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鯉屋の跡取り編

エピローグ

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 夜も更けて鯉屋の中も寝静まった頃、結の部屋で何かが点滅しているのに気付いた雛依がやって来た。

 「結様、何してるんですか?」
 「あ、ごめん。起こしちゃった?」
 「起きてましたよ。いつも結様が寝るまで起きてます」

 結は雛依を部屋に入れ、おいでおいでと呼び寄せた。
 そして自分の後ろに立たせ、手を雛依からできるかぎり遠くに伸ばすとその手には片手に収まる程度の金属が握られている。

 「動いちゃ駄目だよ」
 「はいっ」

 雛依はぎゅっと結に掴まりひょこりと顔だけ覗かせる。
 そして結はさん、にい、いち、とカウントをして金属の上部をカチッと押した。
 すると何の前触れもなく、金属から急に火が灯った。

 「きゃうっ!」

 雛依はびくんと大きく震え、驚きのあまり尻餅をついてころりと転がった。
 大きな瞳をぱちくりさせている雛依を抱き起してやったけれど、やはり呆然としたままだ。

 「これ何だと思う?」
 「……結様は神様だったんですか?」
 「やっぱりそう見えるよねえ」

 結は金属をじいっと見つめた。
 よく見ればそれは片手で開閉できる蓋が付いていて、開けるとそこには小さな突起が付いている。
 それは彩宮殿で最初に結を襲った男が首にぶら下げていた物だ。

 (……ライターだ。あの男は虹宮の残党じゃない)

 最初の襲撃は、白練とグルだった更夜にとっても予想外の出来事だった。
 予定していたのは残党の襲撃だけなのだ。

 「結様、それなんですか?」
 「現世の道具だよ。不思議でしょ」

 結は白練の作った地図を取り出した。
 そこには幾つかの国が並び名が記されているが、そのうちの一つに目をやった。
 視線の先には《東京》という文字が記されている。

 (ライターに東京なんて偶然とは思えない。跡取りの招待は鯉屋の専売特許じゃないんだ)

 おそらく現世から来た人間がいて、東京というのは現世の人間が支配してると結は考えている。
 結を狙ったという事は恐らく味方ではないうえ、国一つを制圧するほどの攻撃手段を持っているとなると鯉屋は圧倒的に不利だ。
 平和な日本で生きていた結は兵器の構造には詳しくない。

 (現世に協力者が必要だ。それも鯉屋じゃなくて僕個人を優先する人間)

 結はしばらくじっと考えた。
 雛依はきょとんと首を傾げている。

 「ひよちゃんは兄弟いる?」
 「いないです。僕には依都様だけです」
 「そっかあ。僕は僕そっくりのお兄ちゃんがいるんだよ」

 結は雛依の頭を撫でながら、何よりも結を優先し無償の愛を与えてくれる双子の兄を思い出していた。
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