世界を破滅させる聖女は絶賛引き籠り中です

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引きこもり聖女、王都へ その2

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「結論から言おう。エルリーゼはユウ殿に嫁ぐことが正式に決定した。」
「エルたんは正式に私の嫁。あんなことやこんなことをしても問題ない。」
「問題あるわよっ!っていうかどういう事なんですかっ!」
エルザは突然そんなことを言い出した、父親であり領主であるエメロードを問い詰める。
「どうもこうも、ユウ殿の望みでもあるし、ユウ殿の持つ知識や技術は、我が国にとって非常に魅力的であり、また、他国へ流したくないものだ。であるならば、ユウ殿の望みを叶え、友好を結ぶのは当たり前ではないか?」
「それって、つまり……。」
「そうだ、政略結婚だ。貴族の娘であれば政略結婚は覚悟の上であろう?それに、エルリーゼもユウ殿の事は嫌いではないだろう?それならば問題はないはずだが?」
……政略結婚の駒にされるのが嫌で冒険者になった、とは言えないエルザ。
「でも、女の子同士で……。」
だから必死で抵抗を試みるのだが……。
「問題ない。ユウ殿は神様なのだろう?そしてエルリーゼは巫女でもある。巫女が神の許へ嫁ぐのは、古来より定められている事ではないか?」
「うっ……。」

父親が言うのはもっともなことだ。古来より、巫女は神の花嫁という立場であり、それゆえに神聖にして侵すべからずという不文律があるのだ。
そして巫女たるものは、いつでも神の許に呼ばれてもいい様に身も心も清めておくのだ。
エルザは、神殿から出てかなり経つとはいえ、巫女の資格を失っていない……つまり神の花嫁になる資格があるというわけで、古の女神ユースティアに嫁ぐのは問題なく、神と巫女との間で性別などというものは些細なことでしかない。
実際に神など存在していなく、ユウは自分たちと変わらないただの人間だという事実は、今この場では関係がない。

「エルたんは、私の事……嫌い?」
ユウが上目遣いで見つめてくる。
この仕草は反則だ。ユウの顔で、このような仕草をされて、平気でいられる人間などいるわけがない。いるとすれば、それは精神にどこか支障をきたしているものだけだろう。
「嫌いじゃないわよ……わかったわよ。ユウの許に嫁げばいいんでしょっ!」
「うん、エルたんは私が幸せにしてあげる。」
諦めて頷くエルザを、満面の笑顔で迎え、ギュッと抱きしめるユウ。
「もぅ……そんな顔されたら何も言えないじゃないのよ。」
エルザが抱きしめ返すと、胸の中でユウがぼそりと呟く。
「よかった。エルたんに断られたら、八つ当たりでこの世界破壊するところだったよ……って、痛っ、痛いよぉ。エルたん力入れすぎぃ……。」
エルザはその呟きを聞き、何も言わずに抱きしめる腕に力を籠めるのだった。

「コホンっ。あー、話を続けていいかな?」
はた目にはイチャついているようにしか見えない二人に、声をかけるエメロード。
「まだ何かあるのですか、お父様。」
「ウム。まだあるというか、ここからが本題なのだが。」
エメルはコホンと咳ばらいを一つすると、重々しい声で二人に告げる。
「二人には、速やかに王都に向かってもらう。そして王都に到着後国王に謁見せよ。これは王命である。」
「ヤダ。」
間髪を入れずにユウが断る。
「ちょっと、ユウ。」
「私、一杯働いた。全部エルたんとここで引き籠るため。なのに、何で出てかなければならないの?」
「ユウ、そうはいっても王命だよ?断るなんてこと出来るわけないじゃない。」
「エルたんは出て行ってもいいと思ってるの?用があるならこっちに来ればいい。そう思わない?」
「だからね、いいとか悪いとかじゃなくて……。」
「まだお風呂一つしか入ってないのに?それに、近いうちに温泉が出るよ?鉱泉見つけたって報告があったから。」

ここを作ったのも、現在辺り一帯を調査しているのも、例によって例のごとく、馬面ゴーレムたちである。ゴーレムを創造した時にユウとの間には一種の繋がりパスが出来ており、ゴーレムたちが見聞きしたものは、イメージをそのまま創造主であるユウに伝えることが出来、また、ユウは念じるだけで、ゴーレムたちに指示を送ることが出来るので、かなり重宝しているのだ。
領都にいながら、ここの教会の改装や周りの開発が出来ているのも、そのおかげだった。そして、各地に散っているゴーレムたちの中の一組が温泉らしき鉱泉を見つけたという連絡は、先ほどユウの知るところとなり、すぐに調査及び温泉場の造成の指示を出していた。
「温泉っ!……そうね、用があればこっちに来ればいいんじゃないかしら?私たちが出向く必要性はないわよね。」
見事なまでの掌返しだった。
最近諸々の事情でゆっくり出来なかったところに、巡り合えた夢のようなお風呂がたくさんある屋敷。加えて近々温泉も楽しめるというのに、なぜ、碌にお風呂も入れないような旅をしてまで王都へ向かわなくてはならないのだろうか?

