ。」
ジェイクはそう言って皆に背を向け、自室へと去っていく。
「そうだな。切り換えようぜ。」
ジョーとジョブも同じ様に部屋へ戻っていき、その場にジュリアだけが残される。
「エルザ、ゴメンね。あなたのこと、ずっと覚えているからね……。」
ジュリアは虚空に向かって呟く。
亡くなった者をいつまでも忘れずに憶えていること……それがジュリアに出来る唯一の贖罪だった。

エルザが消えたメルク遺跡が、謎の爆発により崩壊した事をジェイク達が知るのは、もっとずっと後になってからだった。

 ◇ ◇ ◇

「うーん、やっぱりあの祭壇のある広場が怪しいね。」
エルザは大きな執務机の上に手書きの地図を広げて頭を悩ませる。
この部屋を見つけてから10日は過ぎている。保存棚に食材があった為、多少の余裕は出来たものの、出口を見つけなければ、いずれは食料が尽きてしまう。
エルザはこの部屋を拠点として、階層内を歩き回り、時には銀色の魔獣に追い回されて逃げ帰り、時には返り討ちにして捕獲したりしながら、階層の地図を作製した。
それで分かったことは、この階層の中心に、あの銀色の魔獣が集まっていた広場があり、そこを取り囲むように通路が造られ、要所要所に広場があると言うことで、中心にあるからには、何らかの意味があるのだろうとエルザは推測していた。
また、帰ってきた後や休む前などの時間を見つけては部屋の中の書籍や資料に目を通して、脱出するためのヒントを探していた。
当然ではあるが古代文明時代の資料なので、かかれている言語も古代文明時代のものであり、エルザが神殿で古代文字を勉強していなければ読むことも出来なかったであろう。
最も、古代文字そのものが未だ解析途中のものであり、エルザも勉強途中であるため、読める部分はほんの僅かだった。
それでもエルザはいくつかの重要なことを知ることが出来た。
まず、この部屋はクライス=クラインと言う、古代文明時代の学者の研究室だったこと。
彼の名は現在発見されているロストテクノロジーの発掘品の中で多々見られるためにかなり有名で、エルザも名前だけは知っていた。
そしてこの遺跡は、やはり神代のものらしく、クライスも遺跡を調べていたという事だった。
クライスの見立てでは、この遺跡は超古代の神殿であり破壊神を封じたと言われる、伝説の剣が眠っているのではないか?とのことで、クライスの生涯をかけたライフワークとしていたらしい。
クライスはかなり遺跡について詳しく調べていたが、それでも中枢部へ行くことは出来ず、エルザが睨んだとおり、祭壇のある広場に仕掛けがあるとクライスも書き残している。
クライスが広場を詳しく調べることが出来なかったのは、あの銀色の魔獣のせいだったらしい。
クライスの資料によると、あの魔獣は魔獣ではなくロストテクノロジーの魔道具の一種で、一度倒しても、しばらくすれば修理されて戻ってくるとのことだった。
それらを排除するためには、命令を出している魔道具を止めればいいのだが、その魔道具はどうやら中枢部にあるらしく、中枢部に行くためには魔獣を排除する必要があり、魔獣を排除するためには中枢部に行かなければならない、というジレンマに陥ったらしい。
またクライスがこの遺跡と外を行き来している方法は以外と簡単に見つかった。
資料によればこの部屋を出た直ぐそばに隠し扉があり、その中に入れば外へでる仕掛けが動き出すとのことだった。
その資料を見つけたとき、エルザはやっと帰れる、と思って喜び勇んで出て行ったのだが、現地に行ってみると、隠し扉は破壊され部屋の中には何もなく、ただ天井に大きな穴が空いているだけだった。
どれだけの距離があるか分からないが、この穴は地上につながっているかもしれない、とよじ登ることも考えたが、穴から銀色の魔獣が出てきたことで諦めた。
そして色々調べた結果、中枢部に行くしか脱出する事は出来ないという結論に至ったのが昨日のことで、それから今に至るまで、こうして地図を睨みつけているのだった。

「うーん、これをこうして………。……、ウン、コレならいけるかな?」
エルザは走り書きしたメモを見ながら、もう一度手順を確認する。
「通路のココとココを予め塞いでおくでしょ、そしてココをこうしておいて………。」
地図の上に駒代わりの小さな石をおく。
「それで、あの魔獣達をコッチにおびき寄せるでしょ、皆集まってきたところで、これをこうして落とせば………、ウン、閉じ込めることが出来そうね。後は念のため、通路のココを塞げば………大丈夫、十分時間がとれるわ。」
エルザは自分のたてた作戦に満足して大きな伸びをする。
「勝負は明日。今日はちょっと贅沢してゆっくり休むわよ。」
エルザは口に出してそう言った後、最近独り言が多くなった気がして、思わず口をつぐむ。
……仕方がないよね、話す相手居ないんだもの。
少し寂しくなったエルザはそのまま不貞寝することに決めたのだった。

