【完結】女神が『かぐや姫』なんて! ~ 愛され令嬢は実利主義!理想の婿を追い求めたら、王国の救世主になりました~

弥生ちえ

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第四章 女神降臨編

無礼千万なのは百も承知!

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「バンブリア嬢は私のことを無謀だと言うか。」

 学友たちに縋られ、取り囲まれて大騒ぎしていたとは思えない落ち着いた様子でわたしをロックオンしたアポロニウス王子に、やばい‥‥と背筋に冷や汗が伝う。

「えーっと、言葉の綾?ちょっとした勢い?言い間違え?だったりなんかしてー‥‥。」

 まずい、とってもまずいわ。ほとんど平民の大商人と変わらないような男爵家の娘でしかないわたしが、こんな学友とはいえ高位貴族や名だたる肩書を持った集まりの中で、何言っちゃったっけ!?「取り押さえられるような下手な真似」「やろうとするのがそれだけまずい事」そしてとどめの「ないわー。」よね。うん、3つもよく入れたわたし。即座に3つもパワーワードを入れるなんて、我ながらヤバい奴だわ。
 取り敢えず、扉前の騎士さん含めて部屋中の視線が痛いからハディスの後ろにでも隠れようかしら。

 こそこそと、ハディスの背中の生地を掴んで、正面の王子たちの視線から逃れてみる。
 オルフェンズは、わたしが口を開くや姿を隠してしまって隠遁中よ。きっと高みの見物でわたしの窮地を愉しんでるのね。

「バンブリア嬢?君がそこにいるのはこの部屋にいる誰もが分かっているんだが。そのまま頑なな態度を崩さないなら、王族の私に無礼な態度をとったとして何らかの処置を考えざるを得ない。けれど、今出て来るなら友人としての助言だったと笑って済ませることも出来るぞ。」
「はいはい!そっちでお願いしまーす!友人ですっ。」

 ぴっと右手を挙手してハディスの背後から飛び出すと、王子は満足げな笑みを浮かべてハディスの方を向く。
 え?何でハディスなの?

「だそうだ、叔父上。バンブリア嬢は私の友人です。」
「友人なら何人でもいるだろう?僕はセレネの護衛で、常に側に居る存在だからね。」

 ちょっと、この人たち何言いだすの!?何かおかしな空気になってるわよ?カインザなんか信じられないものを見る表情で、わたしとアポロニウス王子の間を視線が何往復も行き来してるし。今その話題全く関係なくない!?いや、わたしの処遇云々の話に関わって来るなら関係大ありだけど、ハディスの『常に一緒にいる存在』ていうのは全く関係ないわよね!?

「まぁ、叔父上を表立って敵に回す気はないからな。――今はそう云う事にしておこう。」

 隣に立つハディスの片眉が跳ね上がったけど、まだ何か言うつもりならやめて――!いたたまれないからっ!

「そっ‥‥そんなことよりっ!」
「そんなこと?」

 顔に熱を持ったわたしとは真逆の、ハディスの落ち着いた声音に益々恥ずかしさが増したのか、頭全体が熱くなって来たから、そろそろ話題転換を図らないと、本格的にわたしの生命の危機が訪れかねないわ!恥ずか死ぬわ!

「今言うべきことではないですよっ。アポロニウス王子は後輩で副会長でお友達。ハディス様は頼りになるわたしの護衛!それだけでしょ。」

 何この羞恥プレイ?いい加減、話を進めてよ!ってつもりで言ったのに、アポロニウス王子は複雑そうに微かに眉を下げ、ハディスはふわりと柔らかい笑みを浮かべてわたしの頭をポンポンと撫でる。
 いや、だから恥ずかしいって‥‥。

「わたしはマイアロフ様から、王子がわたしの影響を受けてどうにかなってるような話しか聞いていないんです。どうしてわたしの名前が出る事態になっているのか教えていただいても良いんじゃないですか?」
「そう言われても何故そんな話になったのかは知らんぞ?バンブリア嬢の影響かどうかは知らんが、私は自分自身を鍛えて来たる将来に僅かでも誇れる自分を作るために、少しでも自分に出来ることを成し遂げたいと考えたのだ!そのためには目下の大きな問題である月の忌子ムーンドロップ討伐に微力であっても助力すべきだと判断したのだ!」

 使命感に燃えて宣言するように拳を握って力説するアポロニウス王子に、愕然とした。だって、これがわたしの影響だって言ったんだとしたらひどい勘違いだと思うもの。

 明らかに嫌そうな顔をしてしまったのか、アポロニウス王子がこちらを見てむっと口角を下げる。

「なんだ!?バンブリア嬢までもが、私が何か間違ったことを言っているというのか?」
「大人のハディス様から諭していただくのが一般的には良いとは思うのですが‥‥どうやらとても不本意ながら、わたしがこの王子サマみたいだと誤解を受けている部分もあるみたいですので、僭越ながらわたし自身からひとこと言わせていただいても構いませんか?」

 王子の「許そう」の言葉を待って、すぅ、と大きく息を吸う。無礼千万なのは百も承知だけど、プロの足を引っ張る真似をする向こう見ずだと思われているのは心外だからね。

「アポロニウス王子の剣の腕はスバル・エクリプスに匹敵するほどだったでしょうか?体術の腕はわたしを凌駕するほどでしょうか?同じ学園生であるスバルは月の忌子ムーンドロップ討伐に領地へ向かいましたが、わたしはそれを見送ることしか出来ませんでした。何故かと言えば、強力な魔物を集団戦術で相手取る場にわたしの様に自己流で尚且つ戦闘慣れしていない者が混ざることによって、全体のバランスを崩して戦闘力を下げてしまうことに繋がると判断したからです。個人で対峙するのであれば、何があっても自己責任で済みますがそうではないのであれば、自己満足の愚行だと思います。」

 個人のスタンドプレイで何とかなるならわたしは迷わずスバルを追っかけて行っているもの!けど今はまだ我慢してるのよ。我慢してるのと、行こうとする王子、違うわよ‥‥ね?50歩100歩?う、うーん、迷惑をかけていないってところでわたしの勝ちよ。

 自信満々に後輩を諭したつもりになっていたわたしに、ギリムが残念な子を見る視線を向けている意味が分かったのは、このすぐ後だった。
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