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第三章 文化体育発表会編
『月見の宴』覚えてる?
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歌劇の衣装に使用する生地を、全体コーディネートしつつ出演者それぞれに合わせるため、まずは主要キャストに集合してもらった。
そして目の前に並ぶのは華やか可愛いフージュ王国王子、クールな神殿司ギリム、手の届く見守る系ドッジボールアイドルのレッド担当、生粋の貴族たる気品を備えた子爵令嬢。そしていつもの授業中は距離を於いて見守っている護衛ズが、何故かわたしの背後にピタリとくっ付き、歌劇の特別講師ポリンドも相談役として傍に立っている。他にも3人の先生方が、この星組の歌劇の指導に関わっているはずなんだけど、声を掛けたところ「ポリンド様が良いと仰るなら、何の依存も御座いません。」と、この場に加わることを固辞されてしまった。
‥‥まぁ、先生方の気持ちは分からないでもないわ。だって、まずこの場の視覚的攻撃力の高さよ!出演者だけでもハイレベルなのに、護衛ズとポリンドまで交じるもんだから大人の色気までが加わって、殺傷レベルに達してるんじゃないかしら。中央で生地を合わせるだけの役割のわたしの場違い感が激しくて地面に潜り込みたくなるくらい落ち込みそうだわ。は!そうだわ、他の裏方担当の子に応援を頼めばいいのよね。連れがいれば心強いわ!
「どなたか、生地合わせのサポートをしてくださらないかしら?」
声を掛けるけど、周囲はどよっと大きくざわついて「いえいえいえいえ。」「滅相もない。」「見るだけでお腹いっぱいです。」「勘弁してください。」等と、断りの声ばかりが聞えて来る。「この上、バンブリア生徒会長の側で手伝いなんてしたら、一生分の幸運を使い切って死んじゃうかも‥‥。」なんて呟きも耳に入ったけど意味が分からないわ。
けど、他の星組メンバーや担当教員たちは遠巻きになら見ていたいらしく、距離を置いた上でウットリした熱っぽい視線をこちらに向けている。
「まぁ、並大抵の神経の持ち主ではこの場に入ることなど出来んだろう。バンブリア生徒会長、他の生徒たちが気の毒だ。こちらでも手を貸すから進めよう。」
アポロニウス王子が煌びやかな笑顔をギャラリーに振り撒きながら手を振ると、ギャラリーから黄色い悲鳴が上がる。これはあれだ、アイドルってやつね。あくまで観賞用で、隣に立つのは色々とコンプレックスを刺激するから辛くなるのよね。わたしも辛いわ。手の届く系のレッド担当がすがる様な視線を向けて来たから、お互い頑張りましょうね!の気持ちを込めてニッコリ笑顔を返すと、レッドは気合が入ったのか頬を赤くし、と同時に視界に生地を広げたハディスが割り込んで来た。
「皆をあんまり集めておくのも良くないから、さっさと生地を決めてしまおうねー。」
「ハディス様?いきなり協力的ですね。助かりますけど。それじゃあ、始めちゃいましょうか!」
主要キャストに次々と生地を当て、デザイン画を手直ししながら大まかに作っていた型紙も微調整してゆく。この国ではまだ見たことが無い中華風テイストの衣装は、王国で高位にあたる面々の揃ったこの場においても珍しい様で、全員が自分の生地合わせを終えてもその場を離れなかった。
お陰でギャラリーも、ずっとこのアイドル集団に注目し続けて、今日の練習はあまり捗らなかったはずなんだけど‥‥。
「バンブリア会長!今日の生地合わせを見て俄然やる気がわきました!」
「皆さんと同じ舞台を作れるなんて夢みたいです!!がんばります!」
「素敵な皆さんの足を引っ張るような真似は出来ません!しっかり練習します!!」
ぼんやり見ていただけの不毛な時間だったのに反して、力強い決意表明が次々と成され、やる気だけは物凄くアップしたみたいだ。良く分からないけど、みんなに貢献できたなら良かった?
衣装担当の生徒たちを集めての、制作指示があらかた終わったところで、何故か近くに残ったままだったアポロニウス王子とポリンドが静かにこちらへ寄って来た。ギリムや他の王子のご学友は少し距離を置いて、怪訝そうな表情をこちらへ向けているから、彼らにとって何か納得できかねる要件なんだろう。わたしも厄介ごとは勘弁して欲しいんだけど‥‥と、緊張を紛らわすためにゴクリと唾を飲み込む。
またまたハディスが、わたしの視界を遮るようにスッと身体を視線の先へ割り込ませて来た。うん、今回は助かる。
オルフェンズも素早くわたし傍に並んで、隣からそっと伸ばした腕で肩を引き寄せられた。
なんだか2人とも凄く警戒してる?
