49 / 237
第1章 精霊姫 編
第49話 【攻略対象 辺境伯令息】ネリネの花束の想い出
しおりを挟む精霊姫の記憶の中。
――いや、玲於奈のプレイしたゲーム『虹の彼方のダンテフォール ~堕ちる神と滅びる世界で、真実の愛が繋げる奇跡~』の、過去シーンのストーリー映像が、記憶の中で再生される。
彼女の目の前にいるエドヴィンによく似た「彼」は明るく笑っていた。
金茶の髪の青年――初代ドリアーデ辺境伯となる「彼」が、まだ生まれたばかりで奮うべき力を制御できずにいた精霊姫に出会い、迫害する人間から助け、彼女を魔力の糧として狙う魔族から救っていた。
そして、精霊姫は青年を介し、土地の人々と心を通じ合わせて守り神の如く崇められる様になる。彼らからの信頼と信仰心は、さらなる力を精霊姫に与えた。
彼女の奮う力は、瞬く間にどんな人間の魔術師よりも強くなり、彼女の影響を受けた木立の美しい林は見る間に森となり、森林となり、果ては樹海にまで発展する。人と近しくなったにも拘らず、彼らを助け、彼らに想われることで増す力は、彼女の気持ちとは裏腹に、人々と彼女との物理的な距離を遠ざけてしまう。
心優しかった彼女は、親愛の情とは相反して起こる隔絶の現実に嘆き悲しんだ。
そんな彼女に寄り添ったのは、やはり「彼」だった。
樹海を乗り越え、彼女を祀る祠へと足しげく通う金茶の髪の領主が、緑に波打つ髪の美女にネリネの花束を差し出す。
『受け取れません。あたしと貴方では生きる時間が違いすぎます』
求婚の意図を理解した精霊姫は、何度目か分からない断りの言葉を口にする。だが、真摯な瞳を彼女に向けた領主は、今回ばかりは簡単には引き下がらなかった。
出逢って間もない頃、彼女が傍に咲くネリネの花を「一番好き」だと言っていたことを覚えていたのだろう。この日の彼は、初めて大きなネリネの花束を手にしていた。そして「この花に負けない、あなたの一番になりたい」とも。
そして彼女の前に跪くと、恭しく花束を捧げる。
「あなたを愛する私の想いは、無くなることはありません。例え私の肉体が喪われたとしても、あなたの中に遺り続ける。違いますか?」
ズルい言い方だと精霊姫は理解していた。だが既にその時、彼女の気持ちは彼に強く惹かれていたし、彼も彼女への想いを隠すことは無かったから、必要なのは細やかなきっかけだけだった。
だから、その時彼が手にしていた花束を目にしたのは、ほんの偶然。その流れでの思い付きだったのだろう。
「このネリネの花が――そうだ、この花があなたと共にあることで、私の想いを実感できるよう、後世に渉って民に伝えましょう。あなたへネリネの花束が捧げられるようネリネの花言葉になぞらえて、私たちの『幸せな思い出』を伝え、叶うなら私が生まれ変わりあなたと『また会う日を楽しみに』しているとの願いが遺り続けるように」
細やかなきっかけを期待しての言葉――忘れない様に、そういうものだと習慣づけられるほどに、後世に渉って遺そうとの誓いだった。
領主として力を持ち始めた彼の言葉は、彼女を説得するだけの力を持っていた。いや、ほんの小さなきっかけとしての役割を果たした。
けれど残ったのは「精霊姫とネリネの花を共に表わすべし」との意匠に関わる意識だけだった。
彼女の愛と共に年々深くなる樹海の拡張と共に、祠への道のりは険しくなり、彼女を祀る祠にネリネを手向けに行く風習だけが廃れてしまったのだ――。
そして数百年を経て、涙に暮れる彼女の前に現れたのが「彼」と生き写しの「ネリネの花束」を持ったエドヴィンだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら
渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!?
このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!!
前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡
「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」
※※※
現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。
今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました!
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる