2 / 13
ORDER01. 殺意の生クリーム
piece 1. オーダーケーキのLizette
しおりを挟む
店内はカフェというよりも小さな教会のようだった。
外から見た印象よりも天井が高く、入って正面のロフトが座席になっている。後ろにはシャープなデザインの大きな窓があり、壁にも窓が多くて光がたっぷりと差し込んでいる。これなら電球が小さいのも頷ける。
フロアは視界を遮る壁の無いホールになっていて、座席は壁際にテーブル席が六個点在しているシンプルなレイアウトだ。シャンデリアや装飾に派手さはないが上品で、まるで物語に出て来るお城のように感じられた。
しかし目を惹くのは中央に聳え立つ巨大な柱だった。それはショーケースになっていて、ぎっしりとケーキが並んでいる。一つとして同じケーキは無く、これがオーダーケーキなのだろう。まさしくケーキの美術館で、間違いなく人気店だろう。
圧倒的なケーキ達に見惚れていると、すいっと一人の青年が近づいて来た。
黒髪に黒い目、黒いシャツに深いブラウンのタイ、黒いロングエプロンをしている。まるでブラックコーヒーのように黒尽くめな姿には異様さを感じたが、生クリームのように白い店内にはフィットしている。何よりその端正な顔立ちはこの店のために作られた芸術品のように見えた。
「お座席にご案内します」
「え?あ、ええと……」
青年は深くお辞儀をし、まるで令嬢をダンスに誘うかのように手を差し伸べてきた。おそらくこの手を取れといっているのだろうけれど、とてもカフェ店員のやる事ではない。
しかしお姫様の様に扱われるのは悪い気はしない。葵はそっとその手を取ると流れるように座席へとエスコートされた。
席に座り店内を見渡したが、不思議な事に客が全くいない。
たとえ味がいまいちだったとしても、この空間にいるだけでも価値があるだろう。行列になっていてもおかしく無さそうなのに、いるのは先ほどの身体を曲げている女性一人だけだ。貴重な客なのかもしれないが、あまりにもくたびれた姿はこの美しい店の品位を下げているように感じざるを得ない。
女性客が視界に入らない座席がよかったなと思っていると、先程の少女が姿を現した。しかしその姿はくたびれた女性客と同じくらいの衝撃を与えた。
パティシエ服のようではあるのだが、翻る短いスカートのドレスはオーダーケーキのように豪華で美しい。身体のラインが分かるデザインだがいやらしさはなく、彫像のような完成度だ。豪華な装飾で飾られているけれど華美ではなく、ミルクのようなドレスにミルクティの髪は高級なスイーツセットのようだった。
しかし一番異様なのは少女が手に持っている杖だった。デザインはティースプーンのようだったが、何しろ杖なので大きさはティースプーンではない。
物語から出て来た王女のような姿はどうみても異様だったが、物語のような店内にはよくなじんでいた。
(……そっか。こういうコンセプトカフェなんだ)
それ以外に解釈が出て来なかった。しかしこのハイクオリティならそれも良い評判になるだろう。
少女は女性客の前に立ち二、三会話をした。内容は聞き取れなかったけれど、女性客はこくんと小さく頷いたようだった。そして少女はティースプーンの杖を掲げた。
「オーダーケーキを作りましょう」
なるほどこうやってケーキのオーダーに入るのか、と特別感のある演出に納得した。
こんな特別な経過を経て手にするオーダーケーキは生涯忘れられない物になるに違いない。何故生クリームまみれなのかは知らないが、あのくたびれた女性も笑顔になるに違いない。
次はどんな演出をするのだろうとわくわくしていると、少女がティースプーンを振り下ろすと同時に女性の身体に乗っていた生クリームがとろりと溶けた。それは床に広がって、少女が杖でトンと突くと宙に飛びあがり集まっていく。
そして少女が再び杖を振りかざすと、生クリームだったそれは杖から溢れる星屑と共に踊りながら固形になった。少女も踊るように杖を振り回すとその度にぽんぽんとバタークリームの立体花が出来上がっていく。
少女が踊り終わると、そこには美しい芸術品となったオーダーケーキが完成していた。そしてオーダーケーキをショーケースにしまうと、床に膝をついて女性客の顔を覗き込む。
「保管期限は一ヶ月。その間に願いが叶う事を祈っています」
少女に頬を撫でられると、女性は支払いもせずあっさりと店を出て行ってしまった。
まさかあの女性客も実は店員で、全て演出だったのだろうか。それにしても生クリームが宙を舞いケーキになって行く魔法のような調理はどんなトリックがあるのだろう。
全く想像がつかずぽかんと口を開けていたが、その時少女がくるりと葵を振り向きにこりと微笑んだ。
「オーダーは決まったかしら、向日葵ちゃん」
大きな紅茶色の瞳に見つめられ、葵の胸はどきりと大きな音を立て始めていた。
外から見た印象よりも天井が高く、入って正面のロフトが座席になっている。後ろにはシャープなデザインの大きな窓があり、壁にも窓が多くて光がたっぷりと差し込んでいる。これなら電球が小さいのも頷ける。
フロアは視界を遮る壁の無いホールになっていて、座席は壁際にテーブル席が六個点在しているシンプルなレイアウトだ。シャンデリアや装飾に派手さはないが上品で、まるで物語に出て来るお城のように感じられた。
しかし目を惹くのは中央に聳え立つ巨大な柱だった。それはショーケースになっていて、ぎっしりとケーキが並んでいる。一つとして同じケーキは無く、これがオーダーケーキなのだろう。まさしくケーキの美術館で、間違いなく人気店だろう。
圧倒的なケーキ達に見惚れていると、すいっと一人の青年が近づいて来た。
黒髪に黒い目、黒いシャツに深いブラウンのタイ、黒いロングエプロンをしている。まるでブラックコーヒーのように黒尽くめな姿には異様さを感じたが、生クリームのように白い店内にはフィットしている。何よりその端正な顔立ちはこの店のために作られた芸術品のように見えた。
