追想のヒガンバナ

希塔司

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第1章 「悪魔」

第7話「約束して」

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 依頼を終えて2日、私は周と一緒に依頼主と待ち合わせすることになっていた。すみれとの一件があって昨日は1日考えてるだけで過ぎていった。事情があるにしろ、さすがに私自身納得いくような話ではなかったから。


 そんな中で私は依頼主に会う。さすがにこんな顔じゃ示しがつかない。気を引き締めて依頼主と話していくことにする。


 すると向こうから依頼主がやってきたからさっそく報告をしていく。今日は依頼をした女性1人だった。


「終わったわ、無事に。でも本当によかったの?」


「はい、この度は本当にありがとうございました。こちら、残りの報酬です。」


 彼女は私に残りの金額を渡して来た。確かに残りの半分の金額だ。中身を確認して残額と一致したからこれにて依頼は完了。


「ありがと。あなたのこれからが幸せであることを願ってるわ。」


そう言い、私は依頼人から去っていく。依頼人の顔は、とても幸せそうには見えないほど目元が赤く腫れていた。


「よかったのか、もっと声の掛け方とかあんだろ?」


「周、あの人は自分のお父さんを死に追いやった人殺しよ。言わばわたしたちと同じ人種なの。

そんな人たちに情けをかける必要はある?」



私が奥底に根付いている考えだ。依頼人っていう名の殺させ屋、私にはそう聞こえてしまう。


「確かにな、どんな事情があるとしても人を殺してほしいなんて頼む人間にろくな未来なんてない。


おれたちと何ら変わらねぇな。」


 珍しく周と意見が合う日もあるんだなと感じた。あの人がこれから先どのような人生を送るのか見ものではある。



       ーーーーーー

 それから2人で昼食のうどんを食べながら昨日の話を振り返っていた。


「どうなんだあやめ、あの件受けてみる気はねぇのか?」


「正直どうしようかとは考えてる。もし、私たちがこの依頼成功させてしまえば麦国のいいように使われるコマにされるのよ?私たちは自由に動くのがモットーなのにそれすら制限されることになる。

殺さなきゃいけない獲物がうようよいるのに殺せない。逆に殺さなくてもいいような人たちを殺す羽目になる。どう転んでも、先にあるのは地獄だけよ。」

 直感で感じたことを周に伝える。一度大国の依頼を引き受けてしまえばまた都合よく使われるのがオチだと感じた。だが周から放たれた言葉は意外なものだった。


「おれ的にはここは一度協力して麦国が何たくらんでんだか調べんだよ。

そうすりゃいざって時に取引を持ちかけられる。それにあのすみれって子は好きで仕えてるわけじゃなさそうだしな。

上手く出し抜けば、報酬もたんまり受け取れるはずだ。」


 周の意見も確かに理にかなってはいる。いくら国単位で動いてるとはいえ、2人でやればなんとか出し抜くことはできると思う。そうすればしばらくは遊んで暮らせる金を手に入れられる。欲しい化粧品とかもあるからできるならやりたい。


 ただ一つ不安なのことがある。周も感じていたことだ。


「問題は、すみれがどう動いていくかなのよね。恐らく戦闘訓練や埋め込まれた遺伝子を施されてる以上いくら私でも容易にあの子を突破することはできない。

最悪あの力を解放するしかないけど、それだと依頼どこの話じゃなくなるし。」


「協力的な子ならいいんだけどな...」


 私たちはいろいろと考えを巡らせている。もし阿国の師団が聞いている数より多かったら、もしそこに帝国軍と鉢合わせたら、もしすみれが私たちを裏切ったら、考える不安要素だけでもキリがない。



