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第1部 小野山土井高校 2年 川内優太の回想録再刻
第1章 木島一君
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どこから話始めたら良いか分からないけど、とりあえず自分の話をしておこうと思う。
だって、これからずっと僕が彼との話をしていくって言うのに、語り手が何者か分からなかったら読み手も困るもんね。
・・・困るよね?
僕の名前は川内優太(カワウチ ユウタ)って言って、小野山土井高校の2年B組でHR委員をしてるんだ。
ええと、分かると思うけど一応HR委員が何なのか平たく言っておくと、HR(ホームルーム)・・・要は2年B組をまとめる大切な仕事をする人。って肩書きだけで、特に忙しいって訳でも、僕が優秀って訳でもないんだけどね。(丁度決める時に休んでしまって、知らないうちに決まってたなんて・・・)
周りからはよく変わってるって言われるし、自分もよく分かってる。自他共に認める、ってやつだね。どう変わってるかって言うと、身に覚えのない記憶があったり、突然人が変わったように難しい言葉を使ったりするのが変なところかな?希によく分からない夢も見るなぁ。
んー、まぁ自己紹介はこれくらいにして、どういう経緯で彼と出会った・・・いや、再会したのか、今度はもう少し小説っぽく書いていくとするよ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
2年生になって夏も終わり、少し肌寒くなってきた。ちょうど一昨日とその前から夏服から合服への移行期間が始まって、長袖にベストの姿の生徒もチラホラ見える。
僕はといえば、極端に寒いのが苦手なもんだから、移行期間初日の前日から慌ててタンスの奥から長袖のカッターシャツを引っ張り出してきて、さっきまで来てた夏服を洗濯機に放り込み「もう二度と着てやるか!」と罵倒してやったくらいだ。
とは言え長袖は襟周りがきつくて、大抵皆第1ボタンを外してしまっている。無論、僕もその1人である。
「いやー!寒くなるの早いね!俺もう冬服着てきたいくらいだよ!」
派手な金髪に長い前髪はくくられ、指定外の長袖のブラウスを来たバッチリ校則違反の彼は湯田友也(ユダトモヤ)。意外にも僕の幼なじみである。
「わかるよ。でもお昼になるとぽかぽかしてくるんだよねぇ。ちょっと暑いくらいだ。」
「でも夏服はもう着ないんでしょ?」
「当たり前」
たわいも無い会話をするのは好きだし、特に友也とは気が合う。ちなみになぜ彼がこんなに目立つ格好をしているにも関わらず、厳しい生徒科の先生に捕まらないのかと言うと、(とても驚くかもしれないが)彼は大人顔負けの超天才メカニックで、ずば抜けて成績がいいからである。要は贔屓。hiiki。
「あ、そうだ。修学旅行の班員どうする?俺ら友達いないから出来れば2人で行動したいけど・・・」
「皆まで言うな。辛くなるだろ。」
図体の大きな変わり者と派手派手な天才には類友なんて言葉は無く、昔からずっと2人でいる為今更友達増やそうなんて思った事が無いが、こればっかりは・・・
「最低でも3人で、か。」
「ほらほら、3人よればなんとやらってやつでしょ?道に迷わない様にって。」
「このでもクラスで仲良くなれそうな奴なんて・・・」
どんな奴を誘えばいいのか、大体の目星はつく。要は僕らみたいに少人数、又は1人でよく行動してる人を見つければいいんだ。けど、残念な事・・・いい事なんだけど、クラスメイトが皆フレンドリーなせいで誰かが一人でいるなんて事は滅多にない。
「あ!いるじゃん。なんだっけ、名前。」
友也が珍しく眉間に皺を寄せて糸目を更に細めた。
「あっ!そうだ!えーと、木島!きしま、、、木島ハジメだ!!!」
木島一と言えば、友也と同じような体型のやつだ。確か孤児院出身で、里親と暮らしてたけどその2人も亡くなって、今一人暮らしだとか言う、アニメのキャラクターみたいなやつ。
