【完結】女神が『かぐや姫』なんて! ~ 愛され令嬢は実利主義!理想の婿を追い求めたら、王国の救世主になりました~

弥生ちえ

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第四章 女神降臨編

信念を現実化する力とでも云うモノか ※ヘリオス視点~セレネ視点

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「もう少し右っ……あと半歩左!そうです、そのまま2歩前へ!」

 ベランダの手摺の上に立って上空を仰ぎ見、大声で指示を飛ばす。

「この辺――?」

 間の抜けた声は、僕の誘導に合わせて獅子の背を右往左往するハディスのものだ。僕以外の皆には、どうやら僕の立つこの位置には獅子の前足があって、ハディス達が居る所には、その背中が在る様に見えているらしい。なので、獅子の体内に居るお姉さまの事は勿論見えるはずもない。だから、ただ1人、見える僕がお姉さまの位置を伝えている。

 膨大な黒い魔力で具現化した獅子は、何か核となるものがあったために魔物化して、人々に漏れなくその姿を見せていたようだ。けれど、僕は、お姉さまを見付け出すために意図して魔力視を切り、魔力で顕現するほとんどを見えないようにしているらしい。……信じられないけれど、ベランダの3人がそう結論を出していたからそうなんだろう。

「良いのでしょうか、僕が王弟陛下であるハディス様を使うような真似をして」

 さすがに気が咎めて、国王陛下の側に跪く王子に声を掛けるけれど、苦笑して首を横に振られてしまった。

「構わないぞ。説明した通り、ヘリオスにしか見えないんだ。君だけが頼りの綱なのだからな。堂々と指示してくれ。普段の鬱憤を晴らすと良い」

 最後の一言は、ほんの少しのいたずら心を起こされたのだろうか。王子は僕に何か活路を見いだしたらしく、先程から表情が明るくなっている。だからと言ってこんな切羽詰まったところで冗談を言われても笑えたものではない。何で王子は僕が姿を見せた途端、こんな風に余裕を持った態度になってしまったのか疑問だ。

「そう云う訳には参りませんが」
「あ!そこっ」

 ピョンと飛んで大きく移動したところで、王子が慌てて立ち上がり、宰相も息を飲んで、僕に静止の意図を伝えようとしてか、手を差し出している。

「な……何でしょう」

 不格好にピタリと止まった僕がそっと足を引くと、王子と宰相は目に見えてほっとした表情になる。

「いや、それ以上バルコニーの内側に足を差し出すのは、出来れば止めて欲しい……。そこは、禁足地だ。――見えていないのだな?」

 王子の声に、側の宰相の強張る顔。明らかに何かありそうだけれど、王子は「気にしなくても良い。気付いて気にしても良くない……」などと歯切れ悪く答えただけだ。ここに一体何か不味いものがあるのだろうかと不安になるけど、何か暖かい気配がするだけで、さっきみたいな嫌な感覚は無い。

「黒い魔力も、それ以外も、見えていなければ、影響も少ないのだな。見えなければ触れた感覚もない。信念を現実化する力とでも云うモノか」

 興味深げにしげしげと眺められる居心地の悪い状態。しかも暖かい感覚のある場所は「なるべく触れないようにして欲しいけれど、何かは聞かない方が良い。ショックで魔力視無効の効果が消えると困るから」などと気になりすぎることを言われてしまった。気になりはするけど、藪をつついて蛇を出すのは嫌なので、追及しないことにした。

 そして、ついに――――

「そこです!!」
「よし、行くぞ!!」

 僕の声に返答するとともにハディスが落下した。
 両腕を大きく開いて落ちて行く、そのすぐ下方には桜色の影が見え隠れしている。

「止まって!!!」

 思わず張り上げた声にハディスが何か反応したのだろう。途端に、ただの落下では有り得ないゆっくりとした速度となって黒い靄に纏わりつかれて見え隠れしながら、徐々にお姉さまの色の見える辺りへ近付いて行く。

 そうしてハディスの伸ばした腕が、微かに見えるお姉さまの一部を探り当てた様に、がしりと掴み桜色と赤色2つの色彩が、一つ所に留まって、落下を止めた。




――― セレネside ―――

 最初に目に飛び込んでいたのは、暖かな赤色の髪だったか、紅色の力強い魔力だったかははっきりしないけど、それでもハディスが来てくれたことはすぐに分かった。

「ハディ!?どうやってここへ来たの!」
「ヘリオスに誘導してもらった」
「へぇっ!?リオスぅ――!?」

 予想外の人物の名前が出て、思わず声が裏返ったのは仕方がない。驚いたのも勿論だけれど、王城までヘリオスがやって来る予定などなかったのに、ここに居る――と云うことは、わたしの不在に気付いて探しに来たと云うことだ。間違いなくお小言が待っている……。

 安心からのがっくり感、思わずため息をつきそうになってハッと気付く。

「あの、来てくれたのは嬉しいんですけど、どうやってここから出るつもりなんでしょう?」

 出られる当てはあるのか?との純粋な疑問だ。
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