1 / 75
第一章「愛されぽっちゃり双子と悪役令嬢の姉」
1
しおりを挟む
――お、ねぇさま、お姉様ぁ……っ‼︎
体を離して‼︎僕たちを庇ってたらお姉様が……‼︎
泣き叫ぶ弟妹の声色が、だんだんと遠くなる。リリアンナ・エトワナ公爵令嬢は、間違いだらけの人生を悔やみながらも、二人だけは守ると固く誓う。
――私の愛しい……。いい姉でなくて、ごめんなさい。
死の間際、彼女の頬には一筋の透明な涙が流れ、それはやがてドス黒い血の海に飲まれて跡形もなく消えていった。
♢♢♢
エトワナ公爵家は、王族の傍系である由緒正しき家柄。貴族至上主義の両親と、容姿振舞共に完璧と謳われる長女リリアンナ。そして男女の双子ケイティベルとルシフォードは、八つ年上の姉に似ずぽっちゃりで愛くるしいマスコットのような存在。
このセントベルト王国では、男女の双生児は繁栄の知らせとして崇拝されており、この二人も例に漏れずそれはそれは大切に育てられた。
父アーノルドは長女リリアンナ誕生時にあからさまに落胆し、母ベルシアに「なぜ男児を産まない」と責めたらしい。それは愚かなことであるのだが、男性優位のこの国では反論のしようもなく、難産で痩せこけた唇を噛み締めた。やり場のない悔しさを美しい赤子に向け、一度も抱き締めることなく乳母に任せきりだった。
八年の時を経て産まれた双子の存在は、長年肩身の狭い思いをしてきたベルシアを救う救世主。国王からも「国の宝」と祝辞を賜り、影を落としていたエトワナ家に差し込んだ眩い光。リリアンナとの扱いは雲泥の差で、たっぷりの愛情を注がれた二人はすくすくと育ち、少々育ち過ぎるほど育ち、見事ふっくら愛らしい令嬢と令息へと成長を遂げていった。
長女リリアンナは、自身が誰からも期待されていないことを知りながら、将来は家の為少しでも両家の令息と婚約を結べるよう、血の滲むような努力をして知識と教養を身につけた。
母親譲りの美貌はそのままに、父親のような賢才を備え読み書きはもちろん他国語まで身に付けた。その甲斐あってか、彼女は国の第二王子と婚約を結んだ。が、ちょうどその頃に双子が誕生した為に、形式上の祝辞はあっても両親は彼女に祝福の言葉すらかけなかった。
また、リリアンナは自分にも他人にも厳しいきらいがあり、妥協という言葉を知らない頭の固い性分だった。
彼女はただ、これまで努力を強いられる立場にあった為甘えることを知らないだけなのだが、他者から見ればそれは情のない冷たい姿に映っていた。
婚約者である第二王子レオニルも、可愛げがないと彼女を敬遠した。所詮家格に物を言わせた政略結婚だと、嫉妬した令嬢達から陰口を叩かれる。それでも一切の感情を面に出さず、その人の為にと思って熟女らしからぬ振る舞いを注意した。
いつしかリリアンナは「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、それが自分のことだと知った日は自室に篭って一人で泣いた。
それ以外にも様々な理由が重なり、リリアンナと双子の差はますます開いていく。けれど彼女は決して腐らず、粛々と己の為すべきことをこなしていく。
冷静で口調もはっきりとしており、端正でメリハリのある顔立ちのせいもあって誤解されがちなリリアンナだが、本当は家族思いの優しい性格。歳の離れた弟妹が好き過ぎてつい世話を焼いてしまい、しかもそれを嫌がらせとして誤解されていた。
自分より遥かに愛され可愛がられているケイティベルとルシフォードを、恨む気持ちなど一切ない。いつかあのもちもちとしたふくよかな頬に思いきり頬擦りしたいと、彼女はそんな可愛らしい夢を見ていたのだった。
体を離して‼︎僕たちを庇ってたらお姉様が……‼︎
泣き叫ぶ弟妹の声色が、だんだんと遠くなる。リリアンナ・エトワナ公爵令嬢は、間違いだらけの人生を悔やみながらも、二人だけは守ると固く誓う。
――私の愛しい……。いい姉でなくて、ごめんなさい。
死の間際、彼女の頬には一筋の透明な涙が流れ、それはやがてドス黒い血の海に飲まれて跡形もなく消えていった。
♢♢♢
エトワナ公爵家は、王族の傍系である由緒正しき家柄。貴族至上主義の両親と、容姿振舞共に完璧と謳われる長女リリアンナ。そして男女の双子ケイティベルとルシフォードは、八つ年上の姉に似ずぽっちゃりで愛くるしいマスコットのような存在。
このセントベルト王国では、男女の双生児は繁栄の知らせとして崇拝されており、この二人も例に漏れずそれはそれは大切に育てられた。
父アーノルドは長女リリアンナ誕生時にあからさまに落胆し、母ベルシアに「なぜ男児を産まない」と責めたらしい。それは愚かなことであるのだが、男性優位のこの国では反論のしようもなく、難産で痩せこけた唇を噛み締めた。やり場のない悔しさを美しい赤子に向け、一度も抱き締めることなく乳母に任せきりだった。
八年の時を経て産まれた双子の存在は、長年肩身の狭い思いをしてきたベルシアを救う救世主。国王からも「国の宝」と祝辞を賜り、影を落としていたエトワナ家に差し込んだ眩い光。リリアンナとの扱いは雲泥の差で、たっぷりの愛情を注がれた二人はすくすくと育ち、少々育ち過ぎるほど育ち、見事ふっくら愛らしい令嬢と令息へと成長を遂げていった。
長女リリアンナは、自身が誰からも期待されていないことを知りながら、将来は家の為少しでも両家の令息と婚約を結べるよう、血の滲むような努力をして知識と教養を身につけた。
母親譲りの美貌はそのままに、父親のような賢才を備え読み書きはもちろん他国語まで身に付けた。その甲斐あってか、彼女は国の第二王子と婚約を結んだ。が、ちょうどその頃に双子が誕生した為に、形式上の祝辞はあっても両親は彼女に祝福の言葉すらかけなかった。
また、リリアンナは自分にも他人にも厳しいきらいがあり、妥協という言葉を知らない頭の固い性分だった。
彼女はただ、これまで努力を強いられる立場にあった為甘えることを知らないだけなのだが、他者から見ればそれは情のない冷たい姿に映っていた。
婚約者である第二王子レオニルも、可愛げがないと彼女を敬遠した。所詮家格に物を言わせた政略結婚だと、嫉妬した令嬢達から陰口を叩かれる。それでも一切の感情を面に出さず、その人の為にと思って熟女らしからぬ振る舞いを注意した。
いつしかリリアンナは「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、それが自分のことだと知った日は自室に篭って一人で泣いた。
それ以外にも様々な理由が重なり、リリアンナと双子の差はますます開いていく。けれど彼女は決して腐らず、粛々と己の為すべきことをこなしていく。
冷静で口調もはっきりとしており、端正でメリハリのある顔立ちのせいもあって誤解されがちなリリアンナだが、本当は家族思いの優しい性格。歳の離れた弟妹が好き過ぎてつい世話を焼いてしまい、しかもそれを嫌がらせとして誤解されていた。
自分より遥かに愛され可愛がられているケイティベルとルシフォードを、恨む気持ちなど一切ない。いつかあのもちもちとしたふくよかな頬に思いきり頬擦りしたいと、彼女はそんな可愛らしい夢を見ていたのだった。
39
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる