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episode26-2
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そこには非常事態や緊急時対応がつらつらと書き出されている。
その中の項目に個人情報保護があり、漆原はそこをクリックして開いて見せた。
「個人情報漏洩に繋がるエラーが起きたらセキュリティシステム管理者にアラートが飛んでアンドロイドの保有データが転送される。メールが届いたのは俺個人じゃなくてセキュリティシステム管理本部のメーリングリスト。で、俺はその管理者だから正常フロー!」
「……セキュリティ……?」
「大体な、奇跡なら他人の俺じゃなくてお前のとこに送るだろ」
「でも十年以上前のデータが残ってたって!」
「エラーだっつってんだろ。余分なデータ溜めたからメモリ焼けたんだよ。A-RGRYの回収理由は何だった? アンドロイド依存症じゃないぞ」
最初にA-RGRYについて教えてもらった時はアンドロイド依存症に気を取られていたが、漆原は回収理由についても教えてくれていた。
『最大の回収理由は情報管理システムの不具合だ。個人情報漏洩だよ』
回収されたのは個人情報の漏洩だ。洸のように、不具合があったら美作の責任者へ連絡が行く。
つまり奇跡ではなく、なるべくしてなった当然のことだったのだ。
「で、でもお祖母ちゃんのデータばっかりだったじゃないですか!」
「ったりめーだろ。二人暮らしなら映る人間は一人だ」
「嘘! 藤堂小夜子さんだっていたはずですよ!!」
「それは俺が見せなかっただけで映ってる動画がある。見るか?」
「は!?」
確かに久世一家は漆原がピックアップした分しか見ていない。そしてあれが全てだとは一度も言っていない。
「……不思議な事が起こったみたいな言い方してませんでした……?」
「人の心を動かせるかは演出が物をいう」
「ああ、そう……」
美咲は漆原のインタビューや出演番組は細かにチェックしていたが、そういえば何かのインタビューで見事な話術だと評価されていたのを思い出す。
こういう人だった、と美咲は頬をひきつらせた。
「あのな、人間はアンドロイドに依存するがその逆は無い。全ては0と1で作られたプログラムでそこには意思も感情も何もない」
体温のない金属で作られたボディに数字と記号で作られたAIとパーソナル。
それがたまたま人の形をしているだけの事だ。人間が定めたレールから逸脱する事は無い。逸脱すればエラーとなり、強制終了となるセキュリティが組まれている。
奇跡が起きようとしたのなら、それはエラーとして処理される。取るべき行動しか取れないように作られているのだ。
奇跡に見えたのなら、それは開発者がそれだけ優秀だった事の証明でしかない。
「アンドロイドの言葉は作為的な独り言だ。それを奇跡だと言うのならそれも良いだろう。だからお前が選べ」
漆原は新品同様の洸に目をやった。
「解体するか再起動するかだ」
「……再起動します。この子はお祖母ちゃんを覚えてる!」
分かった、と漆原は小さく息を吐いた。
そして洸の首に数本のコードを繋ぎ、パソコンのキーボードを叩き始める。ピ、ピ、と洸の内部から音がする。ピピ、と一度大きな音がすると額に赤い光が浮かび上がった。
丸が横一列に五つ並んでいて、一番左側の丸だけがチカチカと点滅し、数秒すると緑色になり二つ目の赤い丸が点滅し始めた。
首の内側からカチカチという音が聴こえてくる。
「頑張って……」
美咲は祈るように洸の手を握りしめた。漆原は何も言わずキーボードを叩き続けた。
そして額の赤い丸が全て緑になると、ピピ、ともう一度大きな音を立てて額の光は『Loading』という文字に書き換わった。
「ロードが終われば起動する」
「……頑張って。お祖母ちゃんが待ってるの」
漆原は何か言いたそうに目を細めたけれど、何も言わずに洸が動くのを待った。
それから十秒ほどLoadingの文字が光り続け、そしてついにその文字が消えた。美咲はぎゅうっと洸の手を握りしめて、第一声を待つ。
そして、ついに洸はぱかりと目を開けた。
瞳はA-RGRYのデフォルトカラーである落ち着いた赤をしている。カスタム可能なのでデフォルトカラーにしたままである事は少ない。
美咲は自分の心臓がどくどくと鳴っているのが聴こえる。