「お座席にご案内します」
「え?あ、ええと……」
青年は深くお辞儀をし、まるで令嬢をダンスに誘うかのように手を差し伸べてきた。おそらくこの手を取れといっているのだろうけれど、とてもカフェ店員のやる事ではない。
しかしお姫様の様に扱われるのは悪い気はしない。葵はそっとその手を取ると流れるように座席へとエスコートされた。
席に座り店内を見渡したが、不思議な事に客が全くいない。
たとえ味がいまいちだったとしても、この空間にいるだけでも価値があるだろう。行列になっていてもおかしく無さそうなのに、いるのは先ほどの身体を曲げている女性一人だけだ。貴重な客なのかもしれないが、あまりにもくたびれた姿はこの美しい店の品位を下げているように感じざるを得ない。
女性客が視界に入らない座席がよかったなと思っていると、先程の少女が姿を現した。しかしその姿はくたびれた女性客と同じくらいの衝撃を与えた。
パティシエ服のようではあるのだが、翻る短いスカートのドレスはオーダーケーキのように豪華で美しい。身体のラインが分かるデザインだがいやらしさはなく、彫像のような完成度だ。豪華な装飾で飾られているけれど華美ではなく、ミルクのようなドレスにミルクティの髪は高級なスイーツセットのようだった。
しかし一番異様なのは少女が手に持っている杖だった。デザインはティースプーンのようだったが、何しろ杖なので大きさはティースプーンではない。
物語から出て来た王女のような姿はどうみても異様だったが、物語のような店内にはよくなじんでいた。
(……そっか。こういうコンセプトカフェなんだ)
それ以外に解釈が出て来なかった。しかしこのハイクオリティならそれも良い評判になるだろう。
少女は女性客の前に立ち二、三会話をした。内容は聞き取れなかったけれど、女性客はこくんと小さく頷いたようだった。そして少女はティースプーンの杖を掲げた。
「オーダーケーキを作りましょう」
なるほどこうやってケーキのオーダーに入るのか、と特別感のある演出に納得した。
こんな特別な経過を経て手にするオーダーケーキは生涯忘れられない物になるに違いない。何故生クリームまみれなのかは知らないが、あのくたびれた女性も笑顔になるに違いない。
次はどんな演出をするのだろうとわくわくしていると、少女がティースプーンを振り下ろすと同時に女性の身体に乗っていた生クリームがとろりと溶けた。それは床に広がって、少女が杖でトンと突くと宙に飛びあがり集まっていく。
そして少女が再び杖を振りかざすと、生クリームだったそれは杖から溢れる星屑と共に踊りながら固形になった。少女も踊るように杖を振り回すとその度にぽんぽんとバタークリームの立体花が出来上がっていく。
少女が踊り終わると、そこには美しい芸術品となったオーダーケーキが完成していた。そしてオーダーケーキをショーケースにしまうと、床に膝をついて女性客の顔を覗き込む。
「保管期限は一ヶ月。その間に願いが叶う事を祈っています」
少女に頬を撫でられると、女性は支払いもせずあっさりと店を出て行ってしまった。
まさかあの女性客も実は店員で、全て演出だったのだろうか。それにしても生クリームが宙を舞いケーキになって行く魔法のような調理はどんなトリックがあるのだろう。
全く想像がつかずぽかんと口を開けていたが、その時少女がくるりと葵を振り向きにこりと微笑んだ。
「オーダーは決まったかしら、向日葵ちゃん」
大きな紅茶色の瞳に見つめられ、葵の胸はどきりと大きな音を立て始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~
夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。
しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。
しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。
夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。
いきなり事件が発生してしまう。
結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。
しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。
(こうなったら、私がなんとかするしかないわ!)
腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。
それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
この結婚には、意味がある?
みこと。
恋愛
公爵家に降嫁した王女アリアは、初夜に夫から「オープンマリッジ」を提案される。
婚姻関係を維持しながら、他の異性との遊戯を認めろ、という要求を、アリアはどう解釈するのか?
王宮で冷遇されていた王女アリアの、密かな目的とは。
この結婚は、アリアにとってどんな意味がある?
※他のサイトにも掲載しています。
※他タイトル『沈黙の聖女は、ある日すべてを暴露する』も収録。←まったく別のお話です
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
精霊姫の追放
あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。
「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる