80 / 88
引きこもり聖女と隣国の王子と王女 その2
しおりを挟む
「さて、ここならいいだろう。アル、お前は何を知っている?」
「父上、兄上、……怒らないで聞いてもらえますか?」
「……ってことは、また怒られるようなことをしたってことか?お前なぁ、いつも言ってるだろ?大体……。」
カインのお説教が始まる。
しかし、先ほどの玉座の間でのことと違い、その言葉の端々には、本気でアルベルトを心配する気持ちが溢れていた。
「兄上、お説教は後で聞くよ。それより今はオリビアの事だろ?」
「……ウム、そうだな。それで?」
「あぁ、うん。俺、実は昨日まで東の辺境にある「タウの村」ってところにいたんだよ。」
アルベルトは、べリアの兵から漏れ聞こえてくる『聖女』の噂に興味を持ち、独自に色々と探っていた。
そんな折、べリアの王女が逃げ込んだ領地の領主と、領内の村で諍いが起きていることを耳にする。
べリアの王都を抑え、王族の殆どを捕らえ処刑したのに、べリアの各地でいまだに争いが起きているのは、「王女」という旗がまだあるからであり、各地の領主たちの欲望と思惑が、未だに戦乱を引き起こしている。
そもそも、べリアの各地の領主の殆どは、王家の事などどうでもよかった。
王家を隠れ蓑として、私腹を肥やす為に利用しているだけに過ぎなかったのだ。
しかし、王家が敗北した今となっては、下手なことは出来ない。
かといって素直に敗北を認めれば、せっかく蓄えた財を失ってしまう事にもなりかねない。
そこに飛び込んできた「王女」という切り札。
王女を旗印に、徹底抗戦を叫びつつ、逃げ出すための時間を稼ぐ、もしくは王女をガリア王国に差し出し、自分の安全と財を護ることも出来る……かもしれない。
様々な思惑が蠢くが、結局は判断に迷っているため、今もなお中途半端な争いが各地で起きている。
だから、王女の身柄を押さえてしまえば、この無駄な小競り合いにも終止符を打てるのでは?と考えたアルベルトは王女に絞って情報をさらに集めさせた。
その結果、王女を保護しているという辺境の領主の存在が浮かび上がった。
この領主、評判としては下の上。ろくでもない奴ではあるが、やっていることは、税収を微妙に上げ、私腹を肥やしたり、商人からの賄賂の額で融通の範囲を決めるという程度のもの。
王家や他の貴族に対しても、強者には媚び諂い、弱者には横暴に振舞うという、典型的な長い物には巻かれろを地で行く人物だ。
そんな人物なので、王女を手に入れたとしても、うまく扱えるわけがない。
精々、他の領主、もしくはガリア王国に高値で売りつける事しか念頭になかったようだ。
そして、どう転ぶにしても目先の兵力と資金は必要という事で、近隣の村や街から強制徴収を始めた、との事だった。
「……聞けば聞くほど、クズな領主だな。」
カインが、アルベルトの話を聞きつつ、ボソッと感想を漏らす。
「まぁ、そういうクズな領主しかいないから、俺たちがあっさり勝てたんだろ?」
「いや、そもそも、王家がしっかりとそのクズ共の手綱を握っていれば、戦争なんて起こらなかっただろ?」
「まぁね。」
カインの言葉に丸ベルトは渋々頷く。
今回の戦争、もとをただせば、国境を接しているべリアの領主が、ガリア側の村を略奪して回っているところから始まった。
ガリア王国としても、大きな問題にはしたくないので、国境の防衛を強化しつつ、べリア王国に遺憾の書状を出したのだが、返事は、のらりくらりとかわすようなものばかり。
それどころか、そのことに味を占めた近隣の領主が、こぞって、国境を侵し始めたのだ。
ガリア王国は、反撃して国境を押し戻しつつ、戦争がお望みか?と書状を送ると、べリアからは、
