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14章 海から来たもの

4話 梨沙子、奪われる

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 玄関前の廊下に倒れていた梨沙子は目を覚ます。彼女ははまおがいる部屋の方を見る。そこにははまおの両親が廊下から部屋の中を見ている。
 梨沙子はふらつきながら部屋柄向かう、するといわおが彼女に言う。
 「梨沙子さんは見ない方がいい。他の部屋で休んでいなさい。」「はまおさんはどうなったのですか。」
いわおは返事をしない。代わりに彼の絶望に包まれた顔がすべてを語っている。梨沙子は青くなり、叫ぶ。
 「はまおさん!」
部屋からは返事がない。彼女は両親を押しのけて部屋の中を見る。部屋の中には全裸で抱き合うマビメとはまおがいる。
 「いやあぁぁー」
彼女は思わず叫び、腰砕けになる。廊下に座り込んだ彼女を両親が引きずって他の部屋に入れる。
 はまおの母親のさざみが梨沙子に言う。
 「はまおのことは諦めろ。マビメ様には逆らえねぇ。」「いやーっ、はまおが、はまおが」
梨沙子は泣き叫び続ける。マビメは色事に満足するとはまおを従えて宇高神社に戻って行く。
 島ではその日のうちに、はまおが仕え人に選ばれたことが知れ渡る。
 梨沙子は、疲れ果て抜け殻のようになって寝込む。体も精神もつから果てているはずなのに寝られずにいる。
 彼女は布団の中で涙を流し続ける。そして夜は更けていく。
 深夜、宇野家に忍び込む影がある。影は梨沙子の布団に潜り込もうとする。
 彼女は驚き、叫び声を上げる。
 「いやー、いやーーー」「驚かないでくれ。顔知っているだろ。」
彼女が影をよく見るとはまおの旧友だった。
 「俺は初めて見た時から気に入っていたんだ。はまおはもういねー、分かるだろ。」
男は彼女に抱き着いて来る。彼女は男を突き飛ばし、両親の部屋に逃げ込む。
 さざみが梨沙子に聞く。
 「どうした。なんかあったか。」「男が入ってきて抱き着いてきたんです。」
 「それは夜這いだね。梨沙子さんを欲しい男が来ただけだよ。」「警察を呼ばないと。」
 「梨沙子さんも島の人になったんだから慣れんといかんよ。」「何、言っているんですか。」
 「島の風習があるがね。それに従わないと生きていけないよ。」
梨沙子は一度、島から逃げなくてはけないと考える。そして、はまおを助ける方法を見つけなければならないと思う。

 翌日の早朝、梨沙子は仲良くなった漁師に本土の港まで送ってくれるように頼みこむ。
 事情を知っている漁師は、彼女のことをかわいそうに思い、港まで送ることを引き受ける。
 梨沙子が島を逃げ出したことは、すぐに皆に知れ、若者たちが彼女を連れ戻そうと船を出し追いかける。
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