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ひとめあなたに会いたくて
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「まあ、憧れの人と初めて食事に行くの?」
「こんな崩れた髪と顔ではダメよ!髪を整えて化粧し直してもらいましょう」
うちあげに行けない理由を照れながらイズールが話すと、ネリーとセイランが盛り上がる。
化粧士さんも髪結いさんも楽しそうにイズールを整えてくれた。
イズールの持ってきた黒茶の街着を見て、サリラがあらあら、と嘆く。
「イズールらしいけれど、もっと華やかな服も渡したでしょう?また渡そうと思って直していた服があるから持ってこさせるわ。ちょっとだけ待っていなさい」
持ってこられたのは上半身がぴったりとして、ふわりとすその広がるドレスだった。
肌触りがとてもいい。
夏らしい白地に目立たない銀糸が織り込んである。
一見シンプルだが、実はとても手の込んだもののようだ。
新品をあつらえるより高価なのではないか。
「あなたとの契約を息子に怒られてしまったのよ。専属をよそに取られたくなかったら3割に上げなくてはって。今までの分をお金で渡してもいいけれど、それとは別にお詫びもかねてこれを渡すわね」
思い切って買った銀色のバッグと靴にぴったりなのが嬉しかった。
ありがたくいただくことにして、お礼を言っていると、
「彼を待たせすぎてはだめよ!」
と、追い出された。
◇◇◇
待ち合わせ場所は混み合っていたけれど、すぐに分かった。
騎士たちが数人ほど談笑していたのである。
体格の良い彼らは目立つし、騎士団の礼服をうっとりと眺めるお嬢さんたちが遠巻きにしていてさらに目立つ。
舞台の気分を引きずって浮かれていたイズールの気持ちがすーっと下がった。
一人だけ背の低い、ふわふわのはちみつ色の髪の主がきらきらした笑顔を振りまいている。
あの美貌の人と並んで彼の前に立つなんて嫌だ。
帰ってしまおうか、と、後ずさりしたイズールの気配を察したのか、その人が振り向いた。
「イズール!」
リーリシャリムは駆け寄って、イズールの手を引いて導いた。
お嬢さんたちが羨ましそうな目を向けているのを感じる。
みんなの憧れの騎士にエスコート、エスコートをされている。
思ったより背が高く、筋肉のついたリーリシャリムの腕は確かに男性で、余計に緊張した。
「今日のイズールは特別かわいいよ!でもグノン、狙っちゃだめだよ?」
「アドルを敵に回すようなバカはしない」
黒い髪の男とリーリシャリムがじゃれている。
紺色の目がアズールを一瞬じっと見つめて、まぶしいものでも見たようにそむけられた。
「……話していたより、もっと若いんだね」
「よく、言われます」
頬が熱いけれど、化粧した顔は崩れていないだろうか。
大好きな声と会話が続かなくて、でも、もう充分である。
「イズールは今日の公演を見た?最高だったね。俺は念願の小鳥を手に入れたよ!」
「み、見たわ」
「他の誰かと見たのかい?」
「リー、うるさい」
アドルはリーリシャリムの腕をぐいっとイズールから引きはがした。
いたずらっ子の顔をしたリーリシャリムがまたからかう。
「緊張するから一緒にいて欲しいって言ったのは誰だよ!」
「リー、もう俺たちは行こう」
「いいじゃないか。アドルが珍しく緊張しているんだよ?」
「お前、そういうとこだぞ!……はじめまして、イズール。僕はグノン」
すっと差し出された手を握る。
誠実さが黒い瞳に出ている。
自然と笑顔になった。
「あっ、マリベルとルルファスだよ!近づいたら砂糖吐きそうだな」
「一応あいさつしとくか」
「あっ、私も」
イズールをエスコートしようとしたグノンをアドルがさえぎって、
「俺も二人とは久しぶりだから行こう……え、あれは本当に女史か?」
びっくりした顔をしながらイズールの手をアドルが取ってしまった。
とても慣れた仕草である。
もててもてて仕方がないはずの騎士だ、自然に体が動くのだろう。
自分は彼をとりまく多くの女性の中の一人。
定期連絡も終わってしまった。