「とりあえずすみれと会う約束してるからそこを詳しくは聞こうと思う。もちろん周も来て、話を聞いて疑うべきところは詰めていかないと。」


「わかった。できることならあまりことは起こしたくはないがな。」


そうして昼食を早めに食べて店を出る。さぁ、すみれ。あなたはどう答えるのかしら。



      ーーーーーーー


「それでいいですよー!私はあくまで先輩たちの役に立ちたいので!」


 すみれと合流して先ほどの話の内容を伝えた。不安要素をなるべく減らしたかったからだ。だがこの回答は予想していなかった。

 それを頷きながらすみれは笑ってそう言ったものだからちょっと拍子抜けだった。物分かりがいいのか、それともすみれ個人には別の目的があるのか。


「随分と素直に要求を呑むんだな。
てっきりおれたちはおまえさんの手のひらで転がされるのかと思ってたが。」


「うーん、さすがに機密事項を言うわけにはいきませんが...私は先輩たちの味方ですよ!

それに麦国は大国ですよ、その気になれば先輩たちは数や技術の差でいずれやられるのがオチ。なら私たちに味方をすることで強い後ろ盾を得られますよ。帝国の幹部も頭を下げてくれる。

麦国にも必要悪になる存在は欲しいんです。
だからこそ裏切ったりはしないです。」



 すみれは力強く説明していった。なら私があと求めるものは...


「ならすみれ、約束して。私がなんとか依頼を完璧にこなしてみせる。だからもうすみれは殺し屋稼業を引退して、お願いだから。」


「どうしてですか?私じゃ不足なんですか?」



 そう言われてすみれが小さかった時のことを思い出す。最初に会った時は常に泣いており実験ごとに泣き叫びながら恐怖でビクビクと隅で過ごしていた。私は一度職員の目を盗んで優しく声をかけた時から常に一緒にいた。


「おねーちゃん大好き!」


 そう言っていたあの頃ともう、別人になっている。


「私は、あなたが誰かの血で染まっていくのを見たくない。あなたが、狂っていくのを見たくないの。」


「残念ですが私は一度欧州諸国との戦いで数百人殺したんですよ?血で染まりながら、国のために次々と殺したんです。もう先輩が知ってる私じゃないんですよ。」



 そうか、そうなのか。もう私が知ってるあのすみれは死んだんだ。今目の前にいるのは、殺すためだけに生きている戦闘狂なんだ。


「...わかったわ。依頼を引き受ける。」


「やっと答えてくれましたね。待ちくたびれましたよ先輩!」

 折れた私に対して喜びを表している。目は笑っていなかったが。


「勘違いしないで、あなたのためじゃない。
私たちの目的のためにあなたを利用する。
ただの仕事上での付き合いでね。」


「それで構いませんよ。私も先輩の働きには期待してますので。では2週間後に港で。」


 すみれはそう言って立ち去って行った。自分でも面倒なことに巻き込まれたなと痛感した。


「よかったのかこれで?」


「えぇ、もうあの子は私が知ってるすみれじゃないもの。いつも通り、依頼として引き受けただけよ。

周、傷国周辺の状況と阿国の行軍予想図を出しといて。それを見て準備しておくから。」


「わかった、あやめもくれぐれも周りに警戒しろよな。」


 そうして私たちは解散して各々準備していく、全ては依頼遂行のために。静かに涙を流しながら私は帝都の奥へと歩いて行った。


       ーーーーーー

「先輩は相変わらず甘い人だなー。」

 私、櫻井すみれは2人と別れて帝都の中にある喫茶店にいる。甘い角砂糖を入れた紅茶を少しずつ飲むのが日課。ゆっくりと街の風景を見ながら少し考え事をしていた。

 私が変わったと言った先輩、私から言わせてもらえば先輩だって変わった。前よりも綺麗で、そして残酷な人になったから。大統領から聞いていたあの人物が原因なのかもしれないと...

「過去からは逃げられない...かー...」

 彼の口癖のようなものだった。今の先輩がまさしくそんな感じ、まるで十字架に貼り付けられた聖女のような人になった。

 対して私は今を生きている。大統領からの任務をこなし、オシャレをしてたくさん美味しいものを食べたり可愛い服を買ったりして充実させている。


 そう、私は変わったんだ。あの頃のままではいけないとそう実感させられたから。

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