「でも木島、修学旅行来るのかなぁ?ここんとこずっと休んでるよね。」
確かに夏休みが開けて姿を見たのはほんの十数回だ。
「家庭の事情があるとは言え、単位大丈夫なのかな」
「ぅんや、去年も同じクラスだったけど、俺に負けじ劣らずな天才だったよ。」
「ええ・・・」
化け物みたいな天才が2人も同じクラスだなんて、クラス分けはどうなってるんだろう。
進級出来たもの友也と同じ贔屓なんだろうか・・・
「家行く?」
「は?」
友也の突拍子もない台詞には毎回驚かされるが、今回のも例外では無い。いや、何を言ってるんだコイツ。
「だから、誰だっけ、あ、そうそう。木島んちの住所聞いて、家に行ってみる?って。電話出ないし、あいつ。」
「迷惑にならない?」
「あいつわりと面白いやつだから多分入れてくれると思うよ。家に居たらの話しだけど。」
あれやこれや話しているうちに、放課後木島一の家に行くことが決定してしまった。
木島の家は学校からかなり遠い所にあった。電車で15分くらい揺られて、降りた駅からさらにバスで15分。
「金もかかるし。」
帰り電車賃を気にしながら歩くこと5分。そこには、こじんまりした愛らしいアンティーク調の「おうち」って感じの一軒家があった。表札には木島の文字。
「ここだ。チャイムが・・・あれ、ない。」
「これじゃない?」
見るとドアに海外ドラマでよく見るノックする時の輪っかが着いていた。天使かなにか、子供が輪っかを持っているデザイン。(後で聞くとドアノッカーって言うらしい。)
なれない手つきでそれを鳴らすと、パタパタと足音が聞こえてきた。
「はぁい」
出てきた人を見て驚愕。友也も驚きを隠せていない様だった。
そこに居たのは愛くるしい女の子だったのだ。
黒くてサラサラの髪をなびかせ、長い前髪から大きな瞳を覗かせている。
「えっと・・・木島一君の家で合ってますか・・・?」
「合ってるよ。て言うか、僕が木島一。」
「ええっ?!」
まさかこんなに可愛い女の子が同い年の青年だったなんて!
「あぶねー、あまりにも可愛いくって、あわよくば付き合いたいなんて思っちゃったよ。」
相変わらずヘラヘラと、友也が続ける。
「しばらく見ないうちに髪伸びたんだね?」
「髪?ああ、あんまり気にしてなかった。私的には長い方が楽だからね。」
僕は彼の喋り方に少し違和感を感じたが、友也の方が何ら気にかけて居ないようだったので知らないふりをした。
「所で2人は・・・ああ、言わなくていいよ。修学旅行の話だろう?僕は行かないよ。理由がないからね。」
「でも最低でも3人でって言われちゃってさぁ。俺らお互いしか友達いないから弱っちゃってて。」
「知ってる。大きい方は周りから変わってると言われて自信をなくしてるし、金髪の君は大人顔負けのメカニックで優秀だが見た目ゆえ近づきがたい、そんな所だろ」
「流石だなぁ」
一瞬の事でよく分からなかったけど、今コイツ僕の事ズバリ言い当てなかったか?!
「名前は?流石の変わり者にも名前はあるだろう。私にすら着いている様に。」
「覚えてないかぁ、俺去年同じクラスだったんだけど。」
「君は覚えてるよ。名前だけね。湯田友也君だろ?」
やはり違和感を感じる。コイツ、さっきから一人称が定まってない。「僕」って言ったり「私」って言ったり。
「そこでしかめっ面してるでかいのは川内優太。おい、ゆーた。なんちゅう顔してんだよ」
「あ、いや、ごめん。よろしく。」
「よろしくね。」
握手を求められたので慌てて手を出したが、間違えて同じ方向の手を出してしまった。握手なんていつぶりだ?!
ちょっと思い返した瞬間だった。
反対の手だというのにも関わらず、木島は僕の手を鷲掴んで引っ張った。
「久しぶり、ワトソン君。」
彼が耳元で囁いた瞬間、モヤモヤとした過去の記憶が一気に鮮明になった。
そして、すべてを思い出した。
僕の名前は
ジョン・H・ワトソンであること。
そして
彼の名前は
シャーロック・ホームズであることを。
だって、これからずっと僕が彼との話をしていくって言うのに、語り手が何者か分からなかったら読み手も困るもんね。
・・・困るよね?
