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第十八夜(1)─海斗side─
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美味しそうな、いい匂いがする。
目を覚ますと、そこは相変わらずソファーの上だった。
いつの間にか眠っていたらしい。体を少しだけ起こすと、なぜか額から濡れタオルが落ちてきた。体には見慣れない厚手のブランケットが掛けられている。
なんだこれは、とやけに働かない頭で呆然とそれらを眺めていると、「起きたかよ」と声をかけられて海斗は小さく飛び上がる。
恭介だ。一歩、また一歩と海斗に近寄ってくる。寝癖だろう、右のこめかみあたりの髪が少しだけ跳ねていて可愛い。
──まさか、昨日のことは全部夢か?
そう思ってすぐ、ベランダの物干し竿で揺れているシーツに気づく。
夢ではない。海斗の手によって、いつも以上にぐずぐずに乱れる恭介を忘れられるはずがない。
小一時間ほど眠ってしまっていたようだ。
「昨日ここで、布団かけずに寝ただろ」
呆れた様子で、恭介がソファーの傍にしゃがみ込む。自然と上目遣いで見上げられ、昨晩を思い出して懲りもせずドキリとしてしまう。
「お前、熱あるよ。ここエアコン直で当たるし、風邪引いたんじゃねえの」
「…………。」
話の内容よりも、普通に話し掛けられていることに驚いてしまう。
その上、どうやら、この濡れタオルやブランケットまで、恭介が用意してくれたらしい。
そう言われてみると頭が痛いが、そんなことはどうでもよかった。
「……なんで……?絶交って、昨日……」
「は?言っとくけどまだ全然許してないからな」
恭介はギロっと海斗を睨んで、それから目線を外して少しだけばつが悪そうに唇を尖らせた。
「病人ほっとくほど性格悪くないし。それに……」意味あり気に言葉を止める。言うか迷っているようだったが、しばらくしてその口は小さく開いた。
「……びっくりしたんだからな。朝起きて、お前ぐったりしてて、全然起きないし」
そっぽを向くその頰を撫でるために、思わず手を伸ばすところだったが、ぐっと堪える。
幼なじみが、相変わらず今日も優しい。今はそれが、こんな海斗にだけ向けられている。
「ごめん。……ありがとう」
「はいはい。で?食欲はあるのか?ネットで調べたやつだけど、たまご粥なら作ったけど。美味いかは知らん」
いい匂いの原因はそれのようだ。
立ち上がってキッチンに行こうとするから、結局海斗は手を伸ばして引き止めてしまう。
服の裾を掴まれた恭介が、少し警戒した様子でこちらを振り返る。
「身体、大丈夫か?」気になっていたことを尋ねると、首を縦に振った恭介の耳が、じわじわと朱くなっていく。
まだ多少は海斗を意識してくれるようだ。表に出ないように、嬉しさをそっと噛み締める。
「昨日はごめん」
もう無理、と蕩けきった顔で拒む恭介を一蹴して、さらにもう2回行為に及んでしまった。もちろん、全力で嫌がっていないと分かったからだが。
起きている恭介に、吐息混じりに名前を呼ばれただけで、どうしようもないくらい高揚した。昨日は海斗にとっても、ある意味初めての夜だった。
「いや、昨日だけじゃないか……」自嘲めいた言葉をつい漏らして、恭介を見上げる。「本当に、ごめん」
それしか言えなくて、また同じ言葉を繰り返す。
恭介の濃い焦げ茶色の瞳が揺れたのが分かって、はっとして、そっと手を離す。触られるのも嫌なんだろうと思った。
「あのさ……、恭介が嫌なら、俺はこの家を出てくよ。ちゃんと家賃とかは俺の分ずっと払うし安心して」
「は……なんで、そんな……」
「なんでって、嫌だろ普通に。……でも、もし、居てもいいって言ってくれるなら、本当に、もう二度と、変なことはしないって誓う」
ぽかんと口を開けて、「にどと……」と恭介は海斗の言葉を小さく繰り返した。信用ならないと思っているに違いない。
考えといて、と言おうとしたら、遮るように伸びてきた恭介の手に、海斗は両方の頬をむぎゅっとつねられた。
目を覚ますと、そこは相変わらずソファーの上だった。
いつの間にか眠っていたらしい。体を少しだけ起こすと、なぜか額から濡れタオルが落ちてきた。体には見慣れない厚手のブランケットが掛けられている。
なんだこれは、とやけに働かない頭で呆然とそれらを眺めていると、「起きたかよ」と声をかけられて海斗は小さく飛び上がる。
恭介だ。一歩、また一歩と海斗に近寄ってくる。寝癖だろう、右のこめかみあたりの髪が少しだけ跳ねていて可愛い。
──まさか、昨日のことは全部夢か?
