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引きこもり聖女のサバイバル その5
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「ねぇ?」
「ん?」
「……何でもない。」
ミヤコはそう言うと、作業に戻る。
今やっているのは、ポーションを創るために野草をひたすらすりつぶす、という単純作業だ。
エルザは、ミヤコの言いたいことがわかるのだが、あえて気づかない振りをする。
「ねぇ?」
しかし、黙っていられなくなったのか、ミヤコは再び口を開く。
「ん?」
「いつまでこんな事やってればいいのかなぁ?」
「ユウのやる気が戻るまで?」
「なぜ疑問形?それより、何とかならないの?」
エルザに詰め寄るミヤコ。すでに作業の手は止まっている。
とはいうものの、ミヤコの気持ちもわからなくもない。
遺跡の中枢部を見つけ、その機能を掌握したまでは良かったが、あれからすでに1週間が過ぎている。
何故そんなことになっているかというと、遺跡の機能を掌握した、マスターであるユウが、あれからずっと引き籠っているからだった。
ユウがいなければ、施設の機能を動かすことも出来ない。
という事は、当然外に出るための転移陣も動かせないわけで……。
結局、やることもないので、迷宮内で採集できる素材でポーションなどのアイテムを作って時間をつぶす毎日が続いているのだ。
「ならなくも……、ないんだけど……。」
「あぁ、くそっ!」
エルザが何か言いかけたとき、向こうの方でカズトの叫び声が聞こえる。
「くぅ、何でつかないんだよっ!」
カズトは立てた棒にひもを巻き、横にした板を上下に動かしている。
それにより紐の巻き上げの力を利用して縦の棒を高速で回す……いわゆる「舞きり式」と呼ばれる手法で火を熾しているらしい。
「おにぃちゃん、頑張るにゃんっ。」
そんなカズトを面白そうに眺めているのは、使い魔?のクロだ。
普段は黒猫の姿をしているのだが、人型だとカズトの反応が面白いらしく、暇を見ては人型になってカズトを揶揄っている。
「ねぇ、あれなにやってるの?」
「あ、うん、火を熾すんだって。」
「火を?また何で?」
「さぁ?人類の英知がどうのとか言ってたわよ。」
「……まいっか、どうせやることないしね。」
エルザが興味を失ったように視線を戻し、自分の作業に戻る。
とはいっても、もう作ったポーションは、各種100本を超える数がある。
「そろそろ、別の作業考えないとね。」
「それもいいんだけど、さっき言いかけた……。」
手を止めて考え込むエルザに、ミヤコが声をかけるが、そのタイミングで、また大声が上がる。
「お、おまっ、何やってんだよっ!」
エルザとミヤコが、カズトたちの方へ視線を向けると、そこには薪に火をつけて、煌々と燃やしているクロと、火起こし器を片手にわなわなと震えているカズトの姿が映る。
「だってぇ、飽きちゃったんだにゃ。」
「飽きたって、お前なぁっ。人がせっかく頑張ってるのにっ!」
「だってぇ、全然火が付かにゃいにゃん?そろそろお腹《にゃか》空いたし、お遊びの時間は終わりにゃん。」
どうやらクロが、カズトが火を熾すのを待たずに、勝手に魔法で火をつけたらしい。
しかし、怒り心頭のカズトには悪いが、魔法が使えないならともかく、着火《ティンダー》の魔法で火をつけた方が時間も手間もかからない。
更には着火《ティンダー》の魔法を封じ込めた魔道具は、冒険者の基本セットにもあるため、魔法が使えなくてもそれを使えばいい。
つまり、言い方は悪いが、カズトのやっていたことは、クロの言う通りお遊び以外の何ものでもないのだ。
「違うだろう?サバイバルって言うのは、もっと、こう……。」
カズトが蹲り、ブツブツ言うのを無視して、クロは手早く焚火の周りに石を組み上げ、簡易的な竈を創ると、その上に鍋を置く。
そして、斬り刻んだ食材を順番に鍋に放り込むとゆっくりとかき回している。
この数日で分かったことだが、クロは人型になれば料理も出来る。しかも美味いのだ。本人の話によれば、基本的な家事は出来るとのいう事で、「地上に戻ったら家事一切はお任せにゃん」と豪語していた。
つまりはこれからもついて来る気満々だという事だ。
