鯉屋異聞~跡取りの異世界征服~

真野蒼子

文字の大きさ
21 / 21
金魚屋の跡取り編

第3話 狙われた鯉屋の跡取りの片割れ

しおりを挟む
 黒曜の要望通り、結は人払いをした。
 雛依は側仕えとしてしっかりしなきゃいけないと思ったのか、椅子には座らず立ったまま結の後ろに控えた。しかし、そんな固いことしなくていいんだよ、と結はいつものように雛依を膝に乗せた。
 この和やかな雰囲気は黒曜を苛つかせているのは見て取れたが、あえて結は雛依をべたべたに甘やかしていた。

 「言いたいことあるなら言っていいですよ」
 「仲睦まじくて大変よろしいかと」
 「棒読み~」

 黒曜はふんとため息を吐いたけれど、逐一相手にしていてはきりがないと悟ったのかコンコンと机を軽く叩いて話をし始めた。

 「まず依都と神威は一緒にいる。これは間違いない」
 「依都様からは大切なお出かけだって聞いてます」
 「正確には神威がだ。ちょいとばかし魂に問題のある人間がいて、その守りにあたってる」
 「へえ。てっきり依都主体なのかと思ってましたけど」
 「依都は必要無いんだ。けどあいつらは引き離すわけにいかないしな」
 「はあ。それ僕らよりも大事な魂なんですか?優先順位低いなら連れ戻してください」
 「最優先だ。何しろ鯉屋の跡取り様の命にかかわるからな」
 「え!?結様に?」

 ぴくりと結の指が震えた。
 現世では既に死んだ結に影響する現世の魂なんてあるわけがない。生死を乗り越え結と繋がる魂があるとすれば、その条件で思いつくのはたった一人だった。

 「……まさか」
 「棗累だ」

 黒曜は結が驚き目を向くと、してやったりとばかりにほくそ笑んだ。
 雛依はその表情にむっとしたけれど、結はそんなことは気にも留めず黒曜をぎろりと睨んだ。

 「魂に問題ってどういうことですか」
 「俺のせいじゃねえよ。双子ってのは魂を共有してる場合がある。何でかは俺も知らん」
 「共有?一つを二人でってことですか?」
 「そうだ。遺伝子が瓜二つだからか、存在が同一視されることがあるな」
 「そっか!それで結様って魂が少ないんですね!」
 「少ない?」

 首を傾げて不思議そうに語る黒曜とは逆に、雛依はぽんっと手を打って大きく頷いた。

 「魂は動力です。動力が少ないから結様は疲れやすいんです」
 「もしかして毎日金魚湯飲むのってそれで?」
 「そうですそうです。だから彩宮へ行く時も疲れちゃったんですね」

 結は魂というのがなんなのか、今ひとつわかっていない。
 現世では概念であり物理的に存在するものではないからだ。しかしこの世界は魂が全てを左右している以上、その有無は確実に何らかの影響がある。それが結の場合は肉体疲労というわけだ。

 「それで、何から累を守ってるんですか?」
 「出目金だ。何でだか棗累だけを狙ってやがる」
 「そんなの変です。出目金は現世の人間には見えないし特定の人間を襲ったりしません」
 「金魚屋が分からないなら俺なんてもっと分からん」
 「結様の片割れだからですかね」
 「出目金が自らか?ねえだろ」
 「いえ、いますよ。僕を殺したい出目金遣い」

 ん、と雛依と黒曜は目を見合わせ首を傾げた。だがすぐに雛依が何かに気付き、シュッと勢いよく手を挙げ飛び跳ねた。

 「はいっ!分かりました!虹宮!」
 「正解。どうしても鯉屋が欲しいんだろうね」
 「またあいつらか……」

 はあ、と黒曜は今日何度目か分からないため息を吐いた。
 しかし結は嬉しそうにすっくと立ちあがる。

 「でもちょうどいいです。黒曜さん、累を連れて来る事はできますか?」
 「ああ。依都に往復手段を持たせてる」
 「やっぱり跡取りの招待は紫音さん独自のものじゃないんですね」
 「道具を使わず素手でやるのは紫音だけだ」
 「道具?黒曜さんは道具を使うんですか?」
 「ああ。説明するより見た方が早いだろうな。付いてこい」

 黒曜はニッと得意げな笑みを浮かべると、結の部屋を出て迷いのない足取りで鯉屋の中を進んで行った。
 結は雛依を抱っこしたまま黒曜の背をじっと見つめ、また、雛依も同じように黒曜を見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

処理中です...