そう思ってすぐ、ベランダの物干し竿で揺れているシーツに気づく。
夢ではない。海斗の手によって、いつも以上にぐずぐずに乱れる恭介を忘れられるはずがない。
小一時間ほど眠ってしまっていたようだ。
「昨日ここで、布団かけずに寝ただろ」
呆れた様子で、恭介がソファーの傍にしゃがみ込む。自然と上目遣いで見上げられ、昨晩を思い出して懲りもせずドキリとしてしまう。
「お前、熱あるよ。ここエアコン直で当たるし、風邪引いたんじゃねえの」
「…………。」
話の内容よりも、普通に話し掛けられていることに驚いてしまう。
その上、どうやら、この濡れタオルやブランケットまで、恭介が用意してくれたらしい。
そう言われてみると頭が痛いが、そんなことはどうでもよかった。
「……なんで……?絶交って、昨日……」
「は?言っとくけどまだ全然許してないからな」
恭介はギロっと海斗を睨んで、それから目線を外して少しだけばつが悪そうに唇を尖らせた。
「病人ほっとくほど性格悪くないし。それに……」意味あり気に言葉を止める。言うか迷っているようだったが、しばらくしてその口は小さく開いた。
「……びっくりしたんだからな。朝起きて、お前ぐったりしてて、全然起きないし」
そっぽを向くその頰を撫でるために、思わず手を伸ばすところだったが、ぐっと堪える。
幼なじみが、相変わらず今日も優しい。今はそれが、こんな海斗にだけ向けられている。
「ごめん。……ありがとう」
「はいはい。で?食欲はあるのか?ネットで調べたやつだけど、たまご粥なら作ったけど。美味いかは知らん」
いい匂いの原因はそれのようだ。
立ち上がってキッチンに行こうとするから、結局海斗は手を伸ばして引き止めてしまう。
服の裾を掴まれた恭介が、少し警戒した様子でこちらを振り返る。
「身体、大丈夫か?」気になっていたことを尋ねると、首を縦に振った恭介の耳が、じわじわと朱くなっていく。
まだ多少は海斗を意識してくれるようだ。表に出ないように、嬉しさをそっと噛み締める。
「昨日はごめん」
もう無理、と蕩けきった顔で拒む恭介を一蹴して、さらにもう2回行為に及んでしまった。もちろん、全力で嫌がっていないと分かったからだが。
起きている恭介に、吐息混じりに名前を呼ばれただけで、どうしようもないくらい高揚した。昨日は海斗にとっても、ある意味初めての夜だった。
「いや、昨日だけじゃないか……」自嘲めいた言葉をつい漏らして、恭介を見上げる。「本当に、ごめん」
それしか言えなくて、また同じ言葉を繰り返す。
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「あのさ……、恭介が嫌なら、俺はこの家を出てくよ。ちゃんと家賃とかは俺の分ずっと払うし安心して」
「は……なんで、そんな……」
「なんでって、嫌だろ普通に。……でも、もし、居てもいいって言ってくれるなら、本当に、もう二度と、変なことはしないって誓う」
ぽかんと口を開けて、「にどと……」と恭介は海斗の言葉を小さく繰り返した。信用ならないと思っているに違いない。
考えといて、と言おうとしたら、遮るように伸びてきた恭介の手に、海斗は両方の頬をむぎゅっとつねられた。
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