「何やってんだか。」
エルザは軽くため息を吐く。
「まぁ、カズトの言いたいこともわかる気もするけどね。」
「そうなの?」
「うん、私たちの世界では、便利な文明から離れて、こういう自然の中で生活するって言うのが流行っていたのよ。」
ミヤコはそう言って、日本でのキャンプについて説明するが、エルザはその話を聞いて首を傾げる。
「わからないわ。便利な文明から離れるのよね?」
「うん。」
「でも、場所は決まっていて、整地してあるのよね?」
「うん、他にもコテージがあって、泊まる場所が用意してあるところもあるわ。」
「それに焚火に使う薪は用意してあるのよね?」
「あー、うん、拾う事もあるけど、殆どは買うかな?」
「お風呂とかもあると?」
「あー……うん、トイレとか飲み水とかインフラ整備はしっかりしてるかな?」
「……それって、村の人たちより便利で優雅な生活よね?」
エルザがジト目でミヤコを見る。
言われてみれば、この世界の村の人たちの生活は、日本のキャンプに比べるとはるかに過酷だ。
水は共用の井戸から、毎回使う分だけ汲み上げなければならない。
火をつけるのは魔道具があって楽ではあるが、燃やすための薪は、森から木を切り出して集めてきて、薪として使えるように砕いて乾燥させる必要がある。
お風呂に至っては、そんな贅沢なんかできない、とほとんどの村人は川での水浴びが普通なのだ。
寝る場所よりお風呂の方が重要!とお風呂に並みならぬ情熱を傾けるエルザと、エルザとイチャつくためなら自重しない、桁外れの魔力を有したユウがいるからこそ、こうして冒険中でも安心して寝る場所がありお風呂にも入れるうえ、食材も豊富なだけであって、そのせいで、楽なキャンプと考えがちではあるが、本来であれば、もっと過酷な状況下に置かれるのが普通だという事に気づかないミヤコとカズトだった。
「あ、あはは……。」
だからミヤコはその場は笑って誤魔化すしかなかった。
そして、話題を変えることにする。
「ところで、話を戻すけど、ユウちゃん、何とか出来るの?」
「あ、うん……出来なくはないけど……。」
エルザが口ごもる。
「何とか出来るなら、何とかしようよ?」
「でも……やりたくないなぁ。」
「やりたくないって……そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。」
煮え切らない態度のエルザに、ミヤコは説得を試みる。
「……そこまで言うなら、ミヤコがやりなよ。」
「出来るならやってるわよっ。」
「出来るからやってよ。」
「へっ?」
ミヤコの口から間の抜けた声が漏れる。
「ミヤコならできるよ。ユウと一緒に部屋に籠ってひたすら甘やかして、ユウの求めに応じるだけ、簡単でしょ?」
「求めに応じるって……まさか……。」
「多分想像してることであってるわ。今のユウ甘えたになってるから激しいわよ。」
「うっ……。」
「以前似た様な状況の時は丸二日で復活したけど、今回はどうかな?五日もかからないとは思うけどね。」
「えっと、ね、エルちゃん……。」
「あ、そうそう、クロも一緒に連れていくといいかも。あの娘にも原因の一旦はあるし、ミヤコ一人じゃ大変だと思うから。」
「あーでも、私の体力じゃぁ半日も持たないしぃ……。」
そう言って逃げ出そうとするミヤコの肩をガシッと掴む。
「大丈夫よ。ユウがリフレッシュの魔法を使ってくれるから。少なくとも二日は持つことは私で実証済。」
「でも……。」
「そろそろ、何とかしなきゃって思うんだよね?出来るならやるんだよね?」
エルザはミヤコの逃げ道を塞ぎにかかる。
「大丈夫。ユウをひたすら甘えさせるだけの簡単なお仕事よ。……クロ、こっちにいらっしゃい。」
「ニャにかにゃ?」
エルザに呼ばれたクロがすぐにやってくる。
「今からミヤコと一緒にユウを甘やかしてきて。あなたもマスターを放置してるのは困るでしょ?」
「今のマスターはエル様にゃ。ユウ様がそう言ったニャ。」
「……じゃぁ、マスター命令よ。ミヤコと一緒に、ユウの気分が浮上するまで甘やかしてきて。」
「……すごく、イヤにゃ予感がするにゃ……。けど仕方がにゃいにゃ。」
クロは項垂れながらもミヤコの手を引っ張って小屋の方へ向かう。
「ちょ、ちょっと、私まだやるとは……って、離しなさいよ……。」