『此度の事、誠に遺憾である。ガリア兵の横暴な振る舞いにより、我が国の臣民たちは非常に怯えておる。武装解除し、素直に国境を20カートル引き直すことに同意し、今回の被害総額白金貨1000枚を5年にわたり、支払うのであれば、今回の事は水に流そう。』
といった、どの口がっ!という内容の返事が来たことにより、普段温厚で知られているゲイル国王がキレたのだ。
「それで、そのクズ領主がどうしたのじゃ?」
「あ、父上、それなんですが、その領主の収める更に辺境にある村に、聖女様が現れたという噂が立ったんですよ。」
「聖女か……。」
神託の中にも出てきた言葉だ。
しかし、教養のない民たち程、ちょっとした癒し魔法が使えるというだけで、聖女だ、神童だと崇めだすモノなので、貴族の間では、気にする者は皆無に近い。
「それで、そのクズ領主は、徴収ついでに聖女も抑えようとしたんでしょうね。兵を500ばかり送ったそうです。」
「たかが村一つに大げさな。」
国王はやれやれとため息を吐く。
小さな村一つを制圧するだけであれば50人の兵で片がつく。安全マージンを多めにとったとしても100もあれば事足りる。150も送れば兵の無駄使いというものなのに、事もあろうか500とは……。
そんな単純な事すらわからない相手と戦争をしなければならないと考えるだけで、ゲイル国王の気は重くなるのだった。
「父上のおっしゃりたいことはよく分かります。私も同じように考えていましたから。しかし、この場合においては、500でも少なかったようで、その500人、成す術もなく逃げ帰っております。」
「そんな馬鹿な。」
「でも事実なのですよ兄上。それだけではありません。そのクズ領主の孫娘ですが、べリア王国内では『妃将軍』と呼ばれ、中々腕の立つお嬢さんだそうですが、その世間知らずのお嬢さんが、3000の兵を引き連れ再度その村を襲たそうです。」
「ふむ、そこまで来るとバカとしか言いようがないな。何を考えておるのだ?」
「しかしですね、その妃将軍は聖女に捕らえられ、3000の兵はほぼ壊滅。領主の下に生きて戻った兵は100にも満たたなかったようです。」
父王の言葉に頷きながらも、アルベルトは、見聞きしたことを話す。
正直、アルベルト自身、信じられない事ではあるが、あの村の現実を見た身としては、受け入れるしかない。
「アルベルトよ、焦らすな。その村には何があるのだ?」
「……最初に断っておきますが、今から話すことは、私自身がこの目で見て体感したまごう事なき事実です。」
「あぁ、お前が俺たちに対し、虚偽を申し立てる奴ではないことぐらい、理解しているさ。」
「兄上……ありがとうございます。まず、その村ですが、強固な城壁に囲まれています。村を覆うようにぐるっと強大な城壁があり、その内側にはかなり幅広な堀が掘られていますので、普通のやり方では、そこを突破することはかなり難しいでしょう。」
「ウム。……アルベルト、そなたの見立てでは、攻略するのにどれだけの兵が必要だと思う?」
国王は、実際、その場を見てきた王子に問いかける。
「……そうですね、最初から兵を犠牲にする前提で2万から3万ですね。そのうちの1万人は確実に第一の城壁で犠牲になります。というか、1万の犠牲の上で乗り越えるしか手はないでしょう。」
「フム、そなたの事を信じぬわけではないが、……そこまでのモノなのか?」
アルベルトの、戦における兵の運用に関しては、兄のカインを凌ぐとゲイル国王も認めている。
内政のカイン、武のアルベルト……この二人が仲良く国を治めて行ってくれるのならば、安心して王位を譲れる、と、ゲイルは腹心たちにひそかに自慢していたりする。
そのアルベルトが3万必要というのであれば、その通りなのだろう。
ただし、それを素直に認めるには「たかが村を攻めるのに3万もの大軍が必要か?」という常識が邪魔をするのだった。
