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第1章 精霊姫 編
第33話 【攻略対象 辺境伯令息】エドヴィンからの花束
しおりを挟む街頭市場に差し掛かっていたレーナらだったが、エドヴィンがふいに何かを見付けたようだ。
「ちょっと待ってて」
ただそれだけを言い残して側を離れてしまう。
残されたレーナが少し腰を下ろそうと辺りを見回せば、広場の中央に小さな池が設置されているのが目に入った。その周囲は、軽く腰掛けることが出来そうに整えられている。池の中央には、ここも例外なく、精霊姫の像が置かれているが背中を向けて座ってしまえば目に入らないだろう。レーナは、しばらく目を瞑って休んでいようと、そこへ座り込んだ。
「お待たせ」
(いや、待ってないし)
嬉々とした声に、ゆっくりと閉じていた瞼を上げて行く。周囲からなんだかキャアキャアと華やかな騒ぎ声が聞こえる。一体何が? と心の中で首を傾げながら目を開ければ、すぐにその意味が分かった。
――桃色の小花がいくつもついたネリネの花。それを何本も集めた花束を抱えて幸せそうに微笑む美少年のスチルが、そこに顕現している。
(キラキラしいーーーー!? え? ナニこれ!? 玲於奈の世界に戻った!? ゲーム画面?)
あまりの美しさに、思考が色々混乱するレーナだ。そしてもう一つ。
(あれ? これって本当にスチルだ……あれ?)
ふいに閃いた既視感めいた困惑。
「レーナ、ネリネの花言葉は『幸せな思い出』だ。今日の日を私たちの良き想い――」
「あ、現実だった」
つい言葉が零れてしまった。気障すぎるセリフが自分に向けられて、酔いが醒めたように、ぼうっとしかけていた頭がクリアになったのだ。
「レーナ、やたらと熱い視線を向けられるのは御免被りたいが、いくらその気がないと言っても渾身のひと言くらい、最後まで言わせてくれ」
もしかしたら気が変わるかもしれんし……と希望的観測を併せて告げるエドヴィンは、レーナの視線が花束に吸い寄せられるように固着していることに気付く。
「なんだ? レーナもこの花は気に入ったか?」
「ううん、全く」
むしろ、絶叫姫を思い出さずにはいられないほど、密接に脳内リンクされてしまった呪物の様にも映る。
(花に罪は無いんだけどね。花言葉も「幸せな思い出」「また会う日を楽しみに」なんて、大切な人を思い出させる良いものだし。けどねぇ)
ちろりと振り返って、池の真ん中に立つ精霊姫像を見遣れば、これも例外なくネリネの花束を抱えている。
この街で見る精霊姫の意匠は、もれなくネリネとセットなのだ。
「――だから、レーナのことを人として、私はっ」
レーナが考え事をしている間に、エドヴィンの渾身のひと言とやらが再開していたらしい。
(えぇ!? 何言ってた!? 周りがキラキラした目で見てるけど、何やってる? エドーーー!?)
いつの間にか、遠巻きにこちらを見る人たちが足を止め、微妙な人垣が形成されつつある。
「――― …… ――なら、これを受け取ってほしい」
周囲に集まって来はじめた人たちと、そこに流れる生暖かい空気とは真逆に、レーナの背中には冷たいものが流れ始める。動揺しすぎてエドヴィンの言葉はほとんど耳に入っていないが、大体言っている内容は理解できている……はずだ。
意識を飛ばしそうになっているレーナの目の前に、さっとネリネの花束が差し出される。
騎士の様に跪いてでないだけ良かったかもしれない。そうなったら完全に公開処刑並の羞恥を味わうことになるはずだ。――お互いに。
(ひぇぇぇ! 辺境伯令息からの花束……こんなイミシンな花束は絶対に受け取れないわ!! 一般庶民娘の立場を貫いて、リュザス様探しの旅に出るには、絶対に邪魔になるアイテムよね!?)
反射的に断りの言葉を告げようとするが、意外に近い人垣にぐっと言葉を飲み込む。
(駄目だ、次期領主のエドヴィンに、領民の前で「ごめんなさい」なんて言ったら、この子の立場が……! それにヒロイン聖女ならそれもアリかも知れないけど、一般庶民娘がそんなコト言ったら「何様!?」ってものよね!?)
長すぎる間に、周囲の人垣の方が焦れた様子を見せ始める。
(やばい、どうしよう、受け取れない!)
ぐるぐると考え込むレーナだが、既に答えは決まっている。ただ行動に移すことが出来ず、眉間に皺を寄せて顔を引き攣らせているだけの間だ。
(困ったーーーー!)
レーナは心の中で絶叫を上げた。
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