「ダメだニャ、マスター命令にゃ。諦めるにゃ。」
二人は言い合いをしながら小屋の中へと姿を消した。
◇
「……エルちゃん、恨むからね。」
「アハッ、お代りあるよ。」
憮然とした表情のミヤコに、笑顔でお椀を差し出すエルザ。
あの日から三日が経ち、ようやくミヤコが出てきた。
ミヤコの話では、ミヤコたちの身体を張った渾身の務めにより、ユウの気分も上昇、今は転移陣を起動させるための魔力を集めているとの事だった。
「その魔力集めにクロが協力してるの?」
「うーん、協力というより、返還してる……のかな?」
「返還?どういうこと?」
「何でも、ユウちゃんの魔力は、この遺跡のコアを起動させるために使われたんだって。で、その媒介をしたのがクロちゃんって話なのね、だからクロちゃんの魔力を転移陣へ……ってことなんだけど……説明するより見た方が早いよ。」
ミヤコはそう言って、エルザに小屋の中に向かう様に勧める。
「あ、俺もちょっと興味あるな。一緒に行ってもいいか?」
早々に食事を終え、暇を持て余していたカズトが腰を上げる……が、その腕をミヤコが引っ張る。
「カズトはダメ。」
「何でだよ。」
「なんでも。とにかくダメなものはダメッ!……エルちゃん、早くいって。こいつは押さえておくから。」
「あ、うん……じゃぁ、行ってくる。」
エルザは不審そうにしながらも小屋の中へと入っていく。
「ったく、なんなんだよ。」
「いいの。アンタには刺激が強すぎるわよ。」
「………。」
黙り込んで、意味もなく鍋をかき回すカズト。
それを横目で見ながら、「今エルザがいったから頑張るんだよ、クロ」と心の中でエールを送るミヤコだった。
◇
それは、なんというか……。
エルザが目にしたのは予想もしていなかった光景だ。
「あんっ……、もうだめにゃぁ。許してにゃぁ。」
「まだよ。まだいけるよね?」
目の前では、クロが何も身に纏わない状態でマナイーターの触手により拘束されて喘いでいた。
そして、その様子をじっと見つめるユウ。
時折何か液体のようなものをかけているのは、回復ポーションだろうか?
「えっと、ユウ、何してるの?」
「ん?まな板にしてる。」
「は?」
思いもよらぬ返答にエルザは目を丸くする。
「あれ、あの膨らみが魔力のもと。あのため込んだ魔力をマナイーターが吸い上げて、コアに還元している。」
ユウが指さすのはクロの胸。
確かに、小柄な身体つきのクロにしては胸が大きいと思っていたが、魔力をため込んで大きくしていたとは驚きだった。
「シルヴィの胸はちっちゃい。だから、あんなふうにしたんだと思う。……シルヴィけなげ……。」
「けなげっていうニャ……あんっ……だめぇ……ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……。」
クロが何かを言いかけたが、それ以上の刺激により、何も言えなくなる。
「必要魔力を還元するのに、後1日かかる。」
「1日って、クロちゃん、終わるまでこのまま?」
「うん、エルたんも参加する?」
「……がんばってね。」
「そんにゃぁ。マスターみすてにゃいでぇ……ァッ……イっちゃうにゃぁぁぁぁ……。」
「ポーション差し入れるから頑張ってね。」
エルザは小刻みに震えるクロに背を向けて部屋を出ていく。
「見捨てられたにゃぁぁぁぁぁ……。」
ドアを閉めると、クロの雄たけびも小さくなる。
「ごめんね、クロ、大きいあなたがいけないのよ。」
エルザは心の中でもう一度クロに詫びるのだった。
◇
「じゃぁ準備はいい?」
翌々日、すべての準備を終えたエルザたちは、魔道機械のコアの前に集まっていた。
「大丈夫。いつでもいいわよ。」
ミヤコが答えると、ユウは軽く頷いてコアのスイッチを入れる。
「じゃぁ、集まって。」
エルザたちはユウの傍に集まると、すぐに光がエルザたちを包み込む……。
「……ここは……外?」
光が消えた後、周りを見回す。
一見したところ、森の入り口付近のようにも見える。
「あ、あれ見て。」
ミヤコが東の方を指さす。
視線を向けると、その先には赤々と燃え上がる炎が立ち上っていた。
「いったい何がどうなってるのよっ!」
無事に外に出れたものの、新たな問題に直面したようだ、と思うエルザだった。
「ん?」
「……何でもない。」
