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フォンブラウ領、反乱!? その4
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『このミリアルド・フォンブラウが指揮を執ります。領民の皆さまは、おとなしく兵の指示に従ってください。あなた方は、私たちが必ず護ります。』
ミリアルドの言葉が街中に響く。
「母上の声?何がどうなっているのだ?」
エトルシャンの疑問に答えるものは誰もいないまま、ミリアルドの指示が次々と響いてくる。
『……エメル、そのまま門に控えている兵士を連れて、門外で迎撃をお願いします。他のルートは気にせずに、その門を護ってくださいませ。』
遠くの方で歓声が聞こえる。
『オルド、その場はエトに任せて、部下を連れて西門へ回ってください。あなたも紋を死守するのですよ。』
「ハッ、命に代えましても、奥方の命を遂行いたしますっ!……野郎ども、行くぜっ!」
「「「「「「おうっ!」」」」」」
『エト、あなたは反乱兵を牢獄へ運んだ後、ギルドへ向かいなさい。そこで、冒険者たちの指揮を任せます。街中へ入り込んだ魔物は1匹残らず討つのですよ。』
「母上……いったい何がどうなって……。」
エトルシャンは混乱していた。何も考えずに命令に従えないぐらいには、エトルシャンの育ちが良いせいだったが、この場ではそのためらいが仇となる。
「いいから、お母様の言うとおりにしてくださいませっ!」
迷うだけで動こうとしないエトルシャンを叱咤するエルザ。
基本スペックが高いわりに、こういう所がつけ入る隙になるんだと、今のエルザならわかる。
「次期領主というのなら、ここで働かずにいつ働くんですかっ!そんなんだから、ギルみたいな腹黒に騙されるんですよっ、しっかりしてくださいませっ!」
エルザが、兄を叱咤していると、ミリアルドの声が響く。
『エルリーゼ、あなたは中央区へ。今ユウちゃんが向かったからフォローをお願い。』
「お母様、了解です。」
エルザは一言返事をし、中央の市場に向けて駆け出していく。
その間にも、ミリアルドの指示が各所へと響いていた。
「ユウ、無茶しないでねっ!」
普通に路地を駆けていては時間がかかると思ったエルザは、思いっきりジャンプして屋根の上へと上がる。
ユウを信じていないわけじゃないけど、あの子は手加減が下手なんじゃないかと、最近はそう思っているエルザだった。
ユウに悪気はなく、そこまでの被害を出す気はないのだが、大きすぎる力故に、どうしても被害が大きくなってしまうのではないか?だとすれば、そのことで一番心を痛めているのも彼女だ。ユウにはそんな思いをさせたくない、だから私が側にいてフォローしなければ……その想いだけで駆けるエルザ。
中央区に近づくと、4体の魔物に取り囲まれているユウを見つける。
魔法を使うと被害が大きくなると分かっているのか、ユウは剣だけで戦っていた。
「ユウを傷つけるのは、私が許さないんだからねっ!」
エルザは飛び降りざまに、2匹のドラゴンフライを斬り刻む。
「ユウ大丈夫っ?」
「大丈夫。エルが来てくれたから。それよりあっち。」
ユウが指さす方を見ると、空からハーピーの群れがやってくるのが見える。
「空からの攻撃には無防備。でも、エルのお母さん凄い。」
ユウが感心したように言う。
街中に響くミリアルドの声は、的確に敵の来る場所へ兵が行くように指示している。
しかも、先読みするかのように、余裕をもって指示しているので、兵が辿り着いた後、十分な余裕をもって魔物を迎え撃つことが出来ている。
「そうよ、お母様は凄いんだから。お父様と結婚する前は、凄腕の冒険者でもあったのよ。」
『ジェノサイド・ミリィ』……伝説として語り継がれるAランク冒険者の通り名だ。
いつ、どこでどのような事を成し遂げたのかは、記録に残っていない。