「いいんだな?本当に国王を呼んでいいんだな?」
エメロードがくどいぐらいに聞いてくる。
「国王が動くとなれば、護衛など諸々を含めて200人近くの人間がついて来るんだぞ。しかも国王に粗相があってはならない、と食事も厳重なチェックが何重にも入るからかなりの時間が経った後の冷め切ったものしか食べられなくなるぞ。今みたいに自由な時間に好きなものを好きなだけ食べるなんてことは出来ないし、風呂場も占拠された上に調査と言って滅茶苦茶にかき回されるぞ。それでも呼んでいいんだな?」
「「王都に行きます。」」
ユウとエルザの声がそろう。
ユウにしてみれば、まともに食事が出来なくなるなんてことは論外であるし、エルザも、せっかくの憩いの場を荒らされては元も子もない。
つまり、ここに呼びつけるという事は不可能であった。

「でもなんで国王様が私たちに会いたいとおっしゃられるのかしら?」
今の国王、シュトルフ・ド・エルザームは父親であるエメロードの実兄である。つまりエルザにとっては伯父に当たるので、まったく知らぬ仲ではない。
しかし、公私のケジメはしっかりとつける人なので、ただ身内に会いたいからという理由で呼び出すようなことはなく、それ故に伯父と姪という関係とはいえ、今までに顔を合わせたのは数回でしかなかった。
それをわざわざ呼び出すというのだから、内容は公的かつ重大な事柄なのだろうと予測は出来るのだが、その内容に全く心当たりがない。

「表向きは、この街を救った『聖女』に労いの言葉をかけるため、だな。」
「表向きは……、ね。それで?」
「細かいことは国王に謁見してから聞いてくれ。それより、王都に行って、国王に謁見した後は、学園に通ってもらうことになると思うからそのつもりでな。」
「学園!?なんで?」
「面倒……。」
学園……各国にある教育機関の総称である。
成り立ちや教育方針などは国によって違うが、6歳から成人になる15歳までの子供たちが学園に属するというのは概ね共通した認識である。
エルザーム王国に限らないが、学園に属するにはそれなりにお金がかかるため、貴族階級の子女子息が生徒の大半を占める。その次に多いのが商人や豪族などの平民の中でも富裕層に属する者達で、一般の平民たちの子供が属することは少ない。
しかし、エルザーム王国の場合、学園の中に『冒険者課程コース』というものがあり、このコースには国からの多大な援助があるため、冒険者を目指そうという者達、特に貧しい平民層に生まれた者たちが、一旗揚げて成り上がろうとこぞって入学してくる。

「今更学園に通うって……。」
「そう言わないでくれ。冒険者課程なら、今のお前よりも年上の者たちもゴロゴロしているし、それに、これはユウ殿の目的の為でもある。」
「ユウの?」
「私の?」
ユウとエルザは互いに顔を見合わせる。
「ユウの目的って?」
「あ、うん………。」
ユウはチラッとエメロードを見る。
エメロードは軽く頷く。
「えっとね、エル、この前『神託』について話してくれたでしょ?」
「あ、うん。私が冒険者になるきっかけね。」
「それ、変だと思わない?」
「変?何が?」
「……神託って、誰から受けたの?」
「誰って、それは女神様……あっ!」
「わかった?のよ。私がその証拠。」
「確かに……。」
今、この世界に伝わっている神話は、過去にあった超古代文明の出来事が歪んで伝わったものだ。
神の御業ともいうべき力を有したロストテクノロジー、それらを使うただの人間……それが今に伝わる神様の正体であり、その生き証人が目の前にいるユウ……夜の女神であり神々の御代を亡ぼした破壊神ユースティア。
「じゃぁ、あの『神託』は?……誰が、どうやって……。」
……女神様はいない……でもあの信託は、確かに女神さまのもの……それだけは間違いないと確信できるのに……。

「魔道ネットワーク。」
「えっ?」
ユウが聞きなれない言葉を呟く。
「世界を魔導の力で繋ぐ通信網。シルヴィが設計していた……完成には程遠かったけど。」
「世界を……繋ぐ?」
言ってることが理解できない。
「むぅ……。エルたんに理解させるのは難しい。」
ユウが考えこむ。
「簡単に言えば、シルヴィの声を世界中に届ける装置。」
「じゃぁ『神託』ってもしかして……。」
「そう、シルヴィもしくはその装置を使えるが伝えている可能性。」
「ひょっとしたらマザー・シルヴィア様が生きてらっしゃる?」
「それは分からない。可能性も低い。だけどもしかしたら……。」
「じゃぁユウの目的って、暁の女神さまを探し出すこと?」
「見つかるとは限らない。でも装置が動いてる可能性は高い。……ここも魔道ネットワークに関係した建物だった。」
「そうなのっ!?」
……そう言えば、ここも遺跡だって言ってたっけ。

「でも、それと学園に通うのとどう関係が?」
「わからない。」
エルザとユウはエメロードを見る。
「学園には様々な身分の人々が集まるからな。情報収集には最適だろ?」
「うぅ、めんどくさい。エルたんに任せる。」
「ちょ、ちょっと、何でも押し付けないでよ。」
「……面倒。国を破壊されたくなかったら情報を出せって王様に言う。」
「待って、待って、待ってっ!私が情報集めるからユウは大人しくしてて、ねっ!」
エルザはそう言ってユウを宥める。
……そうだった、ユウはこういう子だった。
最近大人しかったので油断してたけど、面倒ごとを力づくで処理しようとする短絡的思想の持主だった。
その思想を矯正するためにも学園に通うってのはいい考えなのかもしれない、とエルザは思うのだった。

「とにかく、だ、2~3日ここでゆっくりした後は王都に向かってくれ。頼んだぞ。」
エメロードはそう告げると、「風呂に行く」と言って部屋を出ていき、後にはユウとエルザだけが残されたのだった。
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