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第81話 影鬼1

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 貴船きふね町の貴船神社で小学生の男の子たちが影踏み鬼をしている。
 影を鬼に踏まれると代わりに鬼になる遊びだ。
 逃げる子は建物などの影に入って逃げるが、一定時間を過ぎると影から出て別の影へ逃げ込まなくてはならない。
 いつきは、鬼になっていたが、男の子の影を踏み、その子が鬼に代わる。
 樹は社の影に入る。
 10を数えたら別の影に移らなくてはならない。
 樹は走って木の影に入る。
 近くに手ごろな影がない。
 すぐに10になる。
 樹は飛び出して走る。
 鬼役の男の子が樹を追いかける。
 入る影がない。
 その時、突然黒く丸い影が前方に現れる。
 樹はその陰に飛び込む。
 彼は鬼役の子の追跡を振り切ったのである。
 しかし、その影は影を作っている対象物がない。
 影だけがそこにあるのである。
 影から大きな手が出てきて樹の左足を掴む。
 樹は逃げようとするが、手に影の中に引っ張り込む。
 「たすけてー」
樹は助けを求める。
 友達たちが樹を引っ張り助けようとするが引っ張り込む力は強い。
 樹は影の中に引き込まれる。
 子供たちは大人に助けを求める。
 男たちが貴船神社の中を探すが樹は見つからない。
 母親の佐伯由美さえきゆみが駆け付ける。
 由美は子供たちから事情を聴く。
 「影が、手が出てきて樹を引っ張り込んだんだ。」
 「影ってどんな影?」
 「影だけがあるの。」
 「丸い黒い影だよ。」
 「今影はある。」
 「ないよ。」
由美は夫の陽斗はるとに連絡するとともに警察に連絡する。
 警察官が駆け付け、子供たちから事情を聴く。
 しかし、子供たちの話は、影の中に引っ張り込まれたというだけで手掛かりがない。
 警察と消防団で捜索が始まる。
 事件は小学生男子の行方不明事件として報道される。
 捜索は続けられたが何の手掛かりも出てこない。
 神社にはマスコミが集まり、報道を続けている。
 女性レポーターが、カメラの前で話していると足元に影が現れる。
 影は黒く丸い、不思議なのは影を作っている対象物がないのである。
 カメラマンは影を撮る。
 女性レポーターは
 「突然、影が現れました。」
 「この影は何でしょう。影を作っているものがありません。」
と言いながら、影に近づく。
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