わかっているのは、その冒険者が女性であること。彼女の依頼達成率は100%であること。彼女を敵に回した組織は、塵も残さず消え去っている事などの眉唾とも思える逸話だけである。
彼女のその後の事は誰も知らないため、半ば都市伝説として噂されるものであるが、エルザだけは、その伝説が本当であることを知っていた。
ジェノサイド・ミリィとエメル・デストロイの冒険の話の数々はエルザの幼少期のお気に入りだったのだ。
最も、大きくなり分別の付く今では、両親がいかに破天荒だったのかがわかり、自分は平穏で静かに暮らしていこうと決意している。……まぁ、本人が平穏と思っている内は幸せなのだろう。
「うん、わかる。あの指揮台をここまで使いこなせるのは並じゃない。」
ユウは、正直驚いていた。
玩具とはいっても、今の時代にしてみれば、はるかに高度な技術の筈。当然、その使い方も今の時代の考え方では、理解しづらいはず。なのにミリアルドは、簡単な説明を聞いただけで80%の性能を引き出していた。
これは余程頭の回転が速く、かつ柔軟な思考を持っていなければ無理な事だ。
ミリアルドに渡す技術はよく検討しないと、またあの悲劇が繰り返されるかも知れない。
ユウは、エルザに笑顔を向けつつ、気を引き締める。
エルザは自分の母親がいかにすごいかを繰り返し話している。
そんなエルザを見ていると、自分の考えがばからしく思えてくる。
……エルたんのお母さんだもんね。大丈夫だよね、きっと。
飛び回るハーピーに向けて光の矢を放つユウ。
攻撃を仕掛けてくるハーピーを躱し、カウンターで切り裂くエルザ。
ユウはともかくとして、遠距離攻撃の手段に乏しいエルザには少し荷が重い。
かといってユウに好きにやらせたら、この街が焦土と化してしまう。それはユウも望まないだろうから、自分が頑張るしかないと、エルザは思う。
「エル、右手の剣に魔力を集めてみて。」
そんなエルザの戦い方を見かねたのか、ユウが声をかけてくる。
「右手、こう?」
エルザは言われるがままに、魔力を剣に集める。
「そっちの剣には風の属性が宿っている。エルの魔法を増幅してくれるから、ハーピーに向かって、風魔法を放ってみて。」
「うん、わかった。」
エルザは、上空で群れているハーピーに剣先を向ける。
「いっけぇ、『風撃砲《エアロ・カノン》』!」
体内の魔力がごっそりと剣に持っていかれる感覚がすると同時に、剣先から魔力が風の砲弾と化して放たれ、群れていたハーピーたちを粉微塵にする。
「うっそ、私の魔力じゃあそこまでの威力はないはず。」
「エルたんの剣には属性魔法の増幅と魔力回復の効果が付いてる。だから今でいう初級魔法なら中級魔法ぐらいまでの威力がある。魔力回復もしてくれるから、魔力切れの心配もない。」
「ウソっ、そんなこと聞いてないよ。」
しかし、現に先程ごっそりと持っていかれた魔力が回復している。
「………色々つけすぎて、説明が面倒になった。」
ボソッというユウに、ジト目を向けるエルザ。
この分では、まだまだ知らない効果が付与されていそうなので、下手に外に出せないとエルザは思う。
……これは、本気で鑑定のスキルの習得を考えないとね。
この世界において、スキルというものは2種類存在する。
一つは、その者が先天的に備えているもので、これは『神からの贈り物』とも呼ばれる。
代表的なものが『神託』や『勇者』『賢者』と言ったもので、その者の才能を現すことが多い。
稀にある日突然ギフトを得るという、後天的なものもあるが、殆どは生まれ持ったものである。
そしてもう一つは、純然たる技術としてのスキル。
戦士たちの繰り出す技や、『鑑定』『採集』『精製』などがそれにあたる。
生まれつき持っている者もいるが、ギフトとの大きな違いは、習得さえすれば、誰もが得ることが出来る、というもの。
最も、その『習得』するのが大変で、習得できるのも一種の才能や適性が必要と言われている。
代表的な例でいえば、魔術師が剣士のスキルを習得できない、逆に剣士が魔法を使えない、などである。
