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第2章 火龍・水龍 編
第96話 【攻略対象 水の精霊王と水龍】まだレーナのヒーローになれてない
しおりを挟む「いや、特には何も、やろうとはしてなかった……はずなんですけどねぇ」
曖昧に笑いながら言葉を濁すレーナには、否定することは出来ない。今回の防御膜は完全に作り出した覚えがあるのだから。レーナの変異していた一房と、変異しかけた一房が、艶やかな黒髪に戻ってぱらりと落ちる。
(もう一房まで触手みたいになるよりも、さっきから何度も溺れさせられたヴォディムの水を使えないかと思っただけなのよーーー)
取り込んだものを使っての修繕能力。ならば、たらふく飲んだ水の精霊王が作り出した水も使えるのではないか? そんな発想だった。頭に触手2本を生やすよりも、余程人間らしくいられる解決方法だと考えたレーナは即座に実行したのだ。リュザスがもう一房を変じさせるよりも先に、と。
同行者らを守る目的は果たせた。ただ、最高神の髪触手化の意志に反して、水防御膜を張ったことに、彼がどんな反応を示すかが怖くもあった。
―― さっすが僕の見込んだレーナ! 僕の想像を超えてくれて嬉しいなっ ――
だから、ひたすら明るく弾んだ声が帰って来たレーナは、ぎょっとして息を飲んだ。
―― 僕のために頑張り続けるレーナは、どんどん強くなっていくね。やっぱり君をここへ迎えて正解だったよ。この調子で頑張ってね、レーナ。君が僕の所へ来られる日を楽しみにしているから ――
上空で円を描いて舞い踊っていた蝶が、フワリと下降して再びレーナの頭にくっ付く。感触は無いが、髪飾りの状態に戻ったらしかった。
「なんだろう……リュザス様って、ちょっと思ってたのと違う?」
『虹の君に魅入られし娘よ、滅多なことを言うでない』
ぽつりと零れた不安を、水の精霊王ヴォディムがしっかりと聞き咎めてくる。精霊王よりも、最高神リュザスの方が立場が上なのだな……と漠然と感心していたレーナの耳に、すぐ傍で繰り広げられている騒ぎが飛び込んで来て思考は中断した。
『お主やはりっ、やはりワレのことを想っているのだな!』
「勘違いすんな! オレは レーナが悲しむことをさせたくないだけだ! レーナの気持ちを、守ったんだ!!」
火龍ファルークとアルルクが言い合っている。だが、先程までの殺気だったものとは異なり、どこか微笑ましく感じられる。
『どこが違うのだ? 虹の君のお力から、ワレを守ったであろうが』
「だからっ、レーナが頑張ろうとすると 毛が攻撃すんだろ? 毛がクラゲみたいな触手になったら、嫌だろ。レーナだって 一応オンナノコなんだしな!」
(なんだろう……この、どこか苛々する会話)
レーナが半眼で1人と1頭の遣り取りを眺めていると、彼女を挟んだ反対側では、項垂れる緑髪が視界の端に映る。
「障壁は……護りの魔法は我が家系の得意とするところだったのに……。間に合わなかった……まだまだ修行が足りないのか。私は、まだレーナのヒーローになれてない……くそっ」
悲壮感を漂わせた美形が下唇を噛んで、緑の小型美少女精霊に頭を撫でて慰められている。さすが乙女ゲーム世界。こんなスチルは無かったが、絵になる光景だ――などとレーナが眺めていると、プチドラがこちらに呆れた視線を向けて来た。
何か言わねば、とレーナが口を開く。言うべきは、さっきの不可抗力な突発的修繕が、使おうとして使った能力ではないと云うことだ。意図して狙った通りの効果をもたらす、魔法とは違うのだ。
「エドヴィン、気にすることないわ。わたしのは、たまたま上手くできただけで、やろうと頑張って出来たものじゃないから。貴女の努力の賜物とは違って、偶然出来ちゃっただけよ」
だから気にしないで、と笑ってみせれば、エドヴィンは益々表情を曇らせ、プチドラは『止め刺してどーすんのよ』とあきれ顔で吐き捨てた。
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