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引きこもり聖女と遺跡探索その1
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「うぅ……ミヤコがイジメる。」
「人聞きの悪いこと言わないでっ!」
しょんぼりと項垂れるユウに対し、ミヤコが盛大に突っ込む。
「えっと、元気出してください。私でよければお話を聞きますから。」
そんなユウを甲斐甲斐しく世話をするのは、メイドちゃんの一人、シア。
「シアぁぁ。あなたは良い子。私の嫁として、一緒にカチュアを調教する権利を上げる。」
「あ、えっと、それは……魅力的なお誘いですが遠慮しておきますね。」
背中に突き刺さる、カチュアの視線を受け、表情を引きつらせるシア。
元ご主人様に、「シア、大好き」と言ってもらう(言わせる?)ことにほの暗い悦びを覚えるが後々面倒なことになりそうなので、ここは辞退しておくシアだった。
「ハイハイ、そこまで。話が進まないでしょ。」
不意に声がかかり、一同がその声の主に注目する。
「あ、エルちゃん起きた?」
「うん、ありがとね。少し回復したから大丈夫。」
「エルザが起きたなら、さっそく始めてよ。大体、何で私達が呼ばれたの?」
さっき迄、所在なさげに座っていたみぃが口を開く。
「えっとね、これからの事柄について、あなた達魔族も無関係ではいられない……かもしれないからよ。」
「それはどういうことだ?」
「それをこれから話すの。その前に、これから見聞きすることについて、許可なく外部に漏らされると困るので誓約してもらえる?」
エルザはまじめなトーンで、みぃを始め、この場にいる者達を見回す。
「誓約できないひとは、3つ数える間にこの部屋から出て行って。いち……、にぃ……。」
エルザの言葉を聞いてもその場から動く者はいない。
メイドちゃん達だけが、一瞬、この場に居てもいいのだろうか?と顔を見合わせていたが、今更だという事に思い当たり、普段と変わらぬ表情に戻る。
「……さん。……みんないいのね?じゃぁユウお願いできる?」
「ん。」
エルザに壊れたユウが一歩前に進み出て、身体の前に魔力を集める。
「この場において見聞きしたことを、許可なく外部に漏らすことを、ユースティアの名において禁ずる……『強制誓約《ギアス》』!」
ユウの前に会った光が部屋全体を包み込み、小さく分かたれた欠片が、部屋の中にいるものすべての体の中へと吸い込まれていく。
「これでいいね。じゃぁ、ミヤコお願いね。」
エルザは、進行はミヤコに渡して、自分はユウの側に座り、ユウをその膝の上に座らせる。
ふにゃぁ、と相好を崩すユウを見ながら、ミヤコは昨日一晩かけてまとめ上げた資料を片手に話し出す。
「まず、この大陸と私達の居た大陸についてね。これから話すことは、遺跡にあった巨大魔導装置のメモリーに隠されていた事だから、ほぼ真実と言っていい情報よ。」
元々はひとつだった大陸。
しかし破壊神ユースティアにより、その大地に亀裂が入り大きな河で分かたれることになった。
しかし、その頃はまだ、地続きの場所もあり、大きな橋をかける事によって、行き来が可能だった。
また、シルヴィアがコアになった魔導ネットワーク施設により、情報やインフラについても問題がない、はずだった。
ある程度の年月が過ぎ去り,二つの土地を分け隔てる大河が広がっているという事実が発表されるまでは。
破壊神による大災害を乗り越え生き延びた人々。
マザーシルヴィアの呼びかけで集まった人が大半ではあるが、大災害の原因となったのも、シルヴィアの居た国が発端になったのも、また事実。
それを知る人の中には、シルヴィアを受け入れられない、という人々も多くいたため、マザーシルヴィアを慕うものは、コアがある東側の大陸に、シルヴィアに隔意を持つ者は、コアからできるだけ離れた西側の大陸に、と、自然と住みわけがなされるようになっていた。