ただ、聖騎士など神聖魔法が使える戦士や、魔法剣士のように魔法が使える剣士などもいるため、絶対というわけではない。
現に、エルザも双剣のスキルをいくつか持ちつつ、魔法も使えるのだ。
ただ、魔法に関しては、先天的に『魔術の才能』がなければ使うことが出来ないためギフトとの区別が曖昧であり、魔法と物理攻撃の両方が出来るという事そのものが、一種のギフトではないかともいわれている。
とにかく、下手な混乱をもたらさないためにも、ユウの技術は隠し通さなければならず、また、自身の平穏の為にもユウのくれるアイテムの全貌を知る必要があり、そのために必要なスキルは何が必要かと、真剣に悩み始めるエルザだった。
「エル、もうこの辺りに魔物はいなさそう。」
ハーピーを撃退した後、ミリアルドの指示に従い、街中を駆け回ったエルザとユウだったが、日が暮れる頃になり、魔物の姿が見えなくなってきた。
ユウの言葉に、エルザも自身で探知を試みるが、効果範囲内に適正生物を感じることは出来なかった。
「とりあえず、何とかなったのかな?」
エルザの呟きに応えるように、ミリアルドの声が響く。
『街中及び周辺の魔物は全て撃退しました。領民の皆さんは、安心して通常の暮らしに戻ってください。兵士たちは警戒レベルを徐々に下げつつ、交代で休息を取り、通常業務へと移行してください。騎士たちは反乱兵の残党処理をお願いします。この街の平和を護れたのは、皆の協力のお陰です。騎士や兵士、及び街の領民たちに心からの感謝を。』
「終わったみたいね。とりあえず帰ろっか。」
「うん、働き過ぎた。1週間は引きこもりたい。」
「あはっ、とりあえずお母様に頼んでみるね。」
エルザはそう言いながらも、なんだかんだと母親に振り回されることになり、迷惑そうな顔をしながらもそれに付き合うユウの姿を想像して、一人笑うのだった。
「えっと、これは一体……。」
領主の館の執務室の前で、エルザは呆然と立ち尽くす。
「エルリーゼ、何とかしてくれっ。」
父親であるエメロードがそう叫ぶが、あまりにもの光景に思考が付いていけない。
執務室の前、三体の馬面をしたゴーレムに捕らえられ、踏みつけられているエメロードとエトルシャン、及びオルドレアを始めとした近衛騎士たち。
それを困った顔で見ているミリアルド。
「お母様、これは一体……。」
「あのね、ユウちゃんが、護衛にってゴーレムを召喚してくれたのはいいんだけど……。」
ユウは、ミリアルドに指揮台の操作を教えた後、一人になりミリアルドを心配してゴーレムを呼び出して、執務室の前で護衛をさせていたという。
エメロードたちが戻ってきたとき、執務室の前に立ち塞がる、馬面のマッチョな風体を見て、魔物がここまで入り込んでいたかっ!と、オルドレアが止めるのも間に合わずに飛びだしていったらしい。
主が飛び出したのに、放っておくわけにもいかないので、仕方なく参戦したオルドレアたちだったが、外の騒ぎを聞きつけて、ミリアルドが慌てて扉を開けた時には、すでにエメロードたちが取り押さえられた後だった。
しかも、ゴーレムを呼び出したのはユウなので、ミリアルドがいくら離してと言っても聞いてくれるわけもなく、こうしてエルザたちが戻ってくるのを待っていたという。
「そうなんだ……ユウ、お母様を護ってくれてありがとうね。もう大丈夫だから解除してあげて。」
「うん、でも……。」
ユウは何を思ったのか、エメロードの前でしゃがみ、転がっているエメロードと視線を合わせる。
「エルたんが私の嫁になるなら解除するよ。」
そう言ってニヤリと笑う。
エメロードに娘を説得しろというってるのだ。
「ユウ、何言ってるのっ!ふざけてないで早く解除しなさいっ!」
「えー、でもぉ、エルたん嫁に来て欲しい。」
恥ずかしそうに、顔を赤らめながら、身体をくねくねさせるユウ。
それを見たエルザの中で何かがキレる。
「ユウ……いい加減にしないと、ご飯抜きだよ。」
エルザがそう言った途端、ゴーレムが消える。
ユウが即座に解除したのだ。