ミヤコはそう言うと、作業に戻る。
今やっているのは、ポーションを創るために野草をひたすらすりつぶす、という単純作業だ。
エルザは、ミヤコの言いたいことがわかるのだが、あえて気づかない振りをする。
「ねぇ?」
しかし、黙っていられなくなったのか、ミヤコは再び口を開く。
「ん?」
「いつまでこんな事やってればいいのかなぁ?」
「ユウのやる気が戻るまで?」
「なぜ疑問形?それより、何とかならないの?」
エルザに詰め寄るミヤコ。すでに作業の手は止まっている。
とはいうものの、ミヤコの気持ちもわからなくもない。
遺跡の中枢部を見つけ、その機能を掌握したまでは良かったが、あれからすでに1週間が過ぎている。
何故そんなことになっているかというと、遺跡の機能を掌握した、マスターであるユウが、あれからずっと引き籠っているからだった。
ユウがいなければ、施設の機能を動かすことも出来ない。
という事は、当然外に出るための転移陣も動かせないわけで……。
結局、やることもないので、迷宮内で採集できる素材でポーションなどのアイテムを作って時間をつぶす毎日が続いているのだ。
「ならなくも……、ないんだけど……。」
「あぁ、くそっ!」
エルザが何か言いかけたとき、向こうの方でカズトの叫び声が聞こえる。
「くぅ、何でつかないんだよっ!」
カズトは立てた棒にひもを巻き、横にした板を上下に動かしている。
それにより紐の巻き上げの力を利用して縦の棒を高速で回す……いわゆる「舞きり式」と呼ばれる手法で火を熾しているらしい。
「おにぃちゃん、頑張るにゃんっ。」
そんなカズトを面白そうに眺めているのは、使い魔?のクロだ。
普段は黒猫の姿をしているのだが、人型だとカズトの反応が面白いらしく、暇を見ては人型になってカズトを揶揄っている。
「ねぇ、あれなにやってるの?」
「あ、うん、火を熾すんだって。」
「火を?また何で?」
「さぁ?人類の英知がどうのとか言ってたわよ。」
「……まいっか、どうせやることないしね。」
エルザが興味を失ったように視線を戻し、自分の作業に戻る。
とはいっても、もう作ったポーションは、各種100本を超える数がある。
「そろそろ、別の作業考えないとね。」
「それもいいんだけど、さっき言いかけた……。」
手を止めて考え込むエルザに、ミヤコが声をかけるが、そのタイミングで、また大声が上がる。
「お、おまっ、何やってんだよっ!」
エルザとミヤコが、カズトたちの方へ視線を向けると、そこには薪に火をつけて、煌々と燃やしているクロと、火起こし器を片手にわなわなと震えているカズトの姿が映る。
「だってぇ、飽きちゃったんだにゃ。」
「飽きたって、お前なぁっ。人がせっかく頑張ってるのにっ!」
「だってぇ、全然火が付かにゃいにゃん?そろそろお腹《にゃか》空いたし、お遊びの時間は終わりにゃん。」
どうやらクロが、カズトが火を熾すのを待たずに、勝手に魔法で火をつけたらしい。
しかし、怒り心頭のカズトには悪いが、魔法が使えないならともかく、着火《ティンダー》の魔法で火をつけた方が時間も手間もかからない。
更には着火《ティンダー》の魔法を封じ込めた魔道具は、冒険者の基本セットにもあるため、魔法が使えなくてもそれを使えばいい。
つまり、言い方は悪いが、カズトのやっていたことは、クロの言う通りお遊び以外の何ものでもないのだ。
「違うだろう?サバイバルって言うのは、もっと、こう……。」
カズトが蹲り、ブツブツ言うのを無視して、クロは手早く焚火の周りに石を組み上げ、簡易的な竈を創ると、その上に鍋を置く。
そして、斬り刻んだ食材を順番に鍋に放り込むとゆっくりとかき回している。
この数日で分かったことだが、クロは人型になれば料理も出来る。しかも美味いのだ。本人の話によれば、基本的な家事は出来るとのいう事で、「地上に戻ったら家事一切はお任せにゃん」と豪語していた。
つまりはこれからもついて来る気満々だという事だ。
「何やってんだか。」
エルザは軽くため息を吐く。
「まぁ、カズトの言いたいこともわかる気もするけどね。」
「そうなの?」
「うん、私たちの世界では、便利な文明から離れて、こういう自然の中で生活するって言うのが流行っていたのよ。」
ミヤコはそう言って、日本でのキャンプについて説明するが、エルザはその話を聞いて首を傾げる。