「でも、その『マザーシルヴィア』っていう魔導装置がないと生活できなかったんでしょ?」
「そうね、みぃの言う通り、当時の人々はマザーシルヴィアの施設によって生かされていた。だから施設の周りに街が出来ていて、人々はそこから離れたら生活できないって事をイヤって言うほど知っていたわ。それがシルヴィアを認めることのできない人達には耐えがたい屈辱だったみたいなの。」
そんな感情も世代を重ねて行けば、恨みは薄れていき、生活の便不便に対する実質的な不満へとなり替わっていく。
その不満は時を重ねるにつれ、減ることなく積もっていき、何かきっかけがあれば暴発するのも容易なぐらいに膨れ上がっていく。
「その『きっかけ』があったって事?」
「そう、そのきっかけが、みぃたちを呼んだ理由なのよ。」
「そういうって事は、つまり、そのきっかけというのが私達魔族って事でしょうか?」
レーナがミヤコに聞いてくる。
「そう言う事ね。……これから言う事はちょっと辛い内容になるわ。ホントは言うべきかどうか迷ったんだけど、黙ってるのはフェアじゃないってエルちゃんが言うからね。」
「当り前よ。どんなことでも事実なら受け入れないと。迷ったり悩んだりするかもしれないけど、それはその人たちに与えられた権利であり、他人の私達が勝手に決めていい事じゃないわ。」
「そうだな……エルザの言う通りだと私も思うよ。」
エルザの言葉に、みぃも頷く。
「ん、じゃぁ続けるね。騒乱のきっかけになったのは、魔導装置のメモリーバンクに残されていた、ある実験結果が、西側の人達の眼に触れた事なの。」
その実験というのは人類強化計画の一部の資料だった。
世界を支配しようとしていたノルキア帝国。
当然のことながら軍事研究費には多大な予算が流れており、その潤沢な予算で、様々な実験が行われていた。
人類強化計画もその一環である。
人類強化、と言いながら、其の実態は強化した兵隊の製造だった。
低コストで大量生産できる使い捨ての兵士、一人で百人、千人を相手できる強化戦士の製造、当時、当たり前のように使われていた魔法に対する高抵抗力を持つ戦士、現存する魔法使いより、巨大な魔力を扱える戦士……等々。
当時は、そんな馬鹿な、というようなイディアから、倫理観を無視した狂ったアイディアまで、あらゆることが取り入れられ実験が繰り返されていた。
更にはそうしてできた実験体同士を掛け合わせて、作り出される次世代のものまで、知的好奇心と呼ばれる,狂った欲望とそれに伴う実験は留まることを知らなかった。
そういう実験を繰り返し、多数の屍の上に、ある程度の成功例として出来上がった、一部の実験体。
しかし、破壊神ユースティアにより、その施設も実験データも全てが失われた……はずだった。
「ん、確かに破棄した。」
ユウがその報告に頷く。
「だけどね、完全には消去されてなかったのよ。そして、それを復活させたのがシルヴィア……よ。」
「そんなことない。いい加減な事言うな。」
ミヤコに向かってユウの殺気が放たれる。
「シルヴィが一番嫌ってた。動けないシルヴィの代わりに、私がすべてを破壊した。シルヴィがそんなことするはずがない。」
「ユウ落ち着いてっ!……今は調査結果を最後まで聞きましょ。」
エルザがユウを抱きしめ、興奮を抑える。
この話をすれば、ユウが怒ることは分かっていたから、あらかじめ、エルザはユウを止めることが出来るように抱き抱えていた。
……其れでも、これはキツイわぁ。
エルザが直ぐに止めてくれたとはいえ、ユウの放つ威圧はミヤコに少なくない衝撃を与えている。
今だって、立っているのがやっとという状態だ。
「えっと続けるわね。シルヴィアさんが復活させた、と言ったけど、正確にはシルヴィアさんの意思、というより『マザーシルヴィア』の意思と言った方が正しいわ。」