「ちょっと待て。アルベルト、お前はさっき第一の城壁といったな?という事は……。」
カインが口を挟んでくる。
「さすがは兄上。その通りですよ。だいいちのじょうへきを越えた後には第二の城壁が、それを越えても第三の城壁が立ち塞がります。」
「なんと……3重の城壁とな。」
「むぅ……。」
「それだけじゃありません。第二の城壁を越た広場は一面の地雷原で、宙に浮かぬ限り、第三の城壁に辿り着くことは出来ません。」
「それでは、村人も通れんではないか?」
「そうですね。だから平時は地雷原の上に結界が張ってあるそうです。有事の際にはその結界を解くそうですが、村が襲われている時に外へ出ようとする者は、裏切り者ぐらいですから問題ないそうですよ。ちなみに、先程の兵のうち更に1万をここで犠牲にすることによって、道を作り、残った1万の兵で第三の城壁を突破する。これが私の考えた中で、最も成功率の高い攻略法です。……まぁ、そこまでしても村に入れるかどうかは5分5分ですが。」
「成程のぅ。しかし、そこまでの大掛かりな作業に、領主は気づかなかったのか?」
「気づかなかったみたいですねぇ。」
「無能にもほどがあるな。」
「いえ、父上、兄上、これに関しては領主を責めるのは可愛そうです。私が聞き及んだところによると、3か月程度しかかかってないそうですから。しかも城壁に関しては1ヶ月もかかってないらしいです。」
「そんな馬鹿な。」
「それが事実だとすれば……相手はいったい何者なのだ?」
「だから聖女ですよ。それも、途方もない力を秘めた……ね。」
「にわかには信じられぬが……。」
「全て事実です。私が三日前にその村の中に入り、直に集めた情報です。しかも、昨晩には聖女様ご本人にお会いして話をいたしました。」
「ちょっと待て。アルベルト、お主何を言っておる?」
「事実です。私は昨日の晩まで、タウの村にいました。」
「そんな……アルの言った場所が本当なら、ここから1か月はかかる場所じゃないか。」
かなり動揺しているらしく、カインの口調が崩れている。
「兄上、その通りです。実際私が国境から村に向かうまででも3週間はかかりましたので、この城からなら急げば1ヶ月で辿り着けるでしょう。」
「なのに、昨晩村にいたアルベルトが今ここにいる、と?」
「まさか『転移術』……「失われし大いなる魔術」を使えるというのか。」
「村の中には、他にもロストテクノロジーの産物と思われる物がゴロゴロしていました。」
「むぅ……。」
国王は頭を悩ませる。
全てが本当の話では敵対するわけにもいかない。また、敵の手に渡ることも避けねばならない。
幸いにも、べリア王国は残党を残すのみで脅威にならず、その残党も、聖女の村と敵対しているのであれば、まだ目はある、と思う。
「父上、差し出がましいようですが、一度交渉の使者を送ってみてはいかがでしょうか?置手紙にも正面から来いと書いてありますので、少なくとも受け入れてはもらえるでしょう。オリビアの事もありますので私が使節代表として赴くつもりです。」
カインがそう言うと、即座にアルベルトが口を挟む。
「兄上、使節なら私が参ります。兄上は、次期国王となる大事なお身体。そう簡単に出かけられては困ります。」
「アル、お前ばかりズルいぞ。私だってロストテクノロジーを見たいのだ。」
「兄上、本音が駄々洩れです。」
うーと睨みあう二人の王子を見て、国王はある決断をする。
「よい、二人で行って来い。」
「「よろしいのですかっ?」」
二人の声が重なる。
「あぁ、カインも、外を見てきた方が良い。それにアルベルトだけでは交渉に不安があるのも事実じゃからな。……本当は儂が行きたいぐらいじゃ。」
「「父上はダメですっ!」」
やはり声が重なる、仲の良い兄弟であった。