「わからないわ。便利な文明から離れるのよね?」
「うん。」
「でも、場所は決まっていて、整地してあるのよね?」
「うん、他にもコテージがあって、泊まる場所が用意してあるところもあるわ。」
「それに焚火に使う薪は用意してあるのよね?」
「あー、うん、拾う事もあるけど、殆どは買うかな?」
「お風呂とかもあると?」
「あー……うん、トイレとか飲み水とかインフラ整備はしっかりしてるかな?」
「……それって、村の人たちより便利で優雅な生活よね?」
エルザがジト目でミヤコを見る。
言われてみれば、この世界の村の人たちの生活は、日本のキャンプに比べるとはるかに過酷だ。
水は共用の井戸から、毎回使う分だけ汲み上げなければならない。
火をつけるのは魔道具があって楽ではあるが、燃やすための薪は、森から木を切り出して集めてきて、薪として使えるように砕いて乾燥させる必要がある。
お風呂に至っては、そんな贅沢なんかできない、とほとんどの村人は川での水浴びが普通なのだ。
寝る場所よりお風呂の方が重要!とお風呂に並みならぬ情熱を傾けるエルザと、エルザとイチャつくためなら自重しない、桁外れの魔力を有したユウがいるからこそ、こうして冒険中でも安心して寝る場所がありお風呂にも入れるうえ、食材も豊富なだけであって、そのせいで、楽なキャンプと考えがちではあるが、本来であれば、もっと過酷な状況下に置かれるのが普通だという事に気づかないミヤコとカズトだった。
「あ、あはは……。」
だからミヤコはその場は笑って誤魔化すしかなかった。
そして、話題を変えることにする。
「ところで、話を戻すけど、ユウちゃん、何とか出来るの?」
「あ、うん……出来なくはないけど……。」
エルザが口ごもる。
「何とか出来るなら、何とかしようよ?」
「でも……やりたくないなぁ。」
「やりたくないって……そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。」
煮え切らない態度のエルザに、ミヤコは説得を試みる。
「……そこまで言うなら、ミヤコがやりなよ。」
「出来るならやってるわよっ。」
「出来るからやってよ。」
「へっ?」
ミヤコの口から間の抜けた声が漏れる。
「ミヤコならできるよ。ユウと一緒に部屋に籠ってひたすら甘やかして、ユウの求めに応じるだけ、簡単でしょ?」
「求めに応じるって……まさか……。」
「多分想像してることであってるわ。今のユウ甘えたになってるから激しいわよ。」
「うっ……。」
「以前似た様な状況の時は丸二日で復活したけど、今回はどうかな?五日もかからないとは思うけどね。」
「えっと、ね、エルちゃん……。」
「あ、そうそう、クロも一緒に連れていくといいかも。あの娘にも原因の一旦はあるし、ミヤコ一人じゃ大変だと思うから。」
「あーでも、私の体力じゃぁ半日も持たないしぃ……。」
そう言って逃げ出そうとするミヤコの肩をガシッと掴む。
「大丈夫よ。ユウがリフレッシュの魔法を使ってくれるから。少なくとも二日は持つことは私で実証済。」
「でも……。」
「そろそろ、何とかしなきゃって思うんだよね?出来るならやるんだよね?」
エルザはミヤコの逃げ道を塞ぎにかかる。
「大丈夫。ユウをひたすら甘えさせるだけの簡単なお仕事よ。……クロ、こっちにいらっしゃい。」
「ニャにかにゃ?」
エルザに呼ばれたクロがすぐにやってくる。
「今からミヤコと一緒にユウを甘やかしてきて。あなたもマスターを放置してるのは困るでしょ?」
「今のマスターはエル様にゃ。ユウ様がそう言ったニャ。」
「……じゃぁ、マスター命令よ。ミヤコと一緒に、ユウの気分が浮上するまで甘やかしてきて。」
「……すごく、イヤにゃ予感がするにゃ……。けど仕方がにゃいにゃ。」
クロは項垂れながらもミヤコの手を引っ張って小屋の方へ向かう。
「ちょ、ちょっと、私まだやるとは……って、離しなさいよ……。」
「ダメだニャ、マスター命令にゃ。諦めるにゃ。」
二人は言い合いをしながら小屋の中へと姿を消した。
◇
「……エルちゃん、恨むからね。」
「アハッ、お代りあるよ。」
憮然とした表情のミヤコに、笑顔でお椀を差し出すエルザ。
あの日から三日が経ち、ようやくミヤコが出てきた。
