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4章 影から出(いづ)るもの

4話 おかげ様

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 夜になり、沙衣と祐二はみおの実家に泊まることになる。
 沙衣はみおの部屋、祐二は順二の部屋で寝ることになる。
 翌朝、朝食を食べると黒川地区の浅子の家にみおの車で向かうことになる。
 沙衣が祐二に注意する。
 「祐二、余計なことしないでね。」
 「余計なことですか。」
 「おとなしくしていればいいのよ。」
 「分かりました。」
沙衣は祐二が何か引き起こしそうで怖い。
 みおは緊張する
 黒川地区に行って人々がモノクロ人間だったらどうするか悩む。
 しかし、行って確かめなければならない。
 みおは車を発進させる。
 車は町を出て、黒川沿いを上流に向かって走る。
 しばらくすると車は集落に入る。
 外で農作業をしている人たちは色があり、普通に見えている。
 みおはホッとする。
 みおは記憶を頼りに黒城家にたどり着く。
 車を敷地の目立たないところへ止め、4人は車を降りる。
 玄関には呼び鈴がない。
 みおが玄関の引き戸を開けるとカギはかかっていない。
 彼女は引き戸を開け、浅子を呼ぶ
 「浅子いるー」
 「はーい」
家の奥から浅子が出てくる。
 やはり、みおの目には、浅子がモノクロ写真の様に色がない。
 沙衣の目にもみおと同じように見える。
 4人は囲炉裏のある部屋に通される。
 浅子はお茶を出す。
 浅子は4人に言う
 「昼ごはん食べて行ってくださいね。たくみと娘も昼には帰ってきます。」
沙衣が浅子に言う
 「浅子さん、あなたは普通の人ではありませんね。」
 「どういうことですか。私には質問の意味が分かりません。」
浅子はそういうと台所に行ってしまう。
 みおが沙衣に言う
 「直接的過ぎますよ。」
 「質問のしようがありません。」
 「沙衣はどう思いますか。」
 「人ではないと思います。」
 「浅子さんでないというのですね。」
 「はい、モノクロ写真の様に色がないほかに人の気配がありません。」
 「そうですか、このまま今の浅子を問い詰めますか。」
 「気づいていない可能性もありますけど、家族が帰ってくる前に聞き出せることは聞きましょう。」
 「そうですね。私が話します。」
みおが浅子に話すことにする。
 浅子が戻ってくる
 「今、昼の用意をしてますからすみません。」
 「浅子、最初の電話の時、誰かに取り押さえられているようだったけど、何があったの。」
 「私が取り乱して、みんなに取り押さえられたの。気絶したみたいだったけど、この通り大丈夫よ。」
 「目が覚めた時、どうだったの。」
 「えっ・・・」
浅子はしばらく黙り込み、そして言う
 「たくみが泣いていたわ。ごめんと何度も謝っていたわ。」
 「それって・・・」
みおが言葉に詰まる。
 沙衣が浅子に言う
 「浅子さん、どうしてだと思いますか。」
 「私が・・・死んだから・・・」
浅子は頭を抱える。
 そこへ、たくみが帰ってきて家の中に駆け込んでくる。
 たくみは、沙衣たち4人に言う
 「おまえたち、浅子に何をした。」
 「話をしていただけです。」
みおが言う。
 沙衣がたくみに言う
 「浅子さんは死んでいるのではないですか。」
 「浅子はここにいるだろ。」
 「その人は、浅子さんではありませんよ。」
 「浅子だ。夫の俺が言うんだ。間違いない。」
順二が言う
 「昼には早いですよね。」
 「そう言えば、たくみさんと娘は昼に帰ってくると言っていましたね。」
祐二が答える。
 みおが言う
 「私たちがここにいることを集落の人々に知られたみたいね。」
 「どうしますか、囲まれるかもしれませんよ。」
順二が言うと沙衣が言う
 「私がいるから大丈夫よ。」
 「沙衣がいるから何とかなりますよね。」
祐二が言う。
 たくみが言う。
 「おまえたちは、無事にここから出られないぞ。」
 「なら、すべて教えてもらえる。」
みおが言う。
 たくみは話し始める。
 「全ては、娘が車にひかれて死んだことから始まったんだ。」
 「娘さんはなくなっていたのね。」
 「ああ、俺たちが駆け付けた時には、すでに死んでいた。」
 「でも娘さんはいるのでしょ。」
 「おかげ様に遺体の影から引っ張りだしてもらったんだ。」
 「浅子もそれを見たのね。」
 「そうだ、取り乱した浅子はみおに助けの電話を持っていたスマホでかけた。」
 「人々はそれを止めたのね。」
 「みんな必死だった。こんなこと外には漏らすことはできないからな。気がついたら浅子は死んでいたんだ。」
 「それで浅子も影から引っ張り出したの。」
 「そうだよ。もう俺1人きりになってしまった。」
 「おかげ様とは何なの。」
 「黒川くろかわ家を継ぐ巫女をそういう。生き神様だよ。」
 「昔から続いているのね。」
 「黒川、黒城、黒田くろだの御三家で巫女の夫が決められる。俺は今のおかげ様の夫になるはずだった。」
 「でも、浅子と結婚した。」
 「そうさ、それで黒城家は御三家から外されたんだ。」
 「こんなこと、いつまで続けるの。」
 「分からない。」
沙衣が聞く
 「おかげ様は、影から死者の影を引っ張り出すほかに何かできるの。」
 「それだけのはずだ。だが黒田家は、荒事専門なんだ。」
 「やくざかしら。」
 「違うよ。土使いの家系なんだ。奴らの土人形は厄介だよ。」
 「土使いは何人いるの。」
 「3人だ。」
沙衣は厄介な連中がいると思う。
沙衣はみおに聞く
 「どうするの。おかげ様は放っておくの。」
 「たくみには、偽物でも浅子と娘は家族だわ。」
 「でも、集落の人たちは私たちを放っておかないわよ。」
たくみは沙衣たちに言う
 「浅子と娘を殺さないでくれ。」
 「私たちは、どうこうするつもりはないわ。」
みおが答える。
 そこに娘が帰ってくる
 「家が皆に囲まれているよ。」
沙衣とみおの目に娘はモノクロ写真の様に色が無く見える。
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