「あーあ、ちょっとこれ酷い扱いじゃなぁーい?王子様までいるのに不審者扱いなわけー。」
「叔父上は普段の行いがモノを言っているのですよ。」
「何の用だよ。」
目の前にはハディスの背中。そして普段よりも低い声で話す彼からは緊張感が伝わって来るけど、同時に王族にこの態度は、ハディスはよくてもわたしがヒヤヒヤして落ち着かない。
「いやー、さっきのドレス見て思い出したんだけどさ――『月見の宴』覚えてる?」
ポリンドの言葉に、それまでわたしの前に立ち、頼もしく庇ってくれていた背中が、急に弱気にピクリと撥ねた。
そして目の前に並ぶのは華やか可愛いフージュ王国王子、クールな神殿司ギリム、手の届く見守る系ドッジボールアイドルのレッド担当、生粋の貴族たる気品を備えた子爵令嬢。そしていつもの授業中は距離を於いて見守っている護衛ズが、何故かわたしの背後にピタリとくっ付き、歌劇の特別講師ポリンドも相談役として傍に立っている。他にも3人の先生方が、この星組の歌劇の指導に関わっているはずなんだけど、声を掛けたところ「ポリンド様が良いと仰るなら、何の依存も御座いません。」と、この場に加わることを固辞されてしまった。
‥‥まぁ、先生方の気持ちは分からないでもないわ。だって、まずこの場の視覚的攻撃力の高さよ!出演者だけでもハイレベルなのに、護衛ズとポリンドまで交じるもんだから大人の色気までが加わって、殺傷レベルに達してるんじゃないかしら。中央で生地を合わせるだけの役割のわたしの場違い感が激しくて地面に潜り込みたくなるくらい落ち込みそうだわ。は!そうだわ、他の裏方担当の子に応援を頼めばいいのよね。連れがいれば心強いわ!
「どなたか、生地合わせのサポートをしてくださらないかしら?」
声を掛けるけど、周囲はどよっと大きくざわついて「いえいえいえいえ。」「滅相もない。」「見るだけでお腹いっぱいです。」「勘弁してください。」等と、断りの声ばかりが聞えて来る。「この上、バンブリア生徒会長の側で手伝いなんてしたら、一生分の幸運を使い切って死んじゃうかも‥‥。」なんて呟きも耳に入ったけど意味が分からないわ。
けど、他の星組メンバーや担当教員たちは遠巻きになら見ていたいらしく、距離を置いた上でウットリした熱っぽい視線をこちらに向けている。
「まぁ、並大抵の神経の持ち主ではこの場に入ることなど出来んだろう。バンブリア生徒会長、他の生徒たちが気の毒だ。こちらでも手を貸すから進めよう。」
アポロニウス王子が煌びやかな笑顔をギャラリーに振り撒きながら手を振ると、ギャラリーから黄色い悲鳴が上がる。これはあれだ、アイドルってやつね。あくまで観賞用で、隣に立つのは色々とコンプレックスを刺激するから辛くなるのよね。わたしも辛いわ。手の届く系のレッド担当がすがる様な視線を向けて来たから、お互い頑張りましょうね!の気持ちを込めてニッコリ笑顔を返すと、レッドは気合が入ったのか頬を赤くし、と同時に視界に生地を広げたハディスが割り込んで来た。
「皆をあんまり集めておくのも良くないから、さっさと生地を決めてしまおうねー。」
「ハディス様?いきなり協力的ですね。助かりますけど。それじゃあ、始めちゃいましょうか!」
主要キャストに次々と生地を当て、デザイン画を手直ししながら大まかに作っていた型紙も微調整してゆく。この国ではまだ見たことが無い中華風テイストの衣装は、王国で高位にあたる面々の揃ったこの場においても珍しい様で、全員が自分の生地合わせを終えてもその場を離れなかった。
お陰でギャラリーも、ずっとこのアイドル集団に注目し続けて、今日の練習はあまり捗らなかったはずなんだけど‥‥。
「バンブリア会長!今日の生地合わせを見て俄然やる気がわきました!」
「皆さんと同じ舞台を作れるなんて夢みたいです!!がんばります!」
「素敵な皆さんの足を引っ張るような真似は出来ません!しっかり練習します!!」
ぼんやり見ていただけの不毛な時間だったのに反して、力強い決意表明が次々と成され、やる気だけは物凄くアップしたみたいだ。良く分からないけど、みんなに貢献できたなら良かった?
衣装担当の生徒たちを集めての、制作指示があらかた終わったところで、何故か近くに残ったままだったアポロニウス王子とポリンドが静かにこちらへ寄って来た。ギリムや他の王子のご学友は少し距離を置いて、怪訝そうな表情をこちらへ向けているから、彼らにとって何か納得できかねる要件なんだろう。わたしも厄介ごとは勘弁して欲しいんだけど‥‥と、緊張を紛らわすためにゴクリと唾を飲み込む。
またまたハディスが、わたしの視界を遮るようにスッと身体を視線の先へ割り込ませて来た。うん、今回は助かる。
オルフェンズも素早くわたし傍に並んで、隣からそっと伸ばした腕で肩を引き寄せられた。
なんだか2人とも凄く警戒してる?
「あーあ、ちょっとこれ酷い扱いじゃなぁーい?王子様までいるのに不審者扱いなわけー。」
「叔父上は普段の行いがモノを言っているのですよ。」
「何の用だよ。」
目の前にはハディスの背中。そして普段よりも低い声で話す彼からは緊張感が伝わって来るけど、同時に王族にこの態度は、ハディスはよくてもわたしがヒヤヒヤして落ち着かない。
「いやー、さっきのドレス見て思い出したんだけどさ――『月見の宴』覚えてる?」
ポリンドの言葉に、それまでわたしの前に立ち、頼もしく庇ってくれていた背中が、急に弱気にピクリと撥ねた。
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