「ご飯抜きダメ。」
「ごめんなさいは?」
「ゴメンナサイ、もうしません。だからご飯……。」
「本当に、そう言う意地悪、二度としちゃだめだからね。」
「ハイ……。」
ご飯抜きは余程堪えるのか、身を縮こまらせて、大人しくお説教を受けるユウだった。
ミリアルドの言葉が街中に響く。
「母上の声?何がどうなっているのだ?」
エトルシャンの疑問に答えるものは誰もいないまま、ミリアルドの指示が次々と響いてくる。
『……エメル、そのまま門に控えている兵士を連れて、門外で迎撃をお願いします。他のルートは気にせずに、その門を護ってくださいませ。』
遠くの方で歓声が聞こえる。
『オルド、その場はエトに任せて、部下を連れて西門へ回ってください。あなたも紋を死守するのですよ。』
「ハッ、命に代えましても、奥方の命を遂行いたしますっ!……野郎ども、行くぜっ!」
「「「「「「おうっ!」」」」」」
『エト、あなたは反乱兵を牢獄へ運んだ後、ギルドへ向かいなさい。そこで、冒険者たちの指揮を任せます。街中へ入り込んだ魔物は1匹残らず討つのですよ。』
「母上……いったい何がどうなって……。」
エトルシャンは混乱していた。何も考えずに命令に従えないぐらいには、エトルシャンの育ちが良いせいだったが、この場ではそのためらいが仇となる。
「いいから、お母様の言うとおりにしてくださいませっ!」
迷うだけで動こうとしないエトルシャンを叱咤するエルザ。
基本スペックが高いわりに、こういう所がつけ入る隙になるんだと、今のエルザならわかる。
「次期領主というのなら、ここで働かずにいつ働くんですかっ!そんなんだから、ギルみたいな腹黒に騙されるんですよっ、しっかりしてくださいませっ!」
エルザが、兄を叱咤していると、ミリアルドの声が響く。
『エルリーゼ、あなたは中央区へ。今ユウちゃんが向かったからフォローをお願い。』
「お母様、了解です。」
エルザは一言返事をし、中央の市場に向けて駆け出していく。
その間にも、ミリアルドの指示が各所へと響いていた。
「ユウ、無茶しないでねっ!」
普通に路地を駆けていては時間がかかると思ったエルザは、思いっきりジャンプして屋根の上へと上がる。
ユウを信じていないわけじゃないけど、あの子は手加減が下手なんじゃないかと、最近はそう思っているエルザだった。
ユウに悪気はなく、そこまでの被害を出す気はないのだが、大きすぎる力故に、どうしても被害が大きくなってしまうのではないか?だとすれば、そのことで一番心を痛めているのも彼女だ。ユウにはそんな思いをさせたくない、だから私が側にいてフォローしなければ……その想いだけで駆けるエルザ。
中央区に近づくと、4体の魔物に取り囲まれているユウを見つける。
魔法を使うと被害が大きくなると分かっているのか、ユウは剣だけで戦っていた。
「ユウを傷つけるのは、私が許さないんだからねっ!」
エルザは飛び降りざまに、2匹のドラゴンフライを斬り刻む。
「ユウ大丈夫っ?」
「大丈夫。エルが来てくれたから。それよりあっち。」
ユウが指さす方を見ると、空からハーピーの群れがやってくるのが見える。
「空からの攻撃には無防備。でも、エルのお母さん凄い。」
ユウが感心したように言う。
街中に響くミリアルドの声は、的確に敵の来る場所へ兵が行くように指示している。
しかも、先読みするかのように、余裕をもって指示しているので、兵が辿り着いた後、十分な余裕をもって魔物を迎え撃つことが出来ている。
「そうよ、お母様は凄いんだから。お父様と結婚する前は、凄腕の冒険者でもあったのよ。」
『ジェノサイド・ミリィ』……伝説として語り継がれるAランク冒険者の通り名だ。
いつ、どこでどのような事を成し遂げたのかは、記録に残っていない。
わかっているのは、その冒険者が女性であること。彼女の依頼達成率は100%であること。彼女を敵に回した組織は、塵も残さず消え去っている事などの眉唾とも思える逸話だけである。