僕の名前は川内優太(カワウチ ユウタ)って言って、小野山土井高校の2年B組でHR委員をしてるんだ。
ええと、分かると思うけど一応HR委員が何なのか平たく言っておくと、HR(ホームルーム)・・・要は2年B組をまとめる大切な仕事をする人。って肩書きだけで、特に忙しいって訳でも、僕が優秀って訳でもないんだけどね。(丁度決める時に休んでしまって、知らないうちに決まってたなんて・・・)
周りからはよく変わってるって言われるし、自分もよく分かってる。自他共に認める、ってやつだね。どう変わってるかって言うと、身に覚えのない記憶があったり、突然人が変わったように難しい言葉を使ったりするのが変なところかな?希によく分からない夢も見るなぁ。
んー、まぁ自己紹介はこれくらいにして、どういう経緯で彼と出会った・・・いや、再会したのか、今度はもう少し小説っぽく書いていくとするよ。
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2年生になって夏も終わり、少し肌寒くなってきた。ちょうど一昨日とその前から夏服から合服への移行期間が始まって、長袖にベストの姿の生徒もチラホラ見える。
僕はといえば、極端に寒いのが苦手なもんだから、移行期間初日の前日から慌ててタンスの奥から長袖のカッターシャツを引っ張り出してきて、さっきまで来てた夏服を洗濯機に放り込み「もう二度と着てやるか!」と罵倒してやったくらいだ。
とは言え長袖は襟周りがきつくて、大抵皆第1ボタンを外してしまっている。無論、僕もその1人である。
「いやー!寒くなるの早いね!俺もう冬服着てきたいくらいだよ!」
派手な金髪に長い前髪はくくられ、指定外の長袖のブラウスを来たバッチリ校則違反の彼は湯田友也(ユダトモヤ)。意外にも僕の幼なじみである。
「わかるよ。でもお昼になるとぽかぽかしてくるんだよねぇ。ちょっと暑いくらいだ。」
「でも夏服はもう着ないんでしょ?」
「当たり前」
たわいも無い会話をするのは好きだし、特に友也とは気が合う。ちなみになぜ彼がこんなに目立つ格好をしているにも関わらず、厳しい生徒科の先生に捕まらないのかと言うと、(とても驚くかもしれないが)彼は大人顔負けの超天才メカニックで、ずば抜けて成績がいいからである。要は贔屓。hiiki。
「あ、そうだ。修学旅行の班員どうする?俺ら友達いないから出来れば2人で行動したいけど・・・」
「皆まで言うな。辛くなるだろ。」
図体の大きな変わり者と派手派手な天才には類友なんて言葉は無く、昔からずっと2人でいる為今更友達増やそうなんて思った事が無いが、こればっかりは・・・
「最低でも3人で、か。」
「ほらほら、3人よればなんとやらってやつでしょ?道に迷わない様にって。」
「このでもクラスで仲良くなれそうな奴なんて・・・」
どんな奴を誘えばいいのか、大体の目星はつく。要は僕らみたいに少人数、又は1人でよく行動してる人を見つければいいんだ。けど、残念な事・・・いい事なんだけど、クラスメイトが皆フレンドリーなせいで誰かが一人でいるなんて事は滅多にない。
「あ!いるじゃん。なんだっけ、名前。」
友也が珍しく眉間に皺を寄せて糸目を更に細めた。
「あっ!そうだ!えーと、木島!きしま、、、木島ハジメだ!!!」
木島一と言えば、友也と同じような体型のやつだ。確か孤児院出身で、里親と暮らしてたけどその2人も亡くなって、今一人暮らしだとか言う、アニメのキャラクターみたいなやつ。
「でも木島、修学旅行来るのかなぁ?ここんとこずっと休んでるよね。」
確かに夏休みが開けて姿を見たのはほんの十数回だ。
「家庭の事情があるとは言え、単位大丈夫なのかな」
「ぅんや、去年も同じクラスだったけど、俺に負けじ劣らずな天才だったよ。」