「どういうこと?」
「世界の動脈となったマザーシルヴィアという魔導装置は、コアになったシルヴィアさん一人の意思で動かすには大きくなり過ぎたのよ。」
コアとして、基本的な意思と全体の取りまとめをしているシルヴィア本人。しかし、実働しているのは各地にある装置を制御するフェイクコア……つまりシルヴィアの分体みたいなもの。意思は通じているものの、現場判断が優先される。……優先されなければ、緊急時の対応ができなくなるのである意味当たり前の事だ。
そして末端の装置に行けば行くほど、その傾向は強くなっていき、中央コアのシルヴィアには、報告が上がってこない限り、末端の末端が何をしているかまでは把握できなくなっていた。
「んー、会社組織みたいなものか?大きい会社だと本社の社長は支社の一部所まで目を光らせてるわけじゃないからな。」
カズトが、日本にいた頃の知識に照らし合わせて聞いてみる。
「うん、そんな感じね。こっちの世界で例えるならそうね……。王様がシルヴィアで、各地のフェイクコア装置が領主、更に散らばった各町の代表が末端装置ってところかしら?」
ミヤコはカズトに頷き、他の者達に分かりやすい様に例を挙げてから、更に説明を続ける。
「だからね、そんな末端に位置する制御装置の一つが、偶然にも、そのメモリーバンクに残っていた資料をみつけてね、研究を再開したの。」
「でも、なんで……。シルヴィはあれだけ嫌っていたのに……。」
目に見えて落ち込むユウを、エルザがあやす。
「推測になるけど、人類を助けるため、だったんじゃないかな?」
「??」
どういうこと?と目で訴えかけてくるユウ。
「うん、当時の環境は施設付近以外では生きることが出来ない環境だったんでしょ?だったら、生活圏が狭くなって、物資なども限られてくるよね?そうすると、そこからはじき出される未来予想図は、人類の衰退による絶滅。それを打破するためには、酷い環境にも耐えることが出来る強靭な身体。人類強化計画という資料からなら、それを得ることが出来るって当事のフェイクコアは判断したんじゃないかしら?」
兵器としての強化は認められなくても、生き延びるための強化であれば、マザーの意思に反することは無い、と末端のコアが判断したのであればあり得る、とエルザも頷く。
「つまり、そう言う事なんだな?」
みぃの声が硬い。
「話が早いわ……。そう、そうして作られた強化人間が今の魔族の先祖、という事になるわ。」
過酷な暑さに耐えるだけの外郭。
極寒の大地をものともしない分厚い毛皮。
悪路をものともしない強靭な脚腰。
あらゆる困難を耐え抜くことが出来る膨大な魔力。
様々な検証をするために次々と作り出される検体。
のちに魔族、亜人と呼ばれる者達は、この時にその元が作られたのだ。
「結局、その強化された実験体を使えば、東側を容易に抑えられると、考えたバカがいて、その資料を基に大量に生産されたのね。だけど、作り出されたとはいえ、相手は知恵も感情もある生き物よ。さらに言えば、施設に寄りかかって初めて生きることが出来るような脆弱な生き物に従う必要がないと考えてもおかしくはないわね。」
「それはそうだよな。」
みぃも、うんうんと頷く。
「結果として、西側VS東側VS亜人という三つ巴の争いが長きにわたっておきたわ。そして、長く先の見えない争いに嫌気をさした東側の人間が、禁断の封印を解いたの。……つまり龍族の参戦ね。」
不毛な争いに加え、意味もなくその場を荒らす龍族の参戦により、西も東も、亜人も関係なく滅びの一途を辿っていく。そして、その滅びを逃れたごく少数の人々が、様々な苦難を乗り越え、現在の文明を築いたという事だ。
「今の文明がそれなりになる頃には、大陸の間にあった亀裂は大きく広がって互いを視認することが出来なくなって、それぞれに独自の発展を遂げたから、他の大陸の事を知らないってわけ。」