彼女のその後の事は誰も知らないため、半ば都市伝説として噂されるものであるが、エルザだけは、その伝説が本当であることを知っていた。
ジェノサイド・ミリィとエメル・デストロイの冒険の話の数々はエルザの幼少期のお気に入りだったのだ。
最も、大きくなり分別の付く今では、両親がいかに破天荒だったのかがわかり、自分は平穏で静かに暮らしていこうと決意している。……まぁ、本人が平穏と思っている内は幸せなのだろう。
「うん、わかる。あの指揮台をここまで使いこなせるのは並じゃない。」
ユウは、正直驚いていた。
玩具とはいっても、今の時代にしてみれば、はるかに高度な技術の筈。当然、その使い方も今の時代の考え方では、理解しづらいはず。なのにミリアルドは、簡単な説明を聞いただけで80%の性能を引き出していた。
これは余程頭の回転が速く、かつ柔軟な思考を持っていなければ無理な事だ。
ミリアルドに渡す技術はよく検討しないと、またあの悲劇が繰り返されるかも知れない。
ユウは、エルザに笑顔を向けつつ、気を引き締める。
エルザは自分の母親がいかにすごいかを繰り返し話している。
そんなエルザを見ていると、自分の考えがばからしく思えてくる。
……エルたんのお母さんだもんね。大丈夫だよね、きっと。
飛び回るハーピーに向けて光の矢を放つユウ。
攻撃を仕掛けてくるハーピーを躱し、カウンターで切り裂くエルザ。
ユウはともかくとして、遠距離攻撃の手段に乏しいエルザには少し荷が重い。
かといってユウに好きにやらせたら、この街が焦土と化してしまう。それはユウも望まないだろうから、自分が頑張るしかないと、エルザは思う。
「エル、右手の剣に魔力を集めてみて。」
そんなエルザの戦い方を見かねたのか、ユウが声をかけてくる。
「右手、こう?」
エルザは言われるがままに、魔力を剣に集める。
「そっちの剣には風の属性が宿っている。エルの魔法を増幅してくれるから、ハーピーに向かって、風魔法を放ってみて。」
「うん、わかった。」
エルザは、上空で群れているハーピーに剣先を向ける。
「いっけぇ、『風撃砲《エアロ・カノン》』!」
体内の魔力がごっそりと剣に持っていかれる感覚がすると同時に、剣先から魔力が風の砲弾と化して放たれ、群れていたハーピーたちを粉微塵にする。
「うっそ、私の魔力じゃあそこまでの威力はないはず。」
「エルたんの剣には属性魔法の増幅と魔力回復の効果が付いてる。だから今でいう初級魔法なら中級魔法ぐらいまでの威力がある。魔力回復もしてくれるから、魔力切れの心配もない。」
「ウソっ、そんなこと聞いてないよ。」
しかし、現に先程ごっそりと持っていかれた魔力が回復している。
「………色々つけすぎて、説明が面倒になった。」
ボソッというユウに、ジト目を向けるエルザ。
この分では、まだまだ知らない効果が付与されていそうなので、下手に外に出せないとエルザは思う。
……これは、本気で鑑定のスキルの習得を考えないとね。
この世界において、スキルというものは2種類存在する。
一つは、その者が先天的に備えているもので、これは『神からの贈り物』とも呼ばれる。
代表的なものが『神託』や『勇者』『賢者』と言ったもので、その者の才能を現すことが多い。
稀にある日突然ギフトを得るという、後天的なものもあるが、殆どは生まれ持ったものである。
そしてもう一つは、純然たる技術としてのスキル。
戦士たちの繰り出す技や、『鑑定』『採集』『精製』などがそれにあたる。
生まれつき持っている者もいるが、ギフトとの大きな違いは、習得さえすれば、誰もが得ることが出来る、というもの。
最も、その『習得』するのが大変で、習得できるのも一種の才能や適性が必要と言われている。
代表的な例でいえば、魔術師が剣士のスキルを習得できない、逆に剣士が魔法を使えない、などである。
ただ、聖騎士など神聖魔法が使える戦士や、魔法剣士のように魔法が使える剣士などもいるため、絶対というわけではない。
現に、エルザも双剣のスキルをいくつか持ちつつ、魔法も使えるのだ。