「父上、兄上、……怒らないで聞いてもらえますか?」
「……ってことは、また怒られるようなことをしたってことか?お前なぁ、いつも言ってるだろ?大体……。」
カインのお説教が始まる。
しかし、先ほどの玉座の間でのことと違い、その言葉の端々には、本気でアルベルトを心配する気持ちが溢れていた。
「兄上、お説教は後で聞くよ。それより今はオリビアの事だろ?」
「……ウム、そうだな。それで?」
「あぁ、うん。俺、実は昨日まで東の辺境にある「タウの村」ってところにいたんだよ。」
アルベルトは、べリアの兵から漏れ聞こえてくる『聖女』の噂に興味を持ち、独自に色々と探っていた。
そんな折、べリアの王女が逃げ込んだ領地の領主と、領内の村で諍いが起きていることを耳にする。
べリアの王都を抑え、王族の殆どを捕らえ処刑したのに、べリアの各地でいまだに争いが起きているのは、「王女」という旗がまだあるからであり、各地の領主たちの欲望と思惑が、未だに戦乱を引き起こしている。
そもそも、べリアの各地の領主の殆どは、王家の事などどうでもよかった。
王家を隠れ蓑として、私腹を肥やす為に利用しているだけに過ぎなかったのだ。
しかし、王家が敗北した今となっては、下手なことは出来ない。
かといって素直に敗北を認めれば、せっかく蓄えた財を失ってしまう事にもなりかねない。
そこに飛び込んできた「王女」という切り札。
王女を旗印に、徹底抗戦を叫びつつ、逃げ出すための時間を稼ぐ、もしくは王女をガリア王国に差し出し、自分の安全と財を護ることも出来る……かもしれない。
様々な思惑が蠢くが、結局は判断に迷っているため、今もなお中途半端な争いが各地で起きている。
だから、王女の身柄を押さえてしまえば、この無駄な小競り合いにも終止符を打てるのでは?と考えたアルベルトは王女に絞って情報をさらに集めさせた。
その結果、王女を保護しているという辺境の領主の存在が浮かび上がった。
この領主、評判としては下の上。ろくでもない奴ではあるが、やっていることは、税収を微妙に上げ、私腹を肥やしたり、商人からの賄賂の額で融通の範囲を決めるという程度のもの。
王家や他の貴族に対しても、強者には媚び諂い、弱者には横暴に振舞うという、典型的な長い物には巻かれろを地で行く人物だ。
そんな人物なので、王女を手に入れたとしても、うまく扱えるわけがない。
精々、他の領主、もしくはガリア王国に高値で売りつける事しか念頭になかったようだ。
そして、どう転ぶにしても目先の兵力と資金は必要という事で、近隣の村や街から強制徴収を始めた、との事だった。
「……聞けば聞くほど、クズな領主だな。」
カインが、アルベルトの話を聞きつつ、ボソッと感想を漏らす。
「まぁ、そういうクズな領主しかいないから、俺たちがあっさり勝てたんだろ?」
「いや、そもそも、王家がしっかりとそのクズ共の手綱を握っていれば、戦争なんて起こらなかっただろ?」
「まぁね。」
カインの言葉に丸ベルトは渋々頷く。
今回の戦争、もとをただせば、国境を接しているべリアの領主が、ガリア側の村を略奪して回っているところから始まった。
ガリア王国としても、大きな問題にはしたくないので、国境の防衛を強化しつつ、べリア王国に遺憾の書状を出したのだが、返事は、のらりくらりとかわすようなものばかり。
それどころか、そのことに味を占めた近隣の領主が、こぞって、国境を侵し始めたのだ。
ガリア王国は、反撃して国境を押し戻しつつ、戦争がお望みか?と書状を送ると、べリアからは、
『此度の事、誠に遺憾である。ガリア兵の横暴な振る舞いにより、我が国の臣民たちは非常に怯えておる。武装解除し、素直に国境を20カートル引き直すことに同意し、今回の被害総額白金貨1000枚を5年にわたり、支払うのであれば、今回の事は水に流そう。』