「成程な。だけど、人類が文明を取り戻す間、魔族……と言うか亜人たちは何もしなかったのか?」
カズトが、そう疑問を口にする。
「そこは、シルヴィアさんの最後の尽力みたいね。施設に残された最後の力を振り絞って、残った人類と亜人、魔族達の生活圏を分けたみたいよ。さらに言えば、当時一番適応力が高いと思われた魔族や亜人達に干渉もしてるわ。」
「干渉って?」
みぃが首をかしげる。
「えっとね、幾つかの種族に対し、シルヴィアさんを始めとした旧人類の因子を埋め込んだの。これによって、亜人や魔族達には旧人類の能力や性格が受け継がれるようになったし、人類との間に子を成すことが出来るようにもなったわ。」
「余計な事……ってわけでもないのか。」
「そうね、その因子を埋め込まれることによって、能力の底上げが出来たわけで、それが今に至るまで生存できている要因である事は間違いないわ。後、余計な事かもしれないけど、サキュバス族に使われた因子は……ユースティアさんのものよ。」
『「「えっ。」」」
「ドレイン能力と高魔力の保持はユースティアさん由来のものらしいわ……その種族特性もね。」
「……。」
突然明かされた事実に、みぃを始めとして、誰も声がでない。
そんな中で、辛うじて声を絞り出すカズト。
「つまり、サキュバスがエロいのはユウちゃんの所為だと……。」
「今まで生きてきた中で、一番知りたくない事実だわ。」
カズトの言葉に答えるようにみぃが呟く。
その後しばらくは静寂がその場を支配していたが、ミヤコがその静寂を打ち破るさらなる爆弾を落とす。
「とまぁ、ココまでが前振りで、本番はここから。この世界のどこかに、マザーシルヴィアのコアを宿したメインの魔導装置が存在するわ。そして、それは今も稼働してるのよ。」
新しく落とされた爆弾に、最初に知らされていたエルザ以外は声も出なかった。
「人聞きの悪いこと言わないでっ!」
しょんぼりと項垂れるユウに対し、ミヤコが盛大に突っ込む。
「えっと、元気出してください。私でよければお話を聞きますから。」
そんなユウを甲斐甲斐しく世話をするのは、メイドちゃんの一人、シア。
「シアぁぁ。あなたは良い子。私の嫁として、一緒にカチュアを調教する権利を上げる。」
「あ、えっと、それは……魅力的なお誘いですが遠慮しておきますね。」
背中に突き刺さる、カチュアの視線を受け、表情を引きつらせるシア。
元ご主人様に、「シア、大好き」と言ってもらう(言わせる?)ことにほの暗い悦びを覚えるが後々面倒なことになりそうなので、ここは辞退しておくシアだった。
「ハイハイ、そこまで。話が進まないでしょ。」
不意に声がかかり、一同がその声の主に注目する。
「あ、エルちゃん起きた?」
「うん、ありがとね。少し回復したから大丈夫。」
「エルザが起きたなら、さっそく始めてよ。大体、何で私達が呼ばれたの?」
さっき迄、所在なさげに座っていたみぃが口を開く。
「えっとね、これからの事柄について、あなた達魔族も無関係ではいられない……かもしれないからよ。」
「それはどういうことだ?」
「それをこれから話すの。その前に、これから見聞きすることについて、許可なく外部に漏らされると困るので誓約してもらえる?」
エルザはまじめなトーンで、みぃを始め、この場にいる者達を見回す。
「誓約できないひとは、3つ数える間にこの部屋から出て行って。いち……、にぃ……。」
エルザの言葉を聞いてもその場から動く者はいない。
メイドちゃん達だけが、一瞬、この場に居てもいいのだろうか?と顔を見合わせていたが、今更だという事に思い当たり、普段と変わらぬ表情に戻る。
「……さん。……みんないいのね?じゃぁユウお願いできる?」
「ん。」
エルザに壊れたユウが一歩前に進み出て、身体の前に魔力を集める。
