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第1章 精霊姫 編
第14話 【攻略対象 辺境伯令息】ドリアーデ辺境伯に招かれ、シュルベルツ領主館へ
しおりを挟む「我の居所に招待しようか」
ドリアーデ辺境伯の言葉は、すぐさま実行された。
大袈裟な旅支度は必要ないと付け加えた彼は、とんでもない手腕を発揮して翌朝すぐの出発を可能にしてしまったのだ。
『微妙な修繕能力』を持つレーナは、ヒロイン聖女と認定されかねない。だからゲーム本筋に関わるのは、絶対に遠慮したい。彼女が求めるのは推しの最高神リュザスだけだから、他の攻略対象に近付きたくもない。面倒な試練イベントも、ゲーム本筋に関わる恐れがある地雷案件だ。だから、攻略対象に近い血筋である彼からの申し出をなんとか煙に巻きたかったレーナだが……。
事態を理解しきらない父娘は、辺境伯軍に所属する20人ばかりの集団に恭しくも速やかに案内されて、日の出とともに天を駆る大型飛獣の引く馬車に乗せられた。陸路なら脱出も出来ただろうが、さすがに空路では大人しくしているほかない。更に馬車は驚くようなスピードで天空を駆けて、太陽が傾き始めるころには目的地へと辿り着いた。
「ようこそ、我がシュルベルツ領へ」
使用人によって馬車の扉が開けられると、ドリアーデ辺境伯が景色を紹介するように片腕を広げてみせる。その背後には峻嶺が間近に迫り、緑豊かな景色が広がっていた。どこまでも平野と畑が広がり、王国の穀物庫とも呼ばれるプペ村周辺とは別世界だ。ドリアーデ辺境伯の治めるシュルベルツ領は、険しい山を挟んで隣国と接する要所であり、そこを守護する彼ら一族は『王国の盾』と呼ばれている。
そして、精霊姫と結ばれて生まれた一族の伝承を裏付けるように、領主一族はもれなく美形だ。――と、ゲームの設定には有った。
(うーわぁー……)
シュルベルツ領主館へ一歩踏み込んだ途端、レーナの目に映ったのはズラリと居並ぶ美しい使用人らの姿だった。採用条件に容姿端麗の必須条件があるのではないかと思う程のレベルの高さだ。
「ようこそいらっしゃいました」
ぽかんと大口を開けた父娘に、執事を名乗るロマンスグレーの男が胸に片手を当てて、恭しく頭を下げる。
目の前の執事をはじめ、使用人らの顔面偏差値の高さに圧倒されて、レーナと父は言葉もでない。
(精霊姫の血を引いてるのって、領主一族だけじゃないの!? ナニコレ、落ち着かない~!)
やはり現実として生きるのと、ゲームとしてプレイしているのとでは違う。想像外のことが起こりすぎると実感するレーナだ。
「レーナ! 問題ないぞ!! やっぱりレーナが一番だ! 可愛さが尊すぎるレーナには、不埒な奴なんかに指一本触れさせたりしないからな! 安心しろっ」
父が、 娘の愛らしさを再確認して力強く応える姿には不安しかない。レーナは、曖昧な笑顔で相槌を打ちつつ、キョロリと周囲を見回した。
歴史ある博物館のアプローチに似た、広い玄関ホールの奥に存在感を示す大階段。それは、丁度一階と二階の間に作られた踊り場で左右に分かれて、優美な曲線を描きながら上へと続く。ステージのようにも見える広々とした踊り場の壁には、初代ドリアーデ婦人である精霊姫だろうか、美女を描いた絵画が飾られている。彼女は桃色の小花がいくつもついたネリネの花束を抱えて幸せそうに微笑んでいた。
(確かネリネの花言葉は「幸せな思い出」「また会う日を楽しみに」だったわね。満足げに微笑んでるわけよね)
レーナが可憐な美女の絵画をぼんやりと眺めていると、すぐ傍から声が響いた。
「慣れない移動で疲れたであろう。客室でゆるりと休むがいい。今宵の晩餐で会おう」
レーナらと共に屋敷へやって来たドリアーデ辺境伯が、一段とキラキラしい顔を見せつけて来る。
(美形が続くのも、うんざりするものなのね……。初めて知ったわ)
むむ、と眉間にしわを寄せて彼を見上げたレーナに、ドリアーデ辺境伯は「おや」と器用に片眉を持ち上げる。
「ふむ。我が館において、そのように潰れた蛙でも見るような顔をする者も珍しいな」
からかう口調ではあったけれど、それを聞いた使用人らは、気配をざわつかせる。お高くとまって距離を置かれ、ツンと冷えた感覚だった雰囲気が、一気に珍獣を見るソワソワしたものに変わった。
(なんで?)
首を傾げたのは父も同じだったようで、親子は互いに顔を見合わせるのだった。
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