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第1章 精霊姫 編
第12話 【攻略対象 辺境伯令息】人外の血を引いた辺境伯は侮れない!
しおりを挟むレーナは、頑なに頭を下げることを拒む父に悪戦苦闘しながら、ふと視線を感じてその主の方へ視線を向ける。すると既視感のある、エメラルドの双眸に行き当たった。
(そうだった! なんでこんな分かりやすい姿なのに気付かなかったんだろう!)
ふいに、彼女の脳裏に羽角 玲緒奈だった時にプレイしたゲーム『虹の彼方のダンテフォール ~堕ちる神と滅びる世界で、真実の愛が繋げる奇跡~』の設定が閃いた。
ドリアーデ辺境伯の家系には、他に類を見ない特徴がある。彼らの一族には光を受けると黄金に輝く緑の髪と、エメラルド色の瞳が代々引き継がれているのだ。これは、初代ドリアーデ辺境伯となった男が、後に彼が治めたシュルベルツ領の樹海に住む精霊姫と結ばれて生まれた家系だから現れる特徴だとされる。
ただ、貴族社会の中でも辺境伯家と精霊姫との繋がりを知るのはほんの一握り。王国中枢に近い人間だけに伝えられる事実だ。一般的には「精霊に愛でられる美貌の一族」とだけ伝わっている。
(うん、確かにこの辺境伯はとんでもない美形ではあるけど、攻略対象ではなかったわ。それに他の攻略者のアルルクが、まだあんな鼻たれ小僧なんだもの。ゲームの舞台はまだ5年以上は先だわ。だとしたら攻略対象は、お父さん世代のこの人じゃなくって、子供とか、養子になる親戚筋の子とか?)
ついついじっと見過ぎてしまったらしい。エメラルドの瞳が細められ、ふふんと鼻を鳴らしたドリアーデ辺境伯がニヤリと笑う。
「なんだ、娘? 童のくせに我に見惚れるとは見所のあるやつよな」
「「あ゛ぁ!?」」
揃った声は、レーナと父のものだ。
「ちょっとくらい面が良くたってなぁ、俺の可愛さが尊すぎるレーナの足元にも及ばねぇんだよ! レーナに、邪な目を向ける無分別な奴が世迷言ぬかしてんじゃねー!!」
「どんなに顔が綺麗でも、人攫いや幼女趣味のおじさんに興味はないわ!」
おおよそ権力者に向けると思えない言葉を吐く父娘に、警邏隊長の顔色が、青を通り越して白くなる。対面に座った兵士が、ガタリと音を立てて立ち上がろうとするのを、そっと掌を向けるジェスチャーで制したのはドリアーデ辺境伯だ。
「ふふ。村娘が我の庇護下に入るのは、過分な誉だと思うが。違うのかい?」
微かに口元を綻ばせた余裕の表情で、エメラルドの瞳がひたりとレーナを捕える。口調と表情は柔らかいが、見詰められたレーナが猛禽に狙われているようなうすら寒さを感じるのは、彼の緑の瞳に宿るのが酷薄な光だからか。父が更に何かを言いかけたが、口を警邏隊長の両手で強制的に塞がれてムームーと唸っている。
(ただのモブ娘に、なんで興味を持ってるんだろう!? もしかして、綺麗なだけに平凡嗜虐趣味があったりする!? やだやだ、コワイコワイっ!)
表面上はとても綺麗な笑顔を向けてくる、人外の血を引いた辺境伯に、レーナは怖さしか感じない。その笑みが、彼女に向けて更に圧を強めた。
「さっき……うちの兵士と一緒に吹き飛んだときの怪我は、もういいのかい?」
意味深に、ことさらゆっくりと紡がれた言葉にレーナは音を立てて血の気が引く心地がする。
(ばれてる!?)
ギクリと身体を強張らせて、ドリアーデ辺境伯を勢い込んで仰ぎ見れば、猫が獲物をいたぶるような愉悦の表情に行き当たる。
レーナは確かに怪我をしていた。と言っても裂傷や骨折のような重大なものではない。兵士の巨体に引っ張られて地面に打ち付けられたことによる、擦り傷と打撲程度のものだ。目立たないものだったから、修繕能力でこそっと治していたのだ。自分自身の怪我で、程度の軽いものなら合成材料無しでも治せるのは、こっそり繰り返した実験で確認済みだった。重傷の修繕はさすがに試してはいない。
「見事な腕前であったなぁ。それ以外にも痕跡が見てとれるが、そちらも上手く――」
「わぁぁぁぁーーーーーっ!」
不意に大声を出したレーナに、応接区画に集まる4人の視線が集まった。
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