そしてついに洸は口を動かし喋り始めた。その言葉は――
「初期設定を行います。本機体の氏名を登録して下さい」
その中の項目に個人情報保護があり、漆原はそこをクリックして開いて見せた。
「個人情報漏洩に繋がるエラーが起きたらセキュリティシステム管理者にアラートが飛んでアンドロイドの保有データが転送される。メールが届いたのは俺個人じゃなくてセキュリティシステム管理本部のメーリングリスト。で、俺はその管理者だから正常フロー!」
「……セキュリティ……?」
「大体な、奇跡なら他人の俺じゃなくてお前のとこに送るだろ」
「でも十年以上前のデータが残ってたって!」
「エラーだっつってんだろ。余分なデータ溜めたからメモリ焼けたんだよ。A-RGRYの回収理由は何だった? アンドロイド依存症じゃないぞ」
最初にA-RGRYについて教えてもらった時はアンドロイド依存症に気を取られていたが、漆原は回収理由についても教えてくれていた。
『最大の回収理由は情報管理システムの不具合だ。個人情報漏洩だよ』
回収されたのは個人情報の漏洩だ。洸のように、不具合があったら美作の責任者へ連絡が行く。
つまり奇跡ではなく、なるべくしてなった当然のことだったのだ。
「で、でもお祖母ちゃんのデータばっかりだったじゃないですか!」
「ったりめーだろ。二人暮らしなら映る人間は一人だ」
「嘘! 藤堂小夜子さんだっていたはずですよ!!」
「それは俺が見せなかっただけで映ってる動画がある。見るか?」
「は!?」
確かに久世一家は漆原がピックアップした分しか見ていない。そしてあれが全てだとは一度も言っていない。
「……不思議な事が起こったみたいな言い方してませんでした……?」
「人の心を動かせるかは演出が物をいう」
「ああ、そう……」
美咲は漆原のインタビューや出演番組は細かにチェックしていたが、そういえば何かのインタビューで見事な話術だと評価されていたのを思い出す。
こういう人だった、と美咲は頬をひきつらせた。
「あのな、人間はアンドロイドに依存するがその逆は無い。全ては0と1で作られたプログラムでそこには意思も感情も何もない」
体温のない金属で作られたボディに数字と記号で作られたAIとパーソナル。
それがたまたま人の形をしているだけの事だ。人間が定めたレールから逸脱する事は無い。逸脱すればエラーとなり、強制終了となるセキュリティが組まれている。
奇跡が起きようとしたのなら、それはエラーとして処理される。取るべき行動しか取れないように作られているのだ。
奇跡に見えたのなら、それは開発者がそれだけ優秀だった事の証明でしかない。
「アンドロイドの言葉は作為的な独り言だ。それを奇跡だと言うのならそれも良いだろう。だからお前が選べ」
漆原は新品同様の洸に目をやった。
「解体するか再起動するかだ」
「……再起動します。この子はお祖母ちゃんを覚えてる!」
分かった、と漆原は小さく息を吐いた。
そして洸の首に数本のコードを繋ぎ、パソコンのキーボードを叩き始める。ピ、ピ、と洸の内部から音がする。ピピ、と一度大きな音がすると額に赤い光が浮かび上がった。
丸が横一列に五つ並んでいて、一番左側の丸だけがチカチカと点滅し、数秒すると緑色になり二つ目の赤い丸が点滅し始めた。
首の内側からカチカチという音が聴こえてくる。
「頑張って……」
美咲は祈るように洸の手を握りしめた。漆原は何も言わずキーボードを叩き続けた。
そして額の赤い丸が全て緑になると、ピピ、ともう一度大きな音を立てて額の光は『Loading』という文字に書き換わった。
「ロードが終われば起動する」
「……頑張って。お祖母ちゃんが待ってるの」
漆原は何か言いたそうに目を細めたけれど、何も言わずに洸が動くのを待った。
それから十秒ほどLoadingの文字が光り続け、そしてついにその文字が消えた。美咲はぎゅうっと洸の手を握りしめて、第一声を待つ。
そして、ついに洸はぱかりと目を開けた。
瞳はA-RGRYのデフォルトカラーである落ち着いた赤をしている。カスタム可能なのでデフォルトカラーにしたままである事は少ない。
美咲は自分の心臓がどくどくと鳴っているのが聴こえる。
そしてついに洸は口を動かし喋り始めた。その言葉は――
「初期設定を行います。本機体の氏名を登録して下さい」
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