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第4章 最高神 編
第212話 【攻略対象 平凡村娘】真に尊き存在とは
しおりを挟む「聖女レーナ? このお方は、もしやっ……」
朝の出立に、美貌の人外2柱を左右に従えて現れたレーナを前にして、クラウディオ王子は口をはくはくさせることしかできない。
外交用の柔らかな笑顔を崩してはいないが、どこか強張りを感じさせるのは、相手の素性に心当たりがあるからだろう。
「あ、紹介しますね。水の宝珠の化身、水の精霊王ヴォディム様よ」
「びっくりするよねー、また増やしちゃうんだもん。レーナってば」
軽い調子で、つい同意しそうになる言葉を放つのは最高神だ。人を慄かせる筆頭がいけしゃあしゃあとよく言ったものだと、呆れた視線を向けるレーナだ。
「ヴォディムは、豆ドラ、豆マジロと一緒にわたしたちに協力してくれる仲間よ。この先の行軍にも一緒に行ってくれるって。リュザスは憑いてくるけど気にしないで」
きっぱりと言い切られたリュザスが「ひどぉーい」と言いながら、よよと泣くふりをしてレーナにしな垂れ掛かる。だが、頑として意見を変えないレーナと、しぶしぶの体でそれを受け入れる最高神に物申せる人間は居ない。
かくして、最高神を見守り要員として伴った一行は、【木】【土】【水】の宝珠の化身をも伴って、魔族、魔獣の群れを目指して出立した。
その日の夕刻。
予測よりも幾日か早く――平原を埋め尽くす異形の群れが、視界に捕らえられた。
「偵察隊より報告です! 群れ周辺に瘴気が濃く漂っております、お気を付けください!」
焦りを隠しきれない騎士が、クラウディオ王子の前に進み出て報告する。
傾いた陽に照らし出された長い影。もちろん群れの足元にもそれは広がっているが、それ以上に異形の個々がぼやけて見えるほどの黒い瘴気に包まれているのだ。
生きた人間のみならず、宝珠の化身らにも害となり、更には生物を異形へと変質させてしまうのが瘴気だ。瘴気は、絶望や怒りなどの負の感情、自然界を壊す負のエネルギーの凝ったものと伝えられる。
瘴気を浄化できるのは「陽の宝珠」と、それに近しい「光」属性の魔力だ。
ゲームでは、この世界で瘴気を浄化できるほどの強い光魔法が使えるのは、ただ一人ヒロインである聖女シルヴィアとされていた。
「私が、皆様に光の結界を張ります!」
馬車から降り立ち、クラウディオ王子の傍に立ったシルヴィアが、胸の前で両手を組んで静かに瞳を閉じる。
「 清浄なる光の加護ッ 」
光の魔法が輝かしい黄金の光となって、シルヴィアを中心として天高く立ち昇る。
周囲を煌々と照らし出した光の柱は、蕾の様に丸く膨らみ、そこから大輪の蓮の花が開く様に、ふわりと広がりながら騎士魔導士兵団を覆って行く。
乙女ゲームの王子ルートで見た以上に、神々しく美しい光景にレーナは息を飲んだ。
ゲームならばこの守りによって強化された兵団を、クラウディオ王子の緻密な戦略と指揮によって動かし、試練攻略成功に導く。一人の聖女が使う光の魔法だけでは、群れを討伐するには力不足なのだ。それでも、勝利への必須条件となる聖女の光魔法は、小さなスマホ画面で見るよりも遥かに荘厳な美しさに溢れていた。
だが魅入る者らの目の前で、魔力切れを起こしたシルヴィアの身体がふらつき、王子は素早く両腕を差し出す。
「聖女シルヴィア! 大丈夫か!?」
「うっ……ごめんなさい、クラウディオ王子。全ての瘴気を滅する力は、もう……。今の私には味方に守りを施すだけで、精いっぱい……です」
崩れ落ちたシルヴィアを受け止めた王子の腕の中で、彼女は悔し気に顔を歪める。
(尊いわ! スチルには無かったけど、みんなの生き生きとした姿、関わり、全部が素敵で尊いわっ……)
目を輝かせるレーナを中央に、左には肩に豆ドラを乗せたエドヴィン、その隣に大気の宝珠を手にしたアルルク、右には最高神、背後にヴォディム、少し離れて呆れ顔のバルザックと、彼の肩に乗った豆マジロが立つ。
「こんな素敵な仲間に恵まれたら、負ける気がしないわねっ!」
レーナの呟きを耳聡く拾った兵団から「「「おぉぉぉーーーーっ!!!」」」と地鳴りの様な歓声が広がる。何事かと辺りを見回すレーナは、どこを見ても先々の騎士魔導士と視線が交わる。
「なんでっ!? なんで皆に見られてるの!? 今見るべきは、正統派攻略対象とヒロインのツーショットでしょ!?」
「相変わらずレーナは……。もう少し自分の影響力を自覚して欲しいものだな」
大笑いする豆ドラを肩に乗せたエドヴィンが、大きな溜息を吐くが、意味が分からないレーナは首を傾げるしかない。
騎士魔導士兵団らは、聖女シルヴィアの光魔法に守られつつも、視線は自称平凡村娘を中心として威風堂々と並び立つ、錚々たる顔ぶれに魅入り、勇気付けられていた。
この場では、神とそれに次ぐ存在を従えるレーナは、クラウディオ王子と聖女シルヴィアの正統派ペアよりも、人心に訴える影響は大きくなっていたのだが――本人には何の自覚もないのである。
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