氷結セシ我ガ世界

晴れのち曇り

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一章

第十七話

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 雪という天然の化粧を纏った大地を独り歩く。この世界に来て僅か一日、だというのにこれほどまでに濃密な時間を過ごしている。
 普通ならば最初はこの世界の環境や常識、文化に馴染もうとするのだが圭にはそれが思いつかなかった。
 焦っているのかと問われれば、そうだと答えるしかないだろう。しかし圭自身はそれに気がついていない。自分の行動に疑問を持ってなどいない。
 身分証を作って、この世界の金を稼ぐ。確かにそれも大事だと言える。生活基盤を確立する、その面から見れば正しいのだろう。
 しかしそれは、圭のペースではいずれ力尽きてしまう。地球から見知らぬ異世界に飛ばされただけでも精神的にかなりはずだろう。
 圭は走り過ぎているのだ。それに気づいていない現状は危険だと言えるだろう。

 そして、それとは別にもう一つの危険が圭を襲おうとしていた。






















「ガァァァァァァァァァ!!!!!」

 咆哮、だだ吠えた。それだけでまるで吹雪かと思うような猛烈な寒風が吹き荒れた。
 その咆哮はいかなる生命もその脚で立ち上がる事を許さない。
 ただ伏し、こうべを垂れよと命じるかのように感じる。思わず圭もその感覚に従いそうになる。

 だが、耐える。こうべを垂れたその瞬間、、そう直感した。

「ぐ…………っ!」

 襲い来る重圧に屈しそうになるのを地面を踏みしめることで耐える。

「何でこんな奴が森の中にいるんだよ!?こんな街の近くじゃ無くて人が入らないような秘境にいるものじゃないのか!?」

 咆哮ののちに鋭い爪を持つ右前脚から繰り出された横薙ぎの攻撃は圭の身体を切り裂く事なく空を切る。
 しかしその攻撃は古龍の力の程を圭に思い知らせるだけの結果となった。

ーーーこれは不味いな。、勝てないぞ__・__#こいつには。どうにかして隙を作って逃げなければ。

 圭は勝てないと悟って一も二もなく逃走を選んだ。やはり命は大事で、まだ死にたくは無いのだ。

 クルリと古龍に背を向け走り出した。しかし逃げ出した圭をがした。

「待て、矮小なる人の子よ。よくぞ私の一撃を避けた。その実力に免じてこの場は見逃してやろう」

 何処から声が、そんな疑問を持つ事は無かった。不思議と理解出来たのだ。だと。

「私の子が貴様ら人間に攫われた。知っていることが有れば話せ、今の私は機嫌が悪い。早く話さなければ貴様を消し飛ばす」

 幸運5は伊達では無いということか。圭は異世界に飛ばされたその日に最強種に命を狙われた。
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