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第2章 火龍・水龍 編
第68話 【攻略対象 火龍の変化体】火を吐くドラゴン・アルルク
しおりを挟む『ちょっとぉ! あたしを年寄り扱いするなって何度言えばわかんのよーー!』
顔を真っ赤にして、肩を怒らせたプチドラが、引っ張ったエドヴィンの耳の穴に向かって大声を張り上げる。小さい身体のプチドラとはいえ、その至近距離で叫ばれては堪らない。エドヴィンは、声が止んでも耳の奥にキーンとした音が鳴り響く不快な感覚に顔を顰めつつ、肩上に仁王立ちする彼女を鋭く仰ぎ見る。
「だからっ! 癒しとは、心身穏やかに過ごせるよう努めて得られるものだろう! そのための準備を手伝おうとした私に、何の恨みがあってこんなことをするんだ!?」
流石に腹が立ったらしい。怒気を隠しきれない声を張り上げるが、プチドラは怯むどころかツンと顎を突き上げてそっぽを向く。
「何だ? 的確な指示じゃないか! 疲れたら、甘い菓子と渋い茶が身に染みると聞いたぞ? なんでそんな不満げなんだ!?」
「それって誰が言ってたの?」
伝わってくれとの思いを込めて、レーナが訪ねるが、エドヴィンは全く気付かずに自信ありげに胸を張る。
「父の先代から仕えてくれる、信頼できる庭師が言っていた」
『んもぉっ! 分かってないわぁー、そうじゃないのよ! あんたってば、ホントに彼の子孫なの!? ホンッと乙女心を分かってないわぁぁ』
プンスカと全身で怒りを表現するプチドラに、困惑も顕わなエドヴィンは、救いを求める視線をレーナに向ける。
「年の高低問わず、乙女心を捉えるのに必要なのは同意よ。解決策も意見も必要ないわ。ましてや、お年寄りの午後のひと時を提供するセンスの無さは、論外だし攻略対象もまだまだね」
中身、実年齢プラス18歳のレーナは、今や、仕方のない弟分として見ているエドヴィンに「一人前の攻略対象」としての心構えを得意げに語って見せる。攻略対象の言葉に、不満げに顔を曇らせる彼の反応には気付いていない。
攻略対象と言えば、アルルクもそうなのだけれど、彼はもっと乙女心には無頓着だ。今も、会話内容など全くの無関係だとばかりに、レーナに注意されるエドヴィンに「お前も 大変だなー」などと眉を下げ、外野から心配する側として声を掛けている。
「それならまだ、プチドラと一緒に騒げるアルルクの方が、共感力のあるところが好まれるし、可愛げがあるから――」
「なっ……ななななっ」
全くの無意識のところに、レーナから向けられた賞賛の言葉に、アルルクは真っ赤になる。
ぼふんっ
馬車の中一面が、真っ白になるほどの蒸気が一気に噴出し、濛々とした煙の中から真っ赤に顔を染めた赤髪のアルルクの代わりに、赤いドラゴンが現れた。
「ぎゃぉぅん」
彼の座っていた位置に、情けない鳴き声を上げた大型犬サイズの赤いドラゴンが、羽根を情けなく折りたたんで、お座りの恰好をしている。
「かっ……かわ、可愛いぃぃっ!!!」
「ぅみぎゃぉぉっ!?」
やっぱり可愛いは正義だ。最初見た時よりも大きくなってはいるが、自分の背丈よりも小さい子供ドラゴンなど、可愛い以外何物でもない。レーナは、やっぱり脊髄反射でドラゴンに飛びついて抱え込み、がっちりと羽交い絞めにしてすりすりと頬擦りする。
「みゃっ!? ぎゃぉっ! みぎゃぅっ!!」
「おい、レーナっ!? ただの子ドラゴンではないか! 赤い色は、確かに珍しいが、それまでだろっ。って言うか、ソレ、アルルクだぞ!?」
レーナの拘束から逃げ出そうと藻掻くアルルク。それを引き離したいけれど、ご令嬢の身体に無暗に触れるわけにはいかないと、葛藤しながら手を出したり引っ込めたりするエドヴィン。そんな3人の大騒ぎを、微笑ましいものを見る目で見ていたプチドラだったが、ふいにハッと何かに気付いて目を見開く。
『え? ちょっと待って? 赤髪、あんたそう言えばあたしのこと火のブレスで焼いたわよね? え、火の赤いドラゴン?』
プチドラのどこか焦った声は、2人と1匹の大騒ぎに搔き消されてしまう。
『ねぇ、ちょっと!? これって、もしかしなくとも……嫌な予感がするんだけどぉぉーーー!?』
ついには、大声で叫んだプチドラの尋常でない様子に、流石に騒ぎをピタリと止めたレーナらだ。
その時だ。
――急に静かになった馬車内に、聞いたことのない男の声が響いた。
『見っつけたぁぁ!』
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