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16章 開戦前夜

5話 佐山の領主鬼柳

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 鬼柳儀幽は、佐山の領主である。
 奴国の中で鬼柳に意見する者はいない。
 国王ですら鬼柳には何も言えないのである。
 鬼柳は豊富な軍資金をため込んでいる。
 今は防具に使う鉄と牛鬼の角を集めている。
 牛鬼の角は高価であるが、豊富な軍資金がある。
 兵の刀や槍はすべて牛鬼の角でできている。
 兵も15歳以上の70歳以下の男子を町と村から集めている。
 2000人だった兵は1万人に達する。
 軍の司令官の孟鬼が鬼柳に言う
 「そろそろ、頃合いではありませんか。」
 「いや、まだだ。」
 「何を待っているんですか。」
 「戦には正義が必要だよ。」
 「俺たちに正義ですか。そんなものあるわけないですよー」
 「・・・」
 「すみません。」
 「まあいい、向こうが焦れて動いた時に理由ができる。」
 「そうですか。」
 「孟鬼、お前は軍の準備をしていろ。」
 「はい。」
 「徴兵した兵は使えるだろうな。」
 「大丈夫です。後ろに鬼たちが控えているんです。前に進むしかありませんよ。」
 「ふん、見ものだな。」
佐山の町には、能鬼師が我が物顔で出歩いており、歯向かう者はいない。
 町の中には数百の赤鬼と牛鬼がいるのだ。
 孟鬼には腹心の鬼人が2人いる。
 1000人隊の隊長の雑鬼と同じく1000人隊の隊長の火鬼である。
 孟鬼は2つの1000人隊を切り札に使うことに決めている。
 残りの8000の兵は1000人ごとの8つの隊に分けられ人間の隊長が指名されている。
 彼らは、戦場に出たらただ前に進むだけである。
 後には鬼がおり進まなければ食われてしまう。
 彼らが生きる可能性は前にしかないのである。
 鬼柳の妻の華妖仙かようせんが鬼柳に言う
 「あの孟鬼に任せておいて大丈夫ですか。」
 「あれで剣の腕だけは立つ。」
 「残鬼のようなことにならなければ良いですけど。」
 「奴は腕が立つが己を過信する癖があった。でなければ、負けてはいないよ。」
 「つなとやらには、退場してもらいたいですね。」
 「この戦でつなも命はないさ。大治に助けに着いた頃には何千の軍勢を相手にすることになるのだからね。」
 「この戦が失敗したら、私が行きましょうか。」
 「あの男は好色だ。お前には赤子のようなものだろうな。」
 「それは楽しみね。」
華妖仙は、美しい顔に妖しさを浮かべる。
 鬼柳は戦が起これば、国王に国を守る力がないとして、自分が将軍の地位に着き実権を握ることを考えている。
 そうすれば奴国と倭は戦国の時代に突入することになる。
 鬼柳は倭を倒し、奴国に併合したら、次はどこの国にするか思いを巡らす。
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