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第1章 精霊姫 編
第39話 【攻略対象 辺境伯令息】試練の攻略終了?
しおりを挟む―― このまま彼女の思うようにさせておけば、森のオーブはすぐに力を取り戻すよ。この樹海の荒廃も止まる。彼女も機嫌よく森の恵みを子孫らに差し出すだろうし、いいことづくめだ。試練の攻略終了だよ、よかったね ――
愉しげな青年の声が、非人道的な解決策を勧め、これでもかと利点を列挙する。感情のしがらみを一切持たない、純粋な効率主義は、こんなにも残酷なものなのかと眩暈を覚えるレーナだ。
だが、声の主を最高神リュザスだと当たりをつけているレーナは、これこそが神の視点なのだろうとも思う。
(言うなれば、エドヴィンはシュルベルツ領に住む大勢の人々と、その地を守護する精霊をたった一人で救えてしまえる人身御供ってことね)
納得したわけでもないけれど、神ならそんな物の考え方もあるのかもしれない……と、気持ちを落ち着かせるように、リュザスと思しき相手が言った内容を繰り返す。
この世界では神への生贄がまかり通っている訳ではない。少なくともレーナは14年間そんな話は聞いたことが無い。女子高生である玲於奈としての視点を持っているから猶更憤りを感じてもいる。
―― うん? そんな大層なものじゃないよ。力を持つ者が、一時満足するための嗜好品みたいなものだね。それでも効果は絶大だ。人の身でそんなことが出来るなんて、彼はすごいね ――
「なにそれ!? 納得できない!!」
「レーナ様!?」
いきなり怒鳴ったレーナに、執事が慌てて呼び掛け、領兵らが驚愕の表情を向けてくる。
「いかがされましたか!? そちらに何かが居るのですか?」
執事が、レーナの視線の先と、彼女の顔を交互に見ながら、恐る恐る話し掛けて来る。彼にはリュザスの声は聞こえていないから、レーナが虚空に向かってただ声を上げているようにしか受け止められないのだ。
「え? 何? お化けでも見たような顔して。怖いからやめて」
受けたレーナは、逆に怖がる執事に慄いて答えるから、同行者らは彼女の反応の意味が益々解らない。
周囲の状況もやや気になるレーナではあったが、今はリュザスとの対話が重要だと判断して、再び脳内に響く声に集中する。すると、どこか嬉しそうな気配が伝わって来る。
(さっき、『試練の攻略終了』って言ったわね。だとしたら、攻略対象であるメインキャラが捕らえられて迎える終わりなんて、バッドエンドでしょ)
―― そうかな? 愛も資源も平穏も得られる、良い終わりだと思うけどな。僕はお薦めだよ ――
(納得できない。本当にそう? 傍観者を満足させる終わり方とは言えないわ)
―― んー、頑固なレーナだなぁ。まぁ、そんなレーナだから条件を満たしてくれたし、僕も気に入っているんだけど ――
後半、意味不明な言葉が挟まったが、緊急事態の起こっている今は、そこを深く追及している場合ではない――と、頭からそのことを追い出して、じっとリュザスの言葉を待つ。
―― 当人が幸せそうなら納得する? ――
しばらく考え込む間があって、質問の形で言葉が返って来た。
(そうね)
有り得ないとは思うけれど、万が一にも彼が幸せそうだったらとは思う。
それ以上に、人とは価値観が物凄く違いそうな神が、自分の意見を聞く気になってくれたことに驚きも感じているレーナだ。だから彼の気が変わらない様に、慎重に答える。
―― よしっ! じゃあ一緒に確かめに行こう! ――
「へっ!?」
うきうきと弾んだ青年の声に、レーナが間の抜けた声を上げた瞬間、彼女の右耳の後ろに付いていた虹色の蝶の髪飾りが、カッと眩い光を放って飛び立った。
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