「ええ・・・」
化け物みたいな天才が2人も同じクラスだなんて、クラス分けはどうなってるんだろう。
進級出来たもの友也と同じ贔屓なんだろうか・・・
「家行く?」
「は?」
友也の突拍子もない台詞には毎回驚かされるが、今回のも例外では無い。いや、何を言ってるんだコイツ。
「だから、誰だっけ、あ、そうそう。木島んちの住所聞いて、家に行ってみる?って。電話出ないし、あいつ。」
「迷惑にならない?」
「あいつわりと面白いやつだから多分入れてくれると思うよ。家に居たらの話しだけど。」
あれやこれや話しているうちに、放課後木島一の家に行くことが決定してしまった。
木島の家は学校からかなり遠い所にあった。電車で15分くらい揺られて、降りた駅からさらにバスで15分。
「金もかかるし。」
帰り電車賃を気にしながら歩くこと5分。そこには、こじんまりした愛らしいアンティーク調の「おうち」って感じの一軒家があった。表札には木島の文字。
「ここだ。チャイムが・・・あれ、ない。」
「これじゃない?」
見るとドアに海外ドラマでよく見るノックする時の輪っかが着いていた。天使かなにか、子供が輪っかを持っているデザイン。(後で聞くとドアノッカーって言うらしい。)
なれない手つきでそれを鳴らすと、パタパタと足音が聞こえてきた。
「はぁい」
出てきた人を見て驚愕。友也も驚きを隠せていない様だった。
そこに居たのは愛くるしい女の子だったのだ。
黒くてサラサラの髪をなびかせ、長い前髪から大きな瞳を覗かせている。
「えっと・・・木島一君の家で合ってますか・・・?」
「合ってるよ。て言うか、僕が木島一。」
「ええっ?!」
まさかこんなに可愛い女の子が同い年の青年だったなんて!
「あぶねー、あまりにも可愛いくって、あわよくば付き合いたいなんて思っちゃったよ。」
相変わらずヘラヘラと、友也が続ける。
「しばらく見ないうちに髪伸びたんだね?」
「髪?ああ、あんまり気にしてなかった。私的には長い方が楽だからね。」
僕は彼の喋り方に少し違和感を感じたが、友也の方が何ら気にかけて居ないようだったので知らないふりをした。
「所で2人は・・・ああ、言わなくていいよ。修学旅行の話だろう?僕は行かないよ。理由がないからね。」
「でも最低でも3人でって言われちゃってさぁ。俺らお互いしか友達いないから弱っちゃってて。」
「知ってる。大きい方は周りから変わってると言われて自信をなくしてるし、金髪の君は大人顔負けのメカニックで優秀だが見た目ゆえ近づきがたい、そんな所だろ」
「流石だなぁ」
一瞬の事でよく分からなかったけど、今コイツ僕の事ズバリ言い当てなかったか?!
「名前は?流石の変わり者にも名前はあるだろう。私にすら着いている様に。」
「覚えてないかぁ、俺去年同じクラスだったんだけど。」
「君は覚えてるよ。名前だけね。湯田友也君だろ?」
やはり違和感を感じる。コイツ、さっきから一人称が定まってない。「僕」って言ったり「私」って言ったり。
「そこでしかめっ面してるでかいのは川内優太。おい、ゆーた。なんちゅう顔してんだよ」
「あ、いや、ごめん。よろしく。」
「よろしくね。」
握手を求められたので慌てて手を出したが、間違えて同じ方向の手を出してしまった。握手なんていつぶりだ?!
ちょっと思い返した瞬間だった。
反対の手だというのにも関わらず、木島は僕の手を鷲掴んで引っ張った。
「久しぶり、ワトソン君。」
彼が耳元で囁いた瞬間、モヤモヤとした過去の記憶が一気に鮮明になった。
そして、すべてを思い出した。
僕の名前は
ジョン・H・ワトソンであること。
そして
彼の名前は
シャーロック・ホームズであることを。
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