世界を破滅させる聖女は絶賛引き籠り中です

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引きこもり聖女のお仕事 ポーション編

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カランカラーン。
入り口のドアベルが涼やかな音を鳴らす。
室内にいるものが入り口に注目する。
ここで入ってきたのが厳つい男であれば目をそらし、ひょろっとした新米っぽい奴であれば、絡むかどうかを算段する。
そして、入ってきたのが美少女であれば、当然声をかける隙を伺う……のだが、入ってきたのがだったので、みんな一斉に視線を逸らし、カウンターの方を伺う。

「あ、お帰りエルザちゃん。問題なかった?」
「ただいまです、ネリアさん。私の方は問題ないのですが……。」
エルザはそう答えながら、ネリアの後ろで何やらごそごそしている少女に目を向ける。
「……ユウは何も問題起こしてませんか?」
「え、ええ、まぁ。」
ネリアの歯切れが悪くひきつった顔を見て、エルザははぁ、とため息を吐く。

この街に戻ってきてから1ヶ月半、最初は宿屋に引き籠っていたユウだったが、エルザの必死の説得と、とてつもなく恥ずかしい交換条件によって、何とか外へ連れ出し、ギルドで冒険者登録を済ませたのが1か月前。
当初は色々あったが、最近ではこうしてギルドに来て、色々やっていることが多くなっている。

「ユウ、ただいま。」
「あ、エルお帰り、遅かったね。」
「誰のせいだと思ってるの。それで今日は何したの?」
「酷いなぁ。何もしてないよ。ネリちゃんに頼まれたお仕事してただけ。」
ユウの言葉にネリアへ視線を向けるエルザ。ネリアの表情から見るに、絶対何かしでかしてるはずだ。
「ネリアさん?」
「い、いえ、本当にユウちゃんは悪くないのよ。ただ私がしっかり伝えてなかっただけで……。」
「……で何したの?」
「……ちょっと奥へ行きましょうか。」
ネリアさんに促されて、奥にある小部屋へと移動する。
「……ギルド内のポーションの在庫全部が、メガハイポーションに変わりました。で、このままでは、ポーションの価格高騰を含めて市場に混乱が起きちゃいますぅぅ……。」
小部屋に入った途端、ネリアさんが涙目になりながらそう訴えてくる。

ギルドで取り扱っているポーションは、格安で、少量の体力が回復、ただし飲み過ぎると中毒を起こす危険があると言われている、初級ポーション。
一般人程度の体力の回復や多少のけがなどを治してくれるノーマルポーション……一般的にポーションと言えばこれを指す。
その人の最大限まで体力を回復し、重度の怪我や、ちょっとした部位欠損であれば、直後であれば再生してくれるハイポーションの三種類だ。
ギルドでは、冒険者の消費が多いため、常時それなりの数をストックしているが、ハイポーションの在庫が心許なくなってきたので、ユウに作成できるか頼んだそうだ。
そうしたらユウが「素材がないから出来ない。だけど、ポーションを変換すればできる、数は減るけど。」という答えを聞き、ポーションを使ってもいいから、とお願いしたのだそうだ。
間の悪いことに、ユウが作業しようとした矢先に、来客が立て続けに入ったため、必要数の確認が出来ず、少ないよりは多い方がいいだろうと、まとめて作業したという。
その結果、ギルドにあったポーション10000本とハイポーション1000本を使って、メガハイポーション1000本を作ることになったのだとか。
ユウの常識ではハイポーションと言えば、私たちで言うメガハイポーションの事で、ポーションがハイポーションに当たるらしい。
ちなみに私たちの言うノーマルポーションは、劣化ポーションという失敗作で、初心者ポーションなどは存在しなかったらしい。

もとをただせば、引き籠っていたユウが、曲がりなりにもこのギルドに来るようになったのは、ネリアさんがユウの作成したポーションをかなりの高めで買い取ったことがきっかけだった。
ユウに言わせると、ネリアさんは「ごみのような失敗作を大金を出して買い取ってくれるチョロい人」なんだそうだ。
ネリアさんにしてみれば、通常より回復量が多く効果の高いポーションを安値で沢山納品してくれる上得意様、という事らしいので、こういうのもWIN-WINの関係というのだろう。

尚、メガハイポーションというのは、ロストテクノロジーの粋を極めて作成して、何十万分の一の確率で奇跡的に出来上がったものか、古代遺跡で発掘されたものしかなく、王家に数本ストックがある程度の、非常にレアで高価なものだ。
その効能は体力を最大限まで回復し、さらに魔力もある程度回復してくれる。加えて、重度の怪我などもきれいに治り、部位欠損も再生してくれるというとんでもないものだったりする。
「……国宝級のレアポーションが1000本ですか。よかったですね。」
「エルザちゃぁぁ~~ん。助けてぇ。」
「自業自得って言葉知ってますか?………ったくもう。」
エルザは呆れながらも、ユウを呼びつける。
「どうしたの?」
「あのねユウ、あなたがハイポーションだと言っているモノってとんでもない希少品なのよ。」
「ただのハイポーションなのに?」
「………その辺りは帰ったらゆっくり説明してあげるわ。それより、あなたの作ったに変換する事は出来る?」
「希釈するだけだから出来るけど、触媒が少ないからあんまり多くは出来ないよ。」
「どれ位出来そう?」
「うーん、20倍希釈で30本ってところかな?」
……600本あれば、当面は何とかなりそうね。
「OK、すぐやって。」
「……………。」
「どうしたの?」
「報酬は?私はタダ働きするような、やすい女じゃないのよ。」
「今夜の夕食のハンバーグにチーズ入れてあげる。」
「絶対だからねっ!」
ユウは嬉々として作業に取り掛かる。
………チーズ入りハンバーグでいいなんて、十分やすい女だと思うけど。
エルザは、まいっかと思いつつ、ネリアさんをみる。
「私達はポーションの作成ね。」
「でも、素材が………。」
「大丈夫よ。こんなこともあろうかと、余分に採集してきたから。」
そう言って、アイテム袋から各種野草を取り出すエルザ。
帰りが遅くなったのは、これらの採集で時間が取られたためである。ユウのことだから、近いうちに、きっと何かトラブルを起こすことは分かっていたので、その時のお詫び様にポーションを作成しておこうと集めてきたのだったが、まさかこんなに直ぐ使うことになるとは想定外だった。

「エルザちゃぁぁ~~ん、もうダメェ。」
「なに弱音吐いているんですか。まだ10本しか作ってないじゃないですか。まだいけます。頑張りましょう。」
疲れ果てた声ですがりついてくるネリアさんを励ますエルザ。そう言うエルザも、まだ20本しかできていない。
ポーションの作成はそれほど難しくないのだが、細かい分量を見極めるのと、作成時に流し込む魔力量の細かいコントロールなど、かなりの集中力が必要になってくる。神殿暮らしの時によく作成していたので慣れているとは言うものの、コレだけ作成すれば消費魔力の問題もあるが、それ以上に集中力が持たない。
「後何本~?」
「150本ぐらいは必要?」
「無理無理無理~!朝までかかっても終わらないよぉ!」
「じゃぁやめます?よく考えたら、私関係ないし。」
エルザがそう告げると、ネリアさんがヒシッとしがみついてくる。
「見捨てたらイヤ~!」
「お腹空いた~。」
ネリアさんがしがみついている逆側からユウがしがみついてくる。
「あー、もぅっ!いい加減にしなさいっ!」

グチグチいうネリアさんを宥め賺し、お腹が空いたと訴えるユウに、非常食代わりのガレットを与え、ポーションの作成を続ける。
しかし、二人あわせて50本作成したところで魔力が続かなくなった。
「ねぇ、もう帰ろ?ハンバーグ食べたい。」
グッタリと倒れ込むエルザを、ユウが突っつく。
「ユウ、ゴメンね。コレもう少し作らないといけないの。」
「……失敗ばかりしてるから?」
「………ユウ、あのね、前も言ったけど、これが普通のポーションなの。そうじゃなきゃ、ネリアさんがそう何本も買ってくれるわけないでしょ?」
「………劣化ポーションがあればお家帰れる?」
「そうね、あと100本もあれば……。」
「ん、じゃぁこれ。」
そう言ってユウが革袋からポーションを取り出し次々と並べていく。
ちなみに、この街に来て最初にユウが作ったのがこの革袋だった。
ユウは魔法陣を虚空に描いていろいろとモノを取り出したり入れたりしていたので、とても目立つから、とアイテム袋の説明をしたら、あっさりと作り上げてしまった。
ユウは、革袋と空間を繋げるだけだから簡単と言っていたが、普通の人にはできないと思う。
そして、ユウのアイテム袋?の容量はとてつもなく大きいらしく、また色々なものが入っているようで、たまにとんでもないものが飛び出してくることもあるので、ユウがモノを取り出す時は気が抜けないエルザだった。

「これだけあればいい?」
ユウが机の上に並べたポーション……ユウに言わせると、失敗作の劣化ポーション……が500本ほど。
「あ、……うん。でもどうしたのこんなに?」
「調合してると、その過程で出来るの。別のもの作るときの触媒になるからとってあるの。」
「そうなんだぁ……。」
エルザはユウのだしたポーションと自分たちの作ったポーションを見比べる。
ユウはごみと言っているが、ノーマルポーションの範囲とはいえ、明らかにエルザたちの作ったものより品質がいい。
しかも、エルザたちが魔力枯渇寸前まで頑張って作った十倍の数をポンっと……。
……ううん、ユウは悪くない、悪くないけど……私たちの苦労はっ!!
もぅ、疲れてどうでもいいと、思考を丸投げする居エルザだった。

「……ということで、メガハイポーション950本はこちらで引き取るわね。」
「えぇ、20本でも多いくらいだから。……それと、今回の事は依頼ということにしておくから二人ともギルドカード出して。」
ネリアさんに言われるがままカードを差し出す二人。
ネリアさんは、カードを魔道具にかけて何やら作業をし、終わったところで二人にカードを帰す。
「ハイ、これでいいわ。エルザちゃんは、この依頼達成により、Dランクへ昇格したわ。」
「わ~。嬉しいなぁ。これでユウもDランクになれば討伐依頼も受けれるね。」
「あら?ユウちゃんはとっくにDランクになってるわよ?」
「えっ!?」
「ん。」
ユウは、エルザにカードを見せる。そこには確かにDランクの印がついていた。
「いつの間に……。」
「ユウちゃん、色々作っては納品してくれていたからねぇ。品質もいいからボーナスポイントもついてたし。」
「………うん、もう、帰るぅ!」
「あ、エル、待ってよー。」
泣きながら駆けだすエルザを追いかけるユウ。
今日もギルドは平和だった……。
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