「この場において見聞きしたことを、許可なく外部に漏らすことを、ユースティアの名において禁ずる……『強制誓約《ギアス》』!」
ユウの前に会った光が部屋全体を包み込み、小さく分かたれた欠片が、部屋の中にいるものすべての体の中へと吸い込まれていく。
「これでいいね。じゃぁ、ミヤコお願いね。」
エルザは、進行はミヤコに渡して、自分はユウの側に座り、ユウをその膝の上に座らせる。
ふにゃぁ、と相好を崩すユウを見ながら、ミヤコは昨日一晩かけてまとめ上げた資料を片手に話し出す。
「まず、この大陸と私達の居た大陸についてね。これから話すことは、遺跡にあった巨大魔導装置のメモリーに隠されていた事だから、ほぼ真実と言っていい情報よ。」
元々はひとつだった大陸。
しかし破壊神ユースティアにより、その大地に亀裂が入り大きな河で分かたれることになった。
しかし、その頃はまだ、地続きの場所もあり、大きな橋をかける事によって、行き来が可能だった。
また、シルヴィアがコアになった魔導ネットワーク施設により、情報やインフラについても問題がない、はずだった。
ある程度の年月が過ぎ去り,二つの土地を分け隔てる大河が広がっているという事実が発表されるまでは。
破壊神による大災害を乗り越え生き延びた人々。
マザーシルヴィアの呼びかけで集まった人が大半ではあるが、大災害の原因となったのも、シルヴィアの居た国が発端になったのも、また事実。
それを知る人の中には、シルヴィアを受け入れられない、という人々も多くいたため、マザーシルヴィアを慕うものは、コアがある東側の大陸に、シルヴィアに隔意を持つ者は、コアからできるだけ離れた西側の大陸に、と、自然と住みわけがなされるようになっていた。
「でも、その『マザーシルヴィア』っていう魔導装置がないと生活できなかったんでしょ?」
「そうね、みぃの言う通り、当時の人々はマザーシルヴィアの施設によって生かされていた。だから施設の周りに街が出来ていて、人々はそこから離れたら生活できないって事をイヤって言うほど知っていたわ。それがシルヴィアを認めることのできない人達には耐えがたい屈辱だったみたいなの。」
そんな感情も世代を重ねて行けば、恨みは薄れていき、生活の便不便に対する実質的な不満へとなり替わっていく。
その不満は時を重ねるにつれ、減ることなく積もっていき、何かきっかけがあれば暴発するのも容易なぐらいに膨れ上がっていく。
「その『きっかけ』があったって事?」
「そう、そのきっかけが、みぃたちを呼んだ理由なのよ。」
「そういうって事は、つまり、そのきっかけというのが私達魔族って事でしょうか?」
レーナがミヤコに聞いてくる。
「そう言う事ね。……これから言う事はちょっと辛い内容になるわ。ホントは言うべきかどうか迷ったんだけど、黙ってるのはフェアじゃないってエルちゃんが言うからね。」
「当り前よ。どんなことでも事実なら受け入れないと。迷ったり悩んだりするかもしれないけど、それはその人たちに与えられた権利であり、他人の私達が勝手に決めていい事じゃないわ。」
「そうだな……エルザの言う通りだと私も思うよ。」
エルザの言葉に、みぃも頷く。
「ん、じゃぁ続けるね。騒乱のきっかけになったのは、魔導装置のメモリーバンクに残されていた、ある実験結果が、西側の人達の眼に触れた事なの。」
その実験というのは人類強化計画の一部の資料だった。
世界を支配しようとしていたノルキア帝国。
当然のことながら軍事研究費には多大な予算が流れており、その潤沢な予算で、様々な実験が行われていた。
人類強化計画もその一環である。
人類強化、と言いながら、其の実態は強化した兵隊の製造だった。
低コストで大量生産できる使い捨ての兵士、一人で百人、千人を相手できる強化戦士の製造、当時、当たり前のように使われていた魔法に対する高抵抗力を持つ戦士、現存する魔法使いより、巨大な魔力を扱える戦士……等々。