ただ、魔法に関しては、先天的に『魔術の才能』がなければ使うことが出来ないためギフトとの区別が曖昧であり、魔法と物理攻撃の両方が出来るという事そのものが、一種のギフトではないかともいわれている。
とにかく、下手な混乱をもたらさないためにも、ユウの技術は隠し通さなければならず、また、自身の平穏の為にもユウのくれるアイテムの全貌を知る必要があり、そのために必要なスキルは何が必要かと、真剣に悩み始めるエルザだった。
「エル、もうこの辺りに魔物はいなさそう。」
ハーピーを撃退した後、ミリアルドの指示に従い、街中を駆け回ったエルザとユウだったが、日が暮れる頃になり、魔物の姿が見えなくなってきた。
ユウの言葉に、エルザも自身で探知を試みるが、効果範囲内に適正生物を感じることは出来なかった。
「とりあえず、何とかなったのかな?」
エルザの呟きに応えるように、ミリアルドの声が響く。
『街中及び周辺の魔物は全て撃退しました。領民の皆さんは、安心して通常の暮らしに戻ってください。兵士たちは警戒レベルを徐々に下げつつ、交代で休息を取り、通常業務へと移行してください。騎士たちは反乱兵の残党処理をお願いします。この街の平和を護れたのは、皆の協力のお陰です。騎士や兵士、及び街の領民たちに心からの感謝を。』
「終わったみたいね。とりあえず帰ろっか。」
「うん、働き過ぎた。1週間は引きこもりたい。」
「あはっ、とりあえずお母様に頼んでみるね。」
エルザはそう言いながらも、なんだかんだと母親に振り回されることになり、迷惑そうな顔をしながらもそれに付き合うユウの姿を想像して、一人笑うのだった。
「えっと、これは一体……。」
領主の館の執務室の前で、エルザは呆然と立ち尽くす。
「エルリーゼ、何とかしてくれっ。」
父親であるエメロードがそう叫ぶが、あまりにもの光景に思考が付いていけない。
執務室の前、三体の馬面をしたゴーレムに捕らえられ、踏みつけられているエメロードとエトルシャン、及びオルドレアを始めとした近衛騎士たち。
それを困った顔で見ているミリアルド。
「お母様、これは一体……。」
「あのね、ユウちゃんが、護衛にってゴーレムを召喚してくれたのはいいんだけど……。」
ユウは、ミリアルドに指揮台の操作を教えた後、一人になりミリアルドを心配してゴーレムを呼び出して、執務室の前で護衛をさせていたという。
エメロードたちが戻ってきたとき、執務室の前に立ち塞がる、馬面のマッチョな風体を見て、魔物がここまで入り込んでいたかっ!と、オルドレアが止めるのも間に合わずに飛びだしていったらしい。
主が飛び出したのに、放っておくわけにもいかないので、仕方なく参戦したオルドレアたちだったが、外の騒ぎを聞きつけて、ミリアルドが慌てて扉を開けた時には、すでにエメロードたちが取り押さえられた後だった。
しかも、ゴーレムを呼び出したのはユウなので、ミリアルドがいくら離してと言っても聞いてくれるわけもなく、こうしてエルザたちが戻ってくるのを待っていたという。
「そうなんだ……ユウ、お母様を護ってくれてありがとうね。もう大丈夫だから解除してあげて。」
「うん、でも……。」
ユウは何を思ったのか、エメロードの前でしゃがみ、転がっているエメロードと視線を合わせる。
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「えー、でもぉ、エルたん嫁に来て欲しい。」
恥ずかしそうに、顔を赤らめながら、身体をくねくねさせるユウ。
それを見たエルザの中で何かがキレる。
「ユウ……いい加減にしないと、ご飯抜きだよ。」
エルザがそう言った途端、ゴーレムが消える。
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「ご飯抜きダメ。」
「ごめんなさいは?」
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