ミヤコの話では、ミヤコたちの身体を張った渾身の務めにより、ユウの気分も上昇、今は転移陣を起動させるための魔力を集めているとの事だった。
「その魔力集めにクロが協力してるの?」
「うーん、協力というより、返還してる……のかな?」
「返還?どういうこと?」
「何でも、ユウちゃんの魔力は、この遺跡のコアを起動させるために使われたんだって。で、その媒介をしたのがクロちゃんって話なのね、だからクロちゃんの魔力を転移陣へ……ってことなんだけど……説明するより見た方が早いよ。」
ミヤコはそう言って、エルザに小屋の中に向かう様に勧める。
「あ、俺もちょっと興味あるな。一緒に行ってもいいか?」
早々に食事を終え、暇を持て余していたカズトが腰を上げる……が、その腕をミヤコが引っ張る。
「カズトはダメ。」
「何でだよ。」
「なんでも。とにかくダメなものはダメッ!……エルちゃん、早くいって。こいつは押さえておくから。」
「あ、うん……じゃぁ、行ってくる。」
エルザは不審そうにしながらも小屋の中へと入っていく。
「ったく、なんなんだよ。」
「いいの。アンタには刺激が強すぎるわよ。」
「………。」
黙り込んで、意味もなく鍋をかき回すカズト。
それを横目で見ながら、「今エルザがいったから頑張るんだよ、クロ」と心の中でエールを送るミヤコだった。
◇
それは、なんというか……。
エルザが目にしたのは予想もしていなかった光景だ。
「あんっ……、もうだめにゃぁ。許してにゃぁ。」
「まだよ。まだいけるよね?」
目の前では、クロが何も身に纏わない状態でマナイーターの触手により拘束されて喘いでいた。
そして、その様子をじっと見つめるユウ。
時折何か液体のようなものをかけているのは、回復ポーションだろうか?
「えっと、ユウ、何してるの?」
「ん?まな板にしてる。」
「は?」
思いもよらぬ返答にエルザは目を丸くする。
「あれ、あの膨らみが魔力のもと。あのため込んだ魔力をマナイーターが吸い上げて、コアに還元している。」
ユウが指さすのはクロの胸。
確かに、小柄な身体つきのクロにしては胸が大きいと思っていたが、魔力をため込んで大きくしていたとは驚きだった。
「シルヴィの胸はちっちゃい。だから、あんなふうにしたんだと思う。……シルヴィけなげ……。」
「けなげっていうニャ……あんっ……だめぇ……ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……。」
クロが何かを言いかけたが、それ以上の刺激により、何も言えなくなる。
「必要魔力を還元するのに、後1日かかる。」
「1日って、クロちゃん、終わるまでこのまま?」
「うん、エルたんも参加する?」
「……がんばってね。」
「そんにゃぁ。マスターみすてにゃいでぇ……ァッ……イっちゃうにゃぁぁぁぁ……。」
「ポーション差し入れるから頑張ってね。」
エルザは小刻みに震えるクロに背を向けて部屋を出ていく。
「見捨てられたにゃぁぁぁぁぁ……。」
ドアを閉めると、クロの雄たけびも小さくなる。
「ごめんね、クロ、大きいあなたがいけないのよ。」
エルザは心の中でもう一度クロに詫びるのだった。
◇
「じゃぁ準備はいい?」
翌々日、すべての準備を終えたエルザたちは、魔道機械のコアの前に集まっていた。
「大丈夫。いつでもいいわよ。」
ミヤコが答えると、ユウは軽く頷いてコアのスイッチを入れる。
「じゃぁ、集まって。」
エルザたちはユウの傍に集まると、すぐに光がエルザたちを包み込む……。
「……ここは……外?」
光が消えた後、周りを見回す。
一見したところ、森の入り口付近のようにも見える。
「あ、あれ見て。」
ミヤコが東の方を指さす。
視線を向けると、その先には赤々と燃え上がる炎が立ち上っていた。
「いったい何がどうなってるのよっ!」
無事に外に出れたものの、新たな問題に直面したようだ、と思うエルザだった。
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常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
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