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第3章 乙女ゲーム始動 編
第121話 【攻略対象 美貌の大魔法使いと王子様】ヒロインが誕生してない!!
しおりを挟む「中途半端な魔法ではあるけど、ちゃんと効果はあるのよね。だってこの量の熱湯だったら、火傷で生命が危ぶまれたかもしれないわ」
言いながら、レーナは引っ掛かりを覚えて「あれ?」と首を捻る。
(ヒロインの友人が、高位貴族からの嫌がらせで大量の熱湯を浴びせ掛けられるって……ゲームの冒頭のテキストでさらっと書かれてた内容……よね?)
けれどその熱湯は、本来の乙女ゲームストーリーでは学院に居なかったはずの教師バルザックによって、無害な冷水に変えられてしまった。
だがそれは、重要な出来事だった気がする。
(冒頭は、確か……ヒロインがその後当然のように使う、強い光魔法に目覚める布石で。プレイヤーがクリア必須の不可避イベントで……)
ヒロインとなったプレイヤー が、初めて取り組むチュートリアルだ。簡単なパズルゲームではあるが、不可避なミニゲーム。それは、強力な光魔法に開眼するために欠かせない、体内の魔力循環をヒロインに知らしめるイベントではなかったか――
パズルクリアで、ヒロインは光魔法を使えるようになる。
テキストで記されただけの平民出身のモブ友人。全身に大火傷を負った彼女は、華々しく演出されたヒロインの治癒魔法で、一命を取り留める。
一少女がヒロインとして、乙女ゲーム世界に降り立つための、必須オープニングイベントだ。
(それが起きてないってことは、ヒロインが誕生してない!!)
レーナは血の気が、さあっと音を立てて引く気がした。
「レーナ? どうしたんだ」
「レーナさん? お加減が優れないのですか!? なら、私たちと一緒に医務室へ参りましょう!」
エドヴィンとシルヴィアが、声を掛ける。モブコーリアまでもが気遣わしげな表情を向けて来るほど、レーナは顔色を悪くしている。
「シルヴィアさん……お願いがあるんだけど、わたしのために、治癒の魔法を掛けてもらえませんか」
もしかしたら、この世界の彼女は『既に』強力な光魔法に開眼しているかもしれないと、藁にもすがる思いで頼んでみる。
「―――治癒魔法? 嫌ですわ、レーナさん。たしかに私に光魔法の資質はちょっぴりはあるみたいですけど、そんな凄い魔法なんて使えませんよ? お医者様嫌いな子供じゃないんですから、早く医務室へ行きましょう」
見る者を穏やかな心地にさせる微笑は確かにヒロインのグラフィックだが、違うのだ。本来なら彼女はここで強力な光魔法に大きく開眼し、人々を癒し、救う聖女への第一歩を踏み出しているはずだった。
「ほんとにほんと!? ちょっと試してみましょ! 身体の中の魔法の巡りを、パズルに例えたりとかしてみたら、案外出来ちゃったりして!?」
「レーナさん? 苦いお薬が出ない様に、医務室の先生に頼んであげますから、行きますよ」
にっこり微笑んだシルヴィアは、有無を言わさずレーナの手を引き始める。
「いや、そうじゃなくてーーー!」
乙女ゲームのイベントのことも、パズルのことも説明出来ずに騒ぐレーナは、医務室を嫌がって、往生際悪く足掻いている風にしか見えない。エドヴィンや、プチドラは、レーナの様子に何か気付いた風だったが、パズルによる能力開花を訴えようとしているなど思いもよらないはずだ。
「医務室も、お薬も必要ないからぁーーーー!!」
意外に力の強いヒロインに引かれて、ずぶ濡れの令嬢と、情けなく喚く令嬢が医務室へ向かう間抜けな光景は、目を惹く。
その後、男子生徒の間では、「強引美人しっかり者」派と「おさな可愛いうっかり者」派が出来て、しばしば熱く意見を交歓することになったとか、ならないとか。
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