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第1章 精霊姫 編
第52話 【攻略対象 辺境伯令息】ドライアド在る所に樹海は広がる
しおりを挟むえっぐえぐと鼻を赤くした精霊姫がしゃくり上げながら、狼狽するばかりの経験値不足な攻略対象2人をギッと睨め付ける。
『それっ! その言い方、やめなさいよねっ! あたしを年寄り扱いしないでぇぇーーーっ』
精霊姫の叫び――と云ってもやはり脳内に響いてくるだけだが、その声にエドヴィンが何かに気付いてハッと息を飲む。しかしアルルクは、庇った相手から責められる状況が理解できずに怪訝そうだ。だから、至極当然な疑問を口にする。
「だって、森から出られないくらい弱ってるんだろ? 足腰が。だから引き籠もっているしかなくって、泣いてんだろ。そんなばあちゃん、村にもいたから おれ、良くわかるよ」
だから無理すんなって――などと、純粋に彼女を宥める言葉まで付け加えている。だが根本が誤っている。村に居た頑固者の御婆さんが、大きな隣町へ移り住むと言う息子夫婦に意地を張って一人暮らしを押し通して残り、年々動かなくなる身体と寂しさに耐え兼ねて、事あるごとに泣いていた姿はレーナも知っている。だた、今の場合はソレとは違う。
『違うわよ! 失礼なガキンチョね。あたしの力が強くなったから、あたしの居る場所に樹海が拡がっちゃうのよ! 街が樹海に呑まれたら、彼や子供たちや、大事なその子たちの子供らが暮らしていけなくなるでしょ!? だから泣く泣くこんな寂しいところに留まってるのよっ!!』
おんおんと泣く精霊姫は、確かにアルルクの言う通りの意地張りおばあさんとは事情が異なるようだった。
「そう言う割には、樹海の随分端までは出向いているではないですか。領兵の調べによれば、貴女の呪怨の声は森へ入って数百メートルと絶たないうちに響いている。常に森の端に居るのではないですか」
彼女を糾弾する言葉を冷たく告げたのはエドヴィンだ。何故か面倒くさい女の相手をするような、うんざりした表情になっている。とてもではないが敬愛すべきご先祖様へ向けていい表情ではない。
寂しいと繰り返しながら泣きじゃくる彼女は、レーナから見れば、とてもではないが樹海の守り神といった超然とした存在には思えない。意外なほど人間臭い、弱さと、我儘なところをもっている身近な、ただの愛されたがりの女性にしか思えなくなった。エドヴィンも同じ感想なのだろう。
(せめて、街に溢れた彼女とネリネの花の組み合わせを、見せてあげられたら良いのに)
けれど彼女の居る先に樹海が広がるのであれば、街へ赴くわけにはいかない。八方ふさがりだと考え込むレーナの正面で、エドヴィンの言葉に精霊姫が言い返す。
『あたしはずっと祠に居るわよ! 樹海の木はあたしの魔力で育ってるから、はしっこでも、そこの様子を知ったり、あたしの声を伝えたり出来るのよ! 寂しいの我慢して、ずぅっと気を遣ってきたんだからぁぁぁ!!』
悲痛な叫びだったが、レーナはその言葉にハッと息を飲み、目を輝かせた。
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