当時は、そんな馬鹿な、というようなイディアから、倫理観を無視した狂ったアイディアまで、あらゆることが取り入れられ実験が繰り返されていた。
更にはそうしてできた実験体同士を掛け合わせて、作り出される次世代のものまで、知的好奇心と呼ばれる,狂った欲望とそれに伴う実験は留まることを知らなかった。
そういう実験を繰り返し、多数の屍の上に、ある程度の成功例として出来上がった、一部の実験体。
しかし、破壊神ユースティアにより、その施設も実験データも全てが失われた……はずだった。
「ん、確かに破棄した。」
ユウがその報告に頷く。
「だけどね、完全には消去されてなかったのよ。そして、それを復活させたのがシルヴィア……よ。」
「そんなことない。いい加減な事言うな。」
ミヤコに向かってユウの殺気が放たれる。
「シルヴィが一番嫌ってた。動けないシルヴィの代わりに、私がすべてを破壊した。シルヴィがそんなことするはずがない。」
「ユウ落ち着いてっ!……今は調査結果を最後まで聞きましょ。」
エルザがユウを抱きしめ、興奮を抑える。
この話をすれば、ユウが怒ることは分かっていたから、あらかじめ、エルザはユウを止めることが出来るように抱き抱えていた。
……其れでも、これはキツイわぁ。
エルザが直ぐに止めてくれたとはいえ、ユウの放つ威圧はミヤコに少なくない衝撃を与えている。
今だって、立っているのがやっとという状態だ。
「えっと続けるわね。シルヴィアさんが復活させた、と言ったけど、正確にはシルヴィアさんの意思、というより『マザーシルヴィア』の意思と言った方が正しいわ。」
「どういうこと?」
「世界の動脈となったマザーシルヴィアという魔導装置は、コアになったシルヴィアさん一人の意思で動かすには大きくなり過ぎたのよ。」
コアとして、基本的な意思と全体の取りまとめをしているシルヴィア本人。しかし、実働しているのは各地にある装置を制御するフェイクコア……つまりシルヴィアの分体みたいなもの。意思は通じているものの、現場判断が優先される。……優先されなければ、緊急時の対応ができなくなるのである意味当たり前の事だ。
そして末端の装置に行けば行くほど、その傾向は強くなっていき、中央コアのシルヴィアには、報告が上がってこない限り、末端の末端が何をしているかまでは把握できなくなっていた。
「んー、会社組織みたいなものか?大きい会社だと本社の社長は支社の一部所まで目を光らせてるわけじゃないからな。」
カズトが、日本にいた頃の知識に照らし合わせて聞いてみる。
「うん、そんな感じね。こっちの世界で例えるならそうね……。王様がシルヴィアで、各地のフェイクコア装置が領主、更に散らばった各町の代表が末端装置ってところかしら?」
ミヤコはカズトに頷き、他の者達に分かりやすい様に例を挙げてから、更に説明を続ける。
「だからね、そんな末端に位置する制御装置の一つが、偶然にも、そのメモリーバンクに残っていた資料をみつけてね、研究を再開したの。」
「でも、なんで……。シルヴィはあれだけ嫌っていたのに……。」
目に見えて落ち込むユウを、エルザがあやす。
「推測になるけど、人類を助けるため、だったんじゃないかな?」
「??」
どういうこと?と目で訴えかけてくるユウ。
「うん、当時の環境は施設付近以外では生きることが出来ない環境だったんでしょ?だったら、生活圏が狭くなって、物資なども限られてくるよね?そうすると、そこからはじき出される未来予想図は、人類の衰退による絶滅。それを打破するためには、酷い環境にも耐えることが出来る強靭な身体。人類強化計画という資料からなら、それを得ることが出来るって当事のフェイクコアは判断したんじゃないかしら?」
兵器としての強化は認められなくても、生き延びるための強化であれば、マザーの意思に反することは無い、と末端のコアが判断したのであればあり得る、とエルザも頷く。