といった、どの口がっ!という内容の返事が来たことにより、普段温厚で知られているゲイル国王がキレたのだ。
「それで、そのクズ領主がどうしたのじゃ?」
「あ、父上、それなんですが、その領主の収める更に辺境にある村に、聖女様が現れたという噂が立ったんですよ。」
「聖女か……。」
神託の中にも出てきた言葉だ。
しかし、教養のない民たち程、ちょっとした癒し魔法が使えるというだけで、聖女だ、神童だと崇めだすモノなので、貴族の間では、気にする者は皆無に近い。
「それで、そのクズ領主は、徴収ついでに聖女も抑えようとしたんでしょうね。兵を500ばかり送ったそうです。」
「たかが村一つに大げさな。」
国王はやれやれとため息を吐く。
小さな村一つを制圧するだけであれば50人の兵で片がつく。安全マージンを多めにとったとしても100もあれば事足りる。150も送れば兵の無駄使いというものなのに、事もあろうか500とは……。
そんな単純な事すらわからない相手と戦争をしなければならないと考えるだけで、ゲイル国王の気は重くなるのだった。
「父上のおっしゃりたいことはよく分かります。私も同じように考えていましたから。しかし、この場合においては、500でも少なかったようで、その500人、成す術もなく逃げ帰っております。」
「そんな馬鹿な。」
「でも事実なのですよ兄上。それだけではありません。そのクズ領主の孫娘ですが、べリア王国内では『妃将軍』と呼ばれ、中々腕の立つお嬢さんだそうですが、その世間知らずのお嬢さんが、3000の兵を引き連れ再度その村を襲たそうです。」
「ふむ、そこまで来るとバカとしか言いようがないな。何を考えておるのだ?」
「しかしですね、その妃将軍は聖女に捕らえられ、3000の兵はほぼ壊滅。領主の下に生きて戻った兵は100にも満たたなかったようです。」
父王の言葉に頷きながらも、アルベルトは、見聞きしたことを話す。
正直、アルベルト自身、信じられない事ではあるが、あの村の現実を見た身としては、受け入れるしかない。
「アルベルトよ、焦らすな。その村には何があるのだ?」
「……最初に断っておきますが、今から話すことは、私自身がこの目で見て体感したまごう事なき事実です。」
「あぁ、お前が俺たちに対し、虚偽を申し立てる奴ではないことぐらい、理解しているさ。」
「兄上……ありがとうございます。まず、その村ですが、強固な城壁に囲まれています。村を覆うようにぐるっと強大な城壁があり、その内側にはかなり幅広な堀が掘られていますので、普通のやり方では、そこを突破することはかなり難しいでしょう。」
「ウム。……アルベルト、そなたの見立てでは、攻略するのにどれだけの兵が必要だと思う?」
国王は、実際、その場を見てきた王子に問いかける。
「……そうですね、最初から兵を犠牲にする前提で2万から3万ですね。そのうちの1万人は確実に第一の城壁で犠牲になります。というか、1万の犠牲の上で乗り越えるしか手はないでしょう。」
「フム、そなたの事を信じぬわけではないが、……そこまでのモノなのか?」
アルベルトの、戦における兵の運用に関しては、兄のカインを凌ぐとゲイル国王も認めている。
内政のカイン、武のアルベルト……この二人が仲良く国を治めて行ってくれるのならば、安心して王位を譲れる、と、ゲイルは腹心たちにひそかに自慢していたりする。
そのアルベルトが3万必要というのであれば、その通りなのだろう。
ただし、それを素直に認めるには「たかが村を攻めるのに3万もの大軍が必要か?」という常識が邪魔をするのだった。
「ちょっと待て。アルベルト、お前はさっき第一の城壁といったな?という事は……。」
カインが口を挟んでくる。
