【完結】女神が『かぐや姫』なんて! ~ 愛され令嬢は実利主義!理想の婿を追い求めたら、王国の救世主になりました~

弥生ちえ

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第四章 女神降臨編

ちょっとは落ち着きなさいよ!!

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「どれ、我の出番だな。我が君のお心を煩わせる、無粋な畜生を始末して来るか」

 ぞろりと蛸の足の様な根を蠢かせて動こうとするトレントの幼木は、わたしの胸までしか樹高が無い。そんな小さな成りで、魔物と対峙なんて出来るわけない。

「ちょっと!あなたまだ幼木なのよ?せっかく配備されたのにこんなところで無理しちゃだめよ。もっと成長するのを待ってから動かないと!」
「ふん、我を人の物差しで測るでない。小娘。黙って我の崇高なる雄姿を見ているがよいぞぉ――!ほっほっほぉぉ――!」

 高笑いを響かせながら、ムルキャン・トレントが勢い良く動き出す。うぞうぞと根を蠢かせて向かう先を見ると、兵舎のすぐ側に連なる様に設置された町を囲む柵の一部が無残に壊され、そこに2階建ての兵舎と変わらない体高の魔物ベヒモスが、鼻息も荒く禍々しい姿を現していた。

 ベヒモスは鋭い2本の角と鬣を持つ、巨大な牛の様な姿で、耳まで裂けた大きな口からは鋭い牙が覗いている。漆黒に近い体表には毛皮が無い代わりに、硬そうな皮膚と隆々とした筋骨が浮き出て、血の様に赤い目が怪しく光っている。

「うわぁぁ!何でこんな王都に近い所に月の忌子ムーンドロップが居るんだ!?」
「出撃準備はまだか!」
「物見からの報告はなかったぞ!!何処から現れたんだ!」

 兵舎内は、ベヒモスの接近にも気付いていなかった兵士達が、突然現れた伝説級の大物との交戦不可避な状況に、恐慌状態に陥っている。

「ほっほっほぉ―――ぅ!!とくと見るがよい、我が君イシケナル・ミーノマロ様の眷属であり、矮小な人間を超越した素晴らしき力を!」

 声高に宣言して、兵士たちに先駆けて一体で突撃して行く幼木は、意外な俊敏さを発揮して丸太のように太いベヒモスの前足の一本に枝や根を絡ませてしっかりと繋がる。
 小さくて軽いとは言え、ベヒモスも違和感を感じたのだろう。不快げに地面に叩き付けたり、他の脚ではたき落とそうとして4本の脚を踏み鳴らし、振り回す。その脚にしっかりと取り付いているムルキャンは、荒々しい動きに振り回されて枝葉をバサバサと揺らし、折れた小枝を撒き散らしながら悲鳴に似た声を上げている。

『ギャオォォォォ―――ン』
「ひぎゃぁあぁぁ――――っ」

 ベヒモスの荒々しい雄叫びと、ムルキャンの断末魔の様な叫びが共に響き渡って、地獄絵図に更に嬉しくない彩を添えて、兵士達の戦意を削ぐ事に一役買っている。現に、兵士たちは武器を手にしてベヒモスを包囲しながらも、手出し出来ずに怖気付いた様にそれぞれの顔を見合わせている。

 ムルキャンが余計な騒ぎを起こすから、兵士の人達が戦い辛くなってるんじゃないの?もぉー!

「なにやってんのよ―――!」
「ヒィィィ!聞いてないぞぉぉ―――!この畜生ごときが、なんと生意気なぁぁぁ……!」

 たまらず注意したわたしの声も耳に入らないのか、ムルキャンはひたすら悲鳴と雑言を叫び続けて、完全に冷静さを失っているみたいだ。ベヒモスに絡み付いて振り落とされないのは凄いけど、それを嫌がって滅茶苦茶に暴れるベヒモスによる予測不可な被害もどんどんと増えて行く。どちらかと言うと、ムルキャンの加入で戦況は良い方に傾くどころか、ちゃんと訓練された兵士達の戦略が取れなくて迷惑の方が大きい。

「ちょっとは落ち着きなさいよ!!」

 咄嗟に、傍に転がっていたソーサーを掴んで、ブーメランの様に放り投げた。ムルキャン目掛けて。

 パキーン

 陶器が割れる高い音が響いて、ムルキャン・トレントの一番高い位置まで伸びていた枝がポッキリ折れると同時に、真っ二つになったソーサーが地面に落ちた。

「むむむぅぅ!何を、ふざけた真似をする、小娘が!!やはりお前は我らの邪魔ばかりをする敵対者であるなぁぁあ!」
「ふざけてんのは貴方でしょ!!何無理やり突っ込んで行って戦場掻き乱してんのよ!?」

 わたしへの怒りで、ようやく混乱から立ち直ったムルキャンがすかさず盛大に文句を言って来るけど、混乱して何も出来なかった状態から正気に戻してあげたんだから感謝して欲しいほどだわ!と、こちらも言い返す。
 すると、意外にもムルキャンは、ばつが悪そうにそろりと視線を逸らして何やらごにょごにょと歯切れ悪く呟いている。

「聞こえないけど!?何も考えずに過信して突っ込んだだけだから言い訳も出来ないんでしょ?」

 呆れたように言えば、ムルキャンはわたしが悪いとでも言いたげに、キッとこちらを睨みつける。

「お前が魔力なんぞ渡してくるから、出来るような気がしたんだろぉぉ!!」
「はぁぁ?」
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