「よし、準備は万全ね。」
エルザはこの部屋で見つけたミスリル製のショートソードを一瞥し鞘へ納めると、そっとクライスの部屋を出る。
周りを見回すが銀色の魔獣の姿は見えない。
「想定通りね。」
ここ数日のあいだ、魔獣達の動きを観察していて分かったことは、ある一定の範囲に近づくまでは、動かないこと、一匹にでも見つかれば、他の魔獣達も追いかけてくる事、目標を見失った後も暫くはウロウロしているが、一定の時間がたてば、広場に戻る事などが分かった。
だから、ここ数日魔獣と出会っていないので、全部の魔獣が広場に待機しているはずなのだ。
エルザはなるべく音を立てないようにして、予定通りに通路を塞いでいく。
三時間ほどの時間で、何とか予定通りに通路を塞ぐことが出来た。後は上手く誘い出して所定の場所まで誘導するだけだ。
エルザは大きく深呼吸をして、気持ちを整えると、魔獣を誘導するために広場へと飛び込んでいった。

「ふぅ、何とか上手くいったわね。後は祭壇を調べて……と。」
銀色の魔獣達を離れた場所に誘導し、閉じ込める事に成功したエルザは広場にある祭壇をじっくりと調べ始める。
「あった。これね。」
エルザは目的の窪みを見つけると、そっと手を添える。
この窪みについては、クライスの資料にも記載があった。
クライスは、この窪みが中枢部に至る為のスイッチだと推測をしていたが、何をどうやっても仕掛けを動かすことが出来ず、何か見落としているのだろうか?と記されていた。
その事について、エルザは一つの仮説をたてていた。
ここは超古代文明の神殿らしい。また、古代文明の遺跡の仕掛けを動かすには魔力が必要だということ。そして神殿であるならば、そこで必要な魔力は当然聖属性なのではないだろうか?と。
そう考えれば、地上の礼拝堂でジュリアが魔力を流しても仕掛けが動かず、エルザが触った途端に動いたという事にも納得がいく。
クライスが仕掛けを動かせなかったのは、彼が聖属性を持っていなかったからだとエルザは考えていた。
だから、魔力を流した途端に目の前の景色が変わっても、驚くことはなかった。
なかったのだが……。

「って、こんなの聞いてないよぉぉぉっ!」
エルザは全力で走っている。
『ケイホウ、ケイホウ。シンニュウシャハッケン!』
エルザの後ろから体長3mはある銀色の魔獣が追いかけてくる。
時々、巨大なはさみのついた腕を伸ばしてくるが、ぎりぎりの所でかわすと、その先端が床にめり込み回収するまでの間動きが止まるので、その間に出来るだけ距離をとる。
どれくらい走っただろうか?そろそろ限界と言う頃に、前方にT字路が見える。
エルザが少しスピードを落とすと、魔獣は即座に距離を詰めてくる。
捕まりそうなギリギリの位置で、魔獣のハサミをかわしスピードを落とさずわき道にそれる。
魔獣は急な方向転換について行けず、そのまま前方へと走り去っていった。
「行っちゃったかな?」
エルザはそぉっと通路から顔を出す。
勢いがついていたせいか、見える範囲にあの魔獣はいない。
「助かったぁ。」
エルザは壁に手を突き胸をなで下ろす。
「って、っわわっ!」
ホッとしたのも束の間、エルザが手をついた途端に足元が崩れ落ちる。
「にょわわわぁぁ~。」
エルザにとって幸運だったのは、落ちた先がスロープになっていたことだ。そうでなければ、深い底に落ちた衝撃で大怪我を負った事だろう。
「にゃわわわぁぁ~……。」
だが、当事者としてはそんな事まで考えが及ぶはずもなく、奇声を発しながら転がり落ちていくのだった。

「ふぅ、酷い目にあったよぉ。」
どれ位転がり落ちたのか、ようやく止まることが出来たエルザは、ゆっくりと立ち上がり、身体に異常がないか確認する。
あっちこっちぶつけて、打ち身程度の痛みはあるが見行動に支障はない。もちろんヒールで癒すまでのものでもなかった。
「で、ここはどこなんだろう?」
エルザはキョロキョロと辺りを見回す。
あたりは薄暗くハッキリとはしないが、大広間ぐらいの広さがあることは分かる。
周りを見回しているうちに、段々目が慣れてくると、今まで気付かなかったものが目に入ってくる。
「アレ、何だろうね?」
広間の中央付近の床が少し盛り上がっていて、そこに棒のようなモノが突き立てられている。
「お墓……かなぁ。」
ここからではよく分からないので近付いていくと、その詳細がはっきりと分かってくる。
「アレって、もしかして……。」
棒の正体に気付いたエルザは思わず駆けだしていく。
「やっぱり剣だよ。コレってもしかして伝説の剣?」
世界が混沌の危機に陥った時に姿を現すという伝説の剣。それは自らの持ち手を選び、呼び寄せるという。選ばれし者だけが使える伝説の剣だが、選ばれない者は、どれだけ怪力の持ち主であっても抜くことが出来ないと言われている。
「私、選ばれたの?」
エルザは、ほのかな期待を胸に、そっと手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...