18 / 237
第1章 精霊姫 編
第18話 【攻略対象 辺境伯令息】虹色の蝶にリュザスの影を見る
しおりを挟むパカポコと馬車は進み、ガタゴト・ガサガサと悪路の様相を呈し始めて幾ばくもせず、馭者が到着を告げてきた。
執事によって開かれた扉をまず飛び出したのは、エドヴィンだ。
領主邸を訪れたレーナらに、父親が見せたのと同じく、景色を紹介するように片腕を広げたポーズをとってみせる。
「ここが我が領地の守りであり、恵みでもある母なる森『精霊姫の樹海』だ!」
道も途切れ、膝まで届く草原が続いた先には、忽然と緑の壁が現れていた。
壁と見えたのは、奥を見通せないほど密度高く生い茂った木々が作り出した自然の固まりだ。びっしり不規則に生い茂った樹木が日光を奪い合い、あちこちに枝を伸ばし、葉を茂らせ、地面を這う蔓草や下草までもが負けじと大きな葉を広げている。
活き活きとした生命力あふれる緑の姿は、なるほどここが精霊姫に連なる土地『精霊姫の樹海』だと納得させられる。
ゲームの画面では分からなかった、実物の迫力に圧倒されつつ、 玲緒奈だった時にも見たことのない樹海の光景にレーナのテンションは爆上がりだ。
「すごい! 入ってもいいの!?」
開け放たれた扉から、ぴょんと飛び降りてエドヴィンを振り返る。すると、たった今出て来た場所に向かって手を差し出したまま、目を丸くするエドヴィンに気付いて「ただの村娘に気遣いしなくて良いわよ」と告げれば、彼は、ちょっぴり不満そうにその手を引っ込めた。
「父上からの許可はいただいているし、護衛もいるから案内しよう。だが、精霊姫様に護られた土地とは言っても、足場の悪い樹海だ。遠くまでは踏み込めないぞ? 地元の者でも帰ってこれなくなることがあるからな」
「確かに……。森の奥は真っ暗にも見えるものね」
じっと目を凝らすが、生い茂った木々の緑はずっと先では鮮やかな色を失い、薄暗がりとなっている。
「レーナ、では一緒に行こうか」
今度は目の前に手を差し出してきたエドヴィンは、とてもイイ笑顔を浮かべている。何をムキになっているんだと呆れたレーナだが、このくらい感情の表れた顔の方が実在する人間味があってずっと良い、と口角を上げたのだった。
カサカサ
瑞々しい緑の地面は、進むほどに頭上の木々が落とした枯葉、朽ち葉に覆われ始めて茶色く変じる。
更に奥へと進めば、湿った土の匂いが立ち込めて、木の葉の間に僅かに見える太陽の光も、夜空の星ほどにささやかなものとなって行く。
陽の届かない地面は、辺りの空気も暖めない。薄暗い景色は、居る人の気持ちを心細く冷えさせる。
本格的にひんやりし始めた暗い森が、この先も延々続くだけの景色を見て取ったレーナは、引き返しを提案しようとクルリと振り返った。
「あ」
「どうした、レーナ。怖ければ引き返してやろうか?」
思わず声を上げたレーナに、意地悪気な笑みを浮かべているであろうエドヴィンの声が聞こえる。暗くてはっきりとは見えないが。
「そうじゃなくて、あれ!」
エドヴィンに掴まれたのとは逆の手で、森の先を指し示す。10メートルほど先を、見たこともない虹色の美しい蝶が輝く鱗粉を散らしてひらりひらりと舞っている。
「なんだ? あれ」
首を傾げるエドヴィンに、同行している執事や護衛の騎士らから答える声は上がらない。どうやら、この地に住む彼らにとっても見慣れないモノらしい。
その場にいる全員に、ひらりひらりと動かす羽根を見せつけるように、ゆっくり、ゆっくりと虹色の輝く蝶は遠ざかって行く。虹の色はこの世界の最高神リュザスの色だ。その色を持つ蝶は、この世界に生きる彼らの眼には崇高なものにも映っているのだろう。
だが、レーナは違う。
(え!? 未確認生物で、リュザス様の色を持って、ゲーム本筋に大きく関わる攻略対象の前に現れるなんて、絶対に何か重要なヤツよね!?)
レーナの心に強く蘇ったのは、まだ彼女が羽角 玲緒奈だった時に、寝食を惜しんで生命をすり減らすほどに恋焦がれ、会いたいと望んだ最推しに萌える気持ちだ。
(今度こそリュザス様に会えるかも!!!)
どうしてそう思ったのかは分からない。けれど、虹色の姿が遠ざかるほどに、衝動的に強い想いが込み上げたレーナは、エドヴィンに握られた手を振りほどいて駆け出した。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら
渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!?
このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!!
前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡
「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」
※※※
現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。
今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました!
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる