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7章 麗姫

5話 沙衣の顔

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 町長の秘書が沙衣と祐二を迎い入れる。2人は居間に通される。
 居間には町長の白井がいる。
 「麗姫を退治できるのでしょうね。」「そのために来ました。」
 「状況は分かっていますか。」「丸山の祠に麗姫がいるのですね。」
 「そうです。」「祠までの案内と祠に多量の水を撒いてください。」
 「山の中ですよ。」「山火事のためにヘリで水をまくことが出来るはずです。」
 「分かりました。どのくらいですか。」「多いほど良いです。」
 「しかし、どうして水など・・・」「私は水を使って戦います。」
 「そんなことできるのですか。」「私は龍神の巫女です。」
白井はそういうものかと納得するしかない。
 ヘリが出動し丸山の祠の周囲に水をまき始める。マスコミの一部が何をやっているのかと祠へ向かう。
 マスコミが祠に着くと水浸しになっている。マスコミの前に麗姫が現れる。
 「人間どもは何をやっておる。あの空を飛ぶものはなんじゃ。」「あれはヘリコプターです。」
 「なぜ水を撒く。」「わかりません。我々も確かめに来たのです。」
麗姫は、人間の理解できない行動に不安になる。
 沙衣は、町長と共に家の前に出る。マスコミが集まってくる。
 「今から麗姫を退治するのですか。」「そうです。」
 「勝てますか。」「そのために来ました。」
 「お座敷様の後、姿を見せなくなったのはなぜですか。」「今回に関係ないことです。」
町長が言う
 「中野さんが孫を助けてくれると信じています。皆さんも信じてください。」
そして、家の中へ戻って行く。車庫には秘書が運転席に乗り、祐二がトランクに18リットル入りのポリタンクを4個積み込み待っている。
 沙衣と祐二は後部座席に乗り込む。車は丸山に向けて走り出す。車の後ろにはマスコミの車が何台かついて来る。
 祠に着くと地面がぬかるむほどに濡れている。祐二と秘書はとトランクからポリタンクを降ろしふたを開ける。中には水が入っている。
 霧が発生し始める。霧は沙衣にコントロールされている。麗姫が沙衣に言う。
 「かわいいお嬢さんじゃないか。贄が来たかと思ったぞ。」「生贄になるのは、あなたよ。」
麗姫と沙衣は10メートル位離れていたが、麗姫は一瞬で間を詰める。
 沙衣はとっさに水の盾を作る。盾に麗姫の右手が当たる。
 「良い反応じゃ。楽しませておくれ。」
沙衣は右手に水の刀を作り、麗姫を切りつける。刀は、彼女の肩をかする。
 それだけでも鋭い水の刀は、麗姫の肉を裂く、出血するが、すぐに傷口はふさがる。
 沙衣は、麗姫の再生能力は厄介だと思う。
 沙衣は、霧の中に無数の水の刃を作り、麗姫に切りつける。麗姫は舞うようにかわしていく。
 麗姫は、沙衣に迫り両手の手刀を繰り出す。沙衣は盾と刀でかわすが麗姫の方が早い。
 沙衣の体が赤く染まって行く、傷は浅く出血ほどひどくないが稲荷の使いにもらった勾玉に祈りを込めるいとまもない。
 沙衣は麗姫に押されていく。沙衣は後ずさりする。
 祐二は、これはまずいと感じる。マスコミもかたずをのんで見守っている。もちろん撮影は忘れていない。
 沙衣は反撃の隙を狙い続ける。しかし、多量の出血ため盾の維持が難しくなっている。
 麗姫は勝利を確信して言う。
 「どうした、あとが無いぞ。」
水の盾を突き破って手刀が沙衣の腹に刺さる。
 「良い感触じゃ。お前も喰ってやろう。」
麗姫は決着がついたと思って動きを止める。沙衣は力を振り絞って足で地面をトンと鳴らす。
 地面から水のトゲが飛び出し、麗姫を貫く。
 沙衣は、稲荷の使いにもらった勾玉に傷を癒すように願いを込める。沙衣の傷がふさがり出血も止まる。
 彼女は力を振り絞って麗姫の首をはねる。しかし麗姫は死なない。首が命乞いをする。
 「我の負けじゃ。首を戻しておくれ、お前に富をやろう。」
麗姫の目が沙衣の目と合う。麗姫は自分の運命を悟る
 「いやじゃぁぁぁー」
沙衣は麗姫の頭を2つに割る。
 彼女がふらつくと祐二が抱き止め上着をかける。
 マスコミが周りを囲むと祐二が言う
 「怪我をしているのでどいてください。」
祐二は沙衣をお姫様抱っこすると車に乗せる。運転手の秘書が車を発進させる。
 祐二は沙衣に言う
 「大丈夫。」「傷はふさがっているわ。血を流しすぎただけよ。」
 「病院に行こうか。」「必要ないわ。」
車は町長の家に帰って行く。沙衣を白井が出迎える。
 「中野先生、よく退治してくれました。」「何とか勝てましたわ。」
 「怪我は大丈夫ですか。」「傷は治っています。」
沙衣は血で汚れた服から着替える。
 麗姫の死体は警察が回収する。
 沙衣と町長は、家に前に出る
 マスコミが声をかける
 「中野さん、鬼気迫る戦いでしたね。」「ぎりぎりの戦いでした。」
 「勝った感想をお願いします。」「早く事務所に戻りたいです。」
次に町長の白井に質問が出る
 「お孫さん、助かりましたね。」「はい、安心をしています。」
 「これまで多くの人が麗姫に殺されたのですが、その所はどうですか。」
 「亡くなられた方にはお悔やみを申し上げます。もう犠牲者が出なくなったのは喜ばしいと思います。」
2人は質問に答えると家の中へ入って行く。沙衣と祐二は帰る用意をする。
 そして、ロードスターに乗り込み事務所へ向かう。祐二は沙衣に言う。
 「休まなくていいの。」「まだやり残したことがあるのよ。」
2人が事務所に着いた時には暗くなっている。
 沙衣は五條に電話をする。電話には樹が出る。
 「今泉頼幸のことは調べてくれましたか。」「はい、腕の良い陰陽師です。」
 「呪い殺すことはできる。」「相手は陰陽師ですよ。難しい仕事ですね。」
 「依頼料は言い値を払うわ。」「分かりました。引き受けます。」
電話を聞いていた祐二が驚いて沙衣に聞く。
 「今、呪い殺すて聞こえたんだけど。」「そうよ。」
 「人殺しをするなんて。」「私は必要なら何でもするわよ。」
 「そんな・・・」「幻滅した。」
祐二は答えが出ない。でも、沙衣が人殺しをするのは嫌だ。
 彼は沙衣を好きになることは、そんな沙衣も受け入れなくてはならないのかと考える。
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