「さすがは兄上。その通りですよ。だいいちのじょうへきを越えた後には第二の城壁が、それを越えても第三の城壁が立ち塞がります。」
「なんと……3重の城壁とな。」
「むぅ……。」
「それだけじゃありません。第二の城壁を越た広場は一面の地雷原で、宙に浮かぬ限り、第三の城壁に辿り着くことは出来ません。」
「それでは、村人も通れんではないか?」
「そうですね。だから平時は地雷原の上に結界が張ってあるそうです。有事の際にはその結界を解くそうですが、村が襲われている時に外へ出ようとする者は、裏切り者ぐらいですから問題ないそうですよ。ちなみに、先程の兵のうち更に1万をここで犠牲にすることによって、道を作り、残った1万の兵で第三の城壁を突破する。これが私の考えた中で、最も成功率の高い攻略法です。……まぁ、そこまでしても村に入れるかどうかは5分5分ですが。」
「成程のぅ。しかし、そこまでの大掛かりな作業に、領主は気づかなかったのか?」
「気づかなかったみたいですねぇ。」
「無能にもほどがあるな。」
「いえ、父上、兄上、これに関しては領主を責めるのは可愛そうです。私が聞き及んだところによると、3か月程度しかかかってないそうですから。しかも城壁に関しては1ヶ月もかかってないらしいです。」
「そんな馬鹿な。」
「それが事実だとすれば……相手はいったい何者なのだ?」
「だから聖女ですよ。それも、途方もない力を秘めた……ね。」
「にわかには信じられぬが……。」
「全て事実です。私が三日前にその村の中に入り、直に集めた情報です。しかも、昨晩には聖女様ご本人にお会いして話をいたしました。」
「ちょっと待て。アルベルト、お主何を言っておる?」
「事実です。私は昨日の晩まで、タウの村にいました。」
「そんな……アルの言った場所が本当なら、ここから1か月はかかる場所じゃないか。」
かなり動揺しているらしく、カインの口調が崩れている。
「兄上、その通りです。実際私が国境から村に向かうまででも3週間はかかりましたので、この城からなら急げば1ヶ月で辿り着けるでしょう。」
「なのに、昨晩村にいたアルベルトが今ここにいる、と?」
「まさか『転移術』……「失われし大いなる魔術」を使えるというのか。」
「村の中には、他にもロストテクノロジーの産物と思われる物がゴロゴロしていました。」
「むぅ……。」
国王は頭を悩ませる。
全てが本当の話では敵対するわけにもいかない。また、敵の手に渡ることも避けねばならない。
幸いにも、べリア王国は残党を残すのみで脅威にならず、その残党も、聖女の村と敵対しているのであれば、まだ目はある、と思う。
「父上、差し出がましいようですが、一度交渉の使者を送ってみてはいかがでしょうか?置手紙にも正面から来いと書いてありますので、少なくとも受け入れてはもらえるでしょう。オリビアの事もありますので私が使節代表として赴くつもりです。」
カインがそう言うと、即座にアルベルトが口を挟む。
「兄上、使節なら私が参ります。兄上は、次期国王となる大事なお身体。そう簡単に出かけられては困ります。」
「アル、お前ばかりズルいぞ。私だってロストテクノロジーを見たいのだ。」
「兄上、本音が駄々洩れです。」
うーと睨みあう二人の王子を見て、国王はある決断をする。
「よい、二人で行って来い。」
「「よろしいのですかっ?」」
二人の声が重なる。
「あぁ、カインも、外を見てきた方が良い。それにアルベルトだけでは交渉に不安があるのも事実じゃからな。……本当は儂が行きたいぐらいじゃ。」
「「父上はダメですっ!」」
やはり声が重なる、仲の良い兄弟であった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる