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第一章 婚約破棄編
ありがたや~。いや適材適所。家族万歳。
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会議室の円卓の席には既にバンブリア商会の仕入れ、販売に関する権限を持った役員8名が座っていた。
役員は、日用品、衣料品・装飾品、魔道具、武器・防具の4部門に、各2名ずつが割り当てられている。
商会長のオウナを先頭に、わたしとハディスが入室すると、役員全員が起立し、こちらに向かって静かに一礼する。
ここでも、堂々とわたしの隣に立つ自称『護衛』のハディス。
「護衛のハディス様?すぐに会議が始まるのですけれど?」
「興味深いね。僕は静かに見ているからお気遣いなく?情報漏洩が不安だったら、バンブリア男爵夫人からセレネの護衛に就くにあたって、商会業務に関わる事を口外、利用出来ないように、しっかり契約書を交わしているからご心配なく?」
母が、すかさず進み出た執事に渡された文箱から、うっすらと青白い輝く光沢を放つ1枚の紙を取り出し、役員たちにも見えるよう、自分の正面に翳す。
「『王の御璽』に誓っての契約よ。約束を違えることは王家に背くのと同義になるという証の証文ね」
と、示された証文にはまたまた『有翼の獅子』の文様が施されている。
役員たちは「うむ」と頷いたり、納得の意を表しているけど、わたしは全く心中穏やかじゃない!
この短期間に有翼の獅子が、わたしの周りに乱発されすぎじゃない?
そして母よ……さすがは商会主、契約事は抜かりないのね。契約書の承認者が王家なのはやりすぎな気もするけど……。
ちなみに父テラス・バンブリアは名誉顧問の名目で、国内外各地を渡り歩き、素材や商品の売買を行っている。弟ヘリオスも、それに同行したり、手先の器用さを発揮して道具の開発を行っている。
机上の帳簿や人事などに関する仕事は、母オウナが受け持っている。だから、母が商会長なのだ。
「楽にして頂戴。会議を始めましょう」
商会長のキリリとした顔に切り替えた母が告げた言葉に、会議室の空気がピンと張り詰めたのが分かった。
全員が着席した中、一人立ったままのわたしはバッグから一組の靴を取り出す。
「今回、わたしがみなさまへ提案したいのは、これまでの開発品、スナップボタンに続く新機構!このマジックテープをつかった履き物です!」
おぉ、とオウナをはじめ役員達が身を乗り出す。
「このように、閉じたり、外したりが僅かの力、しかも片手で行えるため、小さなお子様や、お年を召した方にも簡単に取り扱っていただけます。また、靴だけでなく、衣服のポケットやバッグの止め口、掲示、結束など、多種の固定に展開できるため、汎用性は計り知れません!」
かつての記憶を元に開発した『マジックテープ』。この素材を作るため、この2年あまり、父と弟が各地を飛び回り、素材収集や技術の確立、職人の確保に飛び回ってくれた。
あくまで、わたしはイメージを伝えるだけで、実際に形になるのは父と弟のおかげ……。ありがたや~。いや適材適所。家族万歳。
ちなみにあの卒業祝賀夜会に父と弟がなかなか来られなかったのは、最終段階に入ったマジックテープの試作機や職人との調整で手が離せなかったからで、わたしの自業自得ってとこがある。
「うまいものだねー」
会議も無事終了し出席者の好評を博したプレゼンに、ほくほく顔で会議室から退出するとハディスが感心したように呟く。
「小さな時からやってますから。積み重ねです。商いを生業にしている人たちはこんなもんですよ」
いや、五つやそこらからプレゼンは達者なものだったって云うのは内緒。
前世の記憶のお陰だとは思うのだけれど、はっきりとは言えない。と言うのも、わたしは前世の名前や姿、年齢、死因……そんなことは全く思い出せない。
その中でも、わたしの記憶に引っ掛かるように残る『物』がある。その物の実現のため、わたしは開発を行っているから、バンブリア商会発展がわたしの目標となっている。
「王都最大のバンブリア商会の君なら、小さな頃から欲しいものは何でも手に入ったんじゃないの?」
「そんなわけありません。 日々、手に入りそうで届かない、歯痒くも、もどかしい日々を送っていますよ」
隣を歩いていたハディスが、ぽかん……と、虚を突かれたような表情をする。
垂れ眼でそんな造っていない顔をされると、少し可愛いかもしれない。
「そうだね。一見何でも持っているようで、満たされないのはみんな同じなのかもね」
さらにふわりと微笑まれれば、思わず心拍数が上がるわ。いや危険。
「疲れましたね!早いところお家に帰りましょう!」
「そうだね、一緒に帰ろうねー」
「んなっ!?何だか言い方!??」
色々誤魔化すために早歩きで商会の門をくぐり、外に出る。
門の左右に立っていた商会の守衛が、ぎょっとしてこちらを見る。
「お嬢様!すぐに馬車をまわしますから、この場でお待ちください」
馬車はいない。そりゃそうだ、いきなり慌てて出て来たんだからきっと母や馭者の小父さんや、商会の人たちも困らせている。けどこんな押し掛け護衛が付いていたら、何だかそわそわして平常心でいられないのも仕方ないんじゃないかなぁ!?
守衛の一人が馬車の手配をするため、わたしたちが今出て来た商会入り口に向かう。
と、建物の裏手から馬車がこちらへ向かってくるのが見える。
あぁ、ごめんなさい!みんなに迷惑かけちゃってるよ!!
「セレネ嬢!」
「お嬢様!」
ハディスと、門前に残った守衛の鋭い声が響く。
「え!?」
くたびれた衣服をだらしなく着崩した、いかにもな風貌の破落戸たち5人ばかりが、思い思いの得物を振り上げながら、わたし目がけて駆け寄って来ていた。
役員は、日用品、衣料品・装飾品、魔道具、武器・防具の4部門に、各2名ずつが割り当てられている。
商会長のオウナを先頭に、わたしとハディスが入室すると、役員全員が起立し、こちらに向かって静かに一礼する。
ここでも、堂々とわたしの隣に立つ自称『護衛』のハディス。
「護衛のハディス様?すぐに会議が始まるのですけれど?」
「興味深いね。僕は静かに見ているからお気遣いなく?情報漏洩が不安だったら、バンブリア男爵夫人からセレネの護衛に就くにあたって、商会業務に関わる事を口外、利用出来ないように、しっかり契約書を交わしているからご心配なく?」
母が、すかさず進み出た執事に渡された文箱から、うっすらと青白い輝く光沢を放つ1枚の紙を取り出し、役員たちにも見えるよう、自分の正面に翳す。
「『王の御璽』に誓っての契約よ。約束を違えることは王家に背くのと同義になるという証の証文ね」
と、示された証文にはまたまた『有翼の獅子』の文様が施されている。
役員たちは「うむ」と頷いたり、納得の意を表しているけど、わたしは全く心中穏やかじゃない!
この短期間に有翼の獅子が、わたしの周りに乱発されすぎじゃない?
そして母よ……さすがは商会主、契約事は抜かりないのね。契約書の承認者が王家なのはやりすぎな気もするけど……。
ちなみに父テラス・バンブリアは名誉顧問の名目で、国内外各地を渡り歩き、素材や商品の売買を行っている。弟ヘリオスも、それに同行したり、手先の器用さを発揮して道具の開発を行っている。
机上の帳簿や人事などに関する仕事は、母オウナが受け持っている。だから、母が商会長なのだ。
「楽にして頂戴。会議を始めましょう」
商会長のキリリとした顔に切り替えた母が告げた言葉に、会議室の空気がピンと張り詰めたのが分かった。
全員が着席した中、一人立ったままのわたしはバッグから一組の靴を取り出す。
「今回、わたしがみなさまへ提案したいのは、これまでの開発品、スナップボタンに続く新機構!このマジックテープをつかった履き物です!」
おぉ、とオウナをはじめ役員達が身を乗り出す。
「このように、閉じたり、外したりが僅かの力、しかも片手で行えるため、小さなお子様や、お年を召した方にも簡単に取り扱っていただけます。また、靴だけでなく、衣服のポケットやバッグの止め口、掲示、結束など、多種の固定に展開できるため、汎用性は計り知れません!」
かつての記憶を元に開発した『マジックテープ』。この素材を作るため、この2年あまり、父と弟が各地を飛び回り、素材収集や技術の確立、職人の確保に飛び回ってくれた。
あくまで、わたしはイメージを伝えるだけで、実際に形になるのは父と弟のおかげ……。ありがたや~。いや適材適所。家族万歳。
ちなみにあの卒業祝賀夜会に父と弟がなかなか来られなかったのは、最終段階に入ったマジックテープの試作機や職人との調整で手が離せなかったからで、わたしの自業自得ってとこがある。
「うまいものだねー」
会議も無事終了し出席者の好評を博したプレゼンに、ほくほく顔で会議室から退出するとハディスが感心したように呟く。
「小さな時からやってますから。積み重ねです。商いを生業にしている人たちはこんなもんですよ」
いや、五つやそこらからプレゼンは達者なものだったって云うのは内緒。
前世の記憶のお陰だとは思うのだけれど、はっきりとは言えない。と言うのも、わたしは前世の名前や姿、年齢、死因……そんなことは全く思い出せない。
その中でも、わたしの記憶に引っ掛かるように残る『物』がある。その物の実現のため、わたしは開発を行っているから、バンブリア商会発展がわたしの目標となっている。
「王都最大のバンブリア商会の君なら、小さな頃から欲しいものは何でも手に入ったんじゃないの?」
「そんなわけありません。 日々、手に入りそうで届かない、歯痒くも、もどかしい日々を送っていますよ」
隣を歩いていたハディスが、ぽかん……と、虚を突かれたような表情をする。
垂れ眼でそんな造っていない顔をされると、少し可愛いかもしれない。
「そうだね。一見何でも持っているようで、満たされないのはみんな同じなのかもね」
さらにふわりと微笑まれれば、思わず心拍数が上がるわ。いや危険。
「疲れましたね!早いところお家に帰りましょう!」
「そうだね、一緒に帰ろうねー」
「んなっ!?何だか言い方!??」
色々誤魔化すために早歩きで商会の門をくぐり、外に出る。
門の左右に立っていた商会の守衛が、ぎょっとしてこちらを見る。
「お嬢様!すぐに馬車をまわしますから、この場でお待ちください」
馬車はいない。そりゃそうだ、いきなり慌てて出て来たんだからきっと母や馭者の小父さんや、商会の人たちも困らせている。けどこんな押し掛け護衛が付いていたら、何だかそわそわして平常心でいられないのも仕方ないんじゃないかなぁ!?
守衛の一人が馬車の手配をするため、わたしたちが今出て来た商会入り口に向かう。
と、建物の裏手から馬車がこちらへ向かってくるのが見える。
あぁ、ごめんなさい!みんなに迷惑かけちゃってるよ!!
「セレネ嬢!」
「お嬢様!」
ハディスと、門前に残った守衛の鋭い声が響く。
「え!?」
くたびれた衣服をだらしなく着崩した、いかにもな風貌の破落戸たち5人ばかりが、思い思いの得物を振り上げながら、わたし目がけて駆け寄って来ていた。
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