エスコートは今夜が最初で最後かもしれない。
せめて楽しい夜にしよう。
「こんな崩れた髪と顔ではダメよ!髪を整えて化粧し直してもらいましょう」
うちあげに行けない理由を照れながらイズールが話すと、ネリーとセイランが盛り上がる。
化粧士さんも髪結いさんも楽しそうにイズールを整えてくれた。
イズールの持ってきた黒茶の街着を見て、サリラがあらあら、と嘆く。
「イズールらしいけれど、もっと華やかな服も渡したでしょう?また渡そうと思って直していた服があるから持ってこさせるわ。ちょっとだけ待っていなさい」
持ってこられたのは上半身がぴったりとして、ふわりとすその広がるドレスだった。
肌触りがとてもいい。
夏らしい白地に目立たない銀糸が織り込んである。
一見シンプルだが、実はとても手の込んだもののようだ。
新品をあつらえるより高価なのではないか。
「あなたとの契約を息子に怒られてしまったのよ。専属をよそに取られたくなかったら3割に上げなくてはって。今までの分をお金で渡してもいいけれど、それとは別にお詫びもかねてこれを渡すわね」
思い切って買った銀色のバッグと靴にぴったりなのが嬉しかった。
ありがたくいただくことにして、お礼を言っていると、
「彼を待たせすぎてはだめよ!」
と、追い出された。
◇◇◇
待ち合わせ場所は混み合っていたけれど、すぐに分かった。
騎士たちが数人ほど談笑していたのである。
体格の良い彼らは目立つし、騎士団の礼服をうっとりと眺めるお嬢さんたちが遠巻きにしていてさらに目立つ。
舞台の気分を引きずって浮かれていたイズールの気持ちがすーっと下がった。
一人だけ背の低い、ふわふわのはちみつ色の髪の主がきらきらした笑顔を振りまいている。
あの美貌の人と並んで彼の前に立つなんて嫌だ。
帰ってしまおうか、と、後ずさりしたイズールの気配を察したのか、その人が振り向いた。
「イズール!」
リーリシャリムは駆け寄って、イズールの手を引いて導いた。
お嬢さんたちが羨ましそうな目を向けているのを感じる。
みんなの憧れの騎士にエスコート、エスコートをされている。
思ったより背が高く、筋肉のついたリーリシャリムの腕は確かに男性で、余計に緊張した。
「今日のイズールは特別かわいいよ!でもグノン、狙っちゃだめだよ?」
「アドルを敵に回すようなバカはしない」
黒い髪の男とリーリシャリムがじゃれている。
紺色の目がアズールを一瞬じっと見つめて、まぶしいものでも見たようにそむけられた。
「……話していたより、もっと若いんだね」
「よく、言われます」
頬が熱いけれど、化粧した顔は崩れていないだろうか。
大好きな声と会話が続かなくて、でも、もう充分である。
「イズールは今日の公演を見た?最高だったね。俺は念願の小鳥を手に入れたよ!」
「み、見たわ」
「他の誰かと見たのかい?」
「リー、うるさい」
アドルはリーリシャリムの腕をぐいっとイズールから引きはがした。
いたずらっ子の顔をしたリーリシャリムがまたからかう。
「緊張するから一緒にいて欲しいって言ったのは誰だよ!」
「リー、もう俺たちは行こう」
「いいじゃないか。アドルが珍しく緊張しているんだよ?」
「お前、そういうとこだぞ!……はじめまして、イズール。僕はグノン」
すっと差し出された手を握る。
誠実さが黒い瞳に出ている。
自然と笑顔になった。
「あっ、マリベルとルルファスだよ!近づいたら砂糖吐きそうだな」
「一応あいさつしとくか」
「あっ、私も」
イズールをエスコートしようとしたグノンをアドルがさえぎって、
「俺も二人とは久しぶりだから行こう……え、あれは本当に女史か?」
びっくりした顔をしながらイズールの手をアドルが取ってしまった。
とても慣れた仕草である。
もててもてて仕方がないはずの騎士だ、自然に体が動くのだろう。
自分は彼をとりまく多くの女性の中の一人。
定期連絡も終わってしまった。
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せめて楽しい夜にしよう。
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