月の下で夢を見て

希塔司

文字の大きさ
6 / 12
第1章 エーベの街の少女

第5話「少女の祈り」

しおりを挟む
エリオット達3人は翌朝、『リアナ街』に向かうための支度をしていた。
歩いて行くと1か月近くかかるほど遠いため、マイクに頼んで馬車を用意してもらうことになった。旅のお供として馬車は比較的に安く仕入れられるし馬は世界中でレンタルすることが可能になっているからだ。


「悪いな付き合わせてしまって。」

「いえいえ!むしろ一緒に冒険ができて嬉しいです!
そういえばリアナ街はどんな食べ物が美味しいですか?

「あそこは港町で魚料理とか海鮮物がメインだね、安く仕入れたら美味い料理を振る舞うよ。」

リリアナはそれを聞いたとてもテンションが上がった。食に対するがっつきが違う。育ち盛りだからだろう。
2人はそんな話をしながら荷物をまとめていた。


 一方エリオットは街を散歩していた。
エーベの街中を記憶して後々絵に描くためだ。細かく記憶するためにゴミの位置から商店の看板の名前や色などまで記憶していく。


広場まで歩いて行くと中央に像が立ってありその手前に噴水や植木などが綺麗に手入れしてある。
中央の像に手を合わせて祈っている女の子がいる。ちょうどエリオットと同じくらいの歳の子だ。体が汚れているからきっとスラム街の孤児だ。あの子の近くには箱があり、そこには『どうか一切れのパンを恵んでください。』と書いてある。

気になったエリオットは女の子に話しかけてみることにした。

「すみません、今何しているんですか?」

振り返った女の子は驚き怯えながら答えていく。

「えっと、今私は運命の女神様にお祈りを捧げてました。」

「運命の女神?」


「はい、どうか私の母を救ってくださいと...」

話を聞くと、その少女の母は不治の呪いをとあるモンスターにかけられたと言う。
母の呪いを解くために多額のお金を教会に使ったが治らなかったと。
話すうちに少女は涙を流し悔しがる。やるせ無い気持ちばかりが募って運命を司る女神に祈りを捧げる毎日だと。


「そうだったんですか...
そのモンスターを倒せば呪いって解けるのかな?」

「倒せばきっと治るかなって思ってます。
でもあのモンスターはベテランの冒険者でも尻込みするような個体なんです。
なんでも虚構種と呼ばれる個体で通常の個体よりも遥かに成長しているんです。
倒してくれる人なんて...」

「いますよ、ここに。」

「え?」

エリオットにとって初となる依頼。
そして泣いている女の子には優しく接すると昔父に教わっているからこそ、エリオットは引き受けようとする。


「僕が、僕たちがそのモンスターを倒します!」

エリオットは少女にそのモンスターがどこにいるかとモンスターの特徴を聞きながら絵に描いていった。
最後に目撃したのは北のアール鉱山。
特徴はコウモリの羽、牛のツノ、ライオンのタテガミ、皮膚はまるで鉱石のように硬いと。
この特徴は聞いたことがない、まるで悪魔のようなモンスター。

少女を広場に待たせて急いで2人に相談しにいく。




      ーーーーーー

「っていうことがあったから助けたいんだ!」

「とはいってもエリオット、その特徴はキマイラって可能性があるぞ。
今のおれたちでどこまで通用するか...」


キマイラ。
複数の動物やモンスターの特徴が融合したモンスターで危険ランクはB。
危険ランクごとにモンスターは分類されていて、たとえばスライムはF、この間戦ったリス型モンスターはDに分類されている。

ランクBは中堅の冒険者でも死亡する案件が多発するくらいの強さ。

「でもこのままじゃあの子は、笑顔になれないよ。」

エリオットは悲しい顔をして考え込んでしまった。リリアナもうーんと頭を使ってあることを閃いた。

「酒場に行って強い冒険者を味方につけようよ!そうしたらきっとそのモンスターも倒せるかもしれないよ!」


「とは言ってもこのエーベの街にそんな強い冒険者はいたかな...」

マイクは思い出しながら考えていた。
3人ともなす術がないと落ち込んでいる時に外が何やら騒がしくなっていた。

なにが起きたんだと見に行ってみると、なんとモンスターが街の中に侵入していた。
門番はすでにやられていて街中は大パニックに陥っていた。


「おい、これどうなってんだ!?」

「わからないよ、でも助けなきゃ!
みんな!気合いを入れるよ!」


「「おう!」」

3人は街の人たちの救助をしながらモンスターを退治していった。
危険ランクEのネズミ型のモンスター。
1匹は大したことないが、最低でも1000匹を超える数が街を襲っていた。次第に疲れも出始め、退治するスピードも遅くなっていく。

エリオットはさっきの少女が気になり広場へ走って戻って行った。案の定彼女もモンスターに襲われていた。ネズミたちを次々とひのきのぼうで倒していきながら少女の元へ向かった。

「大丈夫ですか!?」

「あ、さっきの...ありがとう。」

ネズミたちが次々と襲いかかる中、門の方で爆音が響いた。
奥を見ると、なんと全長20mを超える超巨大ネズミが広場の方へ向かって走ってきた。


「あれは、虚構種...」
少女は泣きそうな声でそういった。
現実にはありえないような大きさや強さを持つ個体。それが虚構種と呼ばれている。

「マズイ、あんなでかいのが街の中に入ったら...僕たち含めてみんな食べられてしまうよ...」

エリオットはそのデカさに絶望し始めていた。攻撃手段がひのきのぼうしかない彼ではさすがに無茶がすぎる。逃げることを決めたエリオットは急いで少女の腕を掴み猛ダッシュで逃げる。

体力が続くかぎり全力で走るが、巨大ネズミモンスターは楽々建物を踏んで壊しながら走ってくる。でかいから歩幅ももちろんでかい。

「このままじゃ追いつかれちゃう!?」

2人は死を覚悟した。
その時、



「レインフォーリンググングニル!」

何者かがその言葉を放った。
すると上空に光が差し込み、そこから光の槍が出てきた。
まるで大雨が降ってくるかのように槍が降り注ぎ、巨大ネズミモンスターはもちろん、あれだけいたモンスターをたった一振りの槍が全て貫いて倒してしまった。

そして上空から亜人が降りてきた。
ネコの耳をした女性が、まるで昔絵本に出てきた勇者のような風貌だった。


「やっと、女神様に祈りが通じた...」

少女は涙を流しながら感動していた。



       ~続く~
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...