「つまり、そう言う事なんだな?」
みぃの声が硬い。
「話が早いわ……。そう、そうして作られた強化人間が今の魔族の先祖、という事になるわ。」
過酷な暑さに耐えるだけの外郭。
極寒の大地をものともしない分厚い毛皮。
悪路をものともしない強靭な脚腰。
あらゆる困難を耐え抜くことが出来る膨大な魔力。
様々な検証をするために次々と作り出される検体。
のちに魔族、亜人と呼ばれる者達は、この時にその元が作られたのだ。
「結局、その強化された実験体を使えば、東側を容易に抑えられると、考えたバカがいて、その資料を基に大量に生産されたのね。だけど、作り出されたとはいえ、相手は知恵も感情もある生き物よ。さらに言えば、施設に寄りかかって初めて生きることが出来るような脆弱な生き物に従う必要がないと考えてもおかしくはないわね。」
「それはそうだよな。」
みぃも、うんうんと頷く。
「結果として、西側VS東側VS亜人という三つ巴の争いが長きにわたっておきたわ。そして、長く先の見えない争いに嫌気をさした東側の人間が、禁断の封印を解いたの。……つまり龍族の参戦ね。」
不毛な争いに加え、意味もなくその場を荒らす龍族の参戦により、西も東も、亜人も関係なく滅びの一途を辿っていく。そして、その滅びを逃れたごく少数の人々が、様々な苦難を乗り越え、現在の文明を築いたという事だ。
「今の文明がそれなりになる頃には、大陸の間にあった亀裂は大きく広がって互いを視認することが出来なくなって、それぞれに独自の発展を遂げたから、他の大陸の事を知らないってわけ。」
「成程な。だけど、人類が文明を取り戻す間、魔族……と言うか亜人たちは何もしなかったのか?」
カズトが、そう疑問を口にする。
「そこは、シルヴィアさんの最後の尽力みたいね。施設に残された最後の力を振り絞って、残った人類と亜人、魔族達の生活圏を分けたみたいよ。さらに言えば、当時一番適応力が高いと思われた魔族や亜人達に干渉もしてるわ。」
「干渉って?」
みぃが首をかしげる。
「えっとね、幾つかの種族に対し、シルヴィアさんを始めとした旧人類の因子を埋め込んだの。これによって、亜人や魔族達には旧人類の能力や性格が受け継がれるようになったし、人類との間に子を成すことが出来るようにもなったわ。」
「余計な事……ってわけでもないのか。」
「そうね、その因子を埋め込まれることによって、能力の底上げが出来たわけで、それが今に至るまで生存できている要因である事は間違いないわ。後、余計な事かもしれないけど、サキュバス族に使われた因子は……ユースティアさんのものよ。」
『「「えっ。」」」
「ドレイン能力と高魔力の保持はユースティアさん由来のものらしいわ……その種族特性もね。」
「……。」
突然明かされた事実に、みぃを始めとして、誰も声がでない。
そんな中で、辛うじて声を絞り出すカズト。
「つまり、サキュバスがエロいのはユウちゃんの所為だと……。」
「今まで生きてきた中で、一番知りたくない事実だわ。」
カズトの言葉に答えるようにみぃが呟く。
その後しばらくは静寂がその場を支配していたが、ミヤコがその静寂を打ち破るさらなる爆弾を落とす。
「とまぁ、ココまでが前振りで、本番はここから。この世界のどこかに、マザーシルヴィアのコアを宿したメインの魔導装置が存在するわ。そして、それは今も稼働してるのよ。」
新しく落とされた爆弾に、最初に知らされていたエルザ